東京高等裁判所 昭和52年(行ケ)23号 判決
事実及び理由
一 請求の原因(一)ないし(三)は当事者間に争いがない。
二 そこで、審決を取り消すべき事由の有無について検討する。
(一)1 第一引用例と本願考案との一致点と相違点に関する認定(但し、ピストン取付軸を細形板で薄手に成形することによつて蓋部挿入孔からの挿入を容易にしている点でも両者が一致するとの点を除く)は当事者間に争いがない。
2 そこで、本願考案と第一引用例記載のものは共にピストン取付軸を細形板で薄手に成形することによつて蓋部挿入孔からの挿入を容易にしているといえるかどうかについて考えてみる。
(1) 前記当事者間に争いのない本願考案の要旨と成立に争いのない甲第三号証(本願考案についての実用新案出願公告公報)によれば、本願考案においては、直杆状のピストン取付軸を機枠に抵触することなく蓋部挿入孔より挿入するためピストン取付軸6を上下二枚の細形板7、8で成形し、先端10は7を彎曲させて8に添接一体状に固着して薄手に成形したものであることが認められる。
しかし、前記甲第三号証によれば、本願考案においてピストン取付軸を形成する「細形板7、8」がどの程度の細さの板であるかは実用新案登録請求の範囲中に何ら記載されておらず、また考案の詳細な説明中にも格別説明がないことが認められるので、その作用効果から解釈するほかないところ、同号証によれば、その作用効果はピストン取付軸を機枠に牴触することなく、蓋部挿入孔から挿入しうることにあると認められるから、「細形板」とは右のような挿入を可能にする程度の細さのものであると解される。また、「薄手に成形」とは、ピストン取付軸の先端部分10が一方の板7を彎曲させて他方の板8に添接一体状に固着して成形されていることをいい、これによりピストン取付軸を機枠に抵触せずに蓋部挿入孔から挿入しうるという作用効果を得るものであることは、前記甲第三号証により明らかである。
(2) これに対し、第一引用例の記載内容についての審決の認定は原告の争わないところであり、これによれば、第一引用例における上下二枚の板218、219で形成されたすべり軸221(前記甲第三号証と成立に争いのない甲第四号証の一をあわせ考えると、これが本願考案におけるピストン取付軸6に相当することは明らかである)はケース210に蓋部挿入孔から挿入されるものであるから、右の板218、219は当然ケース210に抵触せずにその挿入が可能な程度の細さのものであると推認でき、またすべり軸221の先端部が一方の板219を彎曲させて他方の板218に添接一体状に固着して成形されているという構成によつて、すべり軸221を蓋部挿入孔からケース210に牴触せずに挿入しうるという作用効果を奏すると認められる。
原告は、第一引用例においてすべり軸の挿入が容易となるのは、右軸を細形板で薄手に成形したからではなく、ケースとシリンダーとを別体に構成し着脱自在ならしめたからである旨主張する。
たしかに、成立に争いのない甲第四号証の一(第一引用例)によれば、ケース210とシリンダー211を螺継していることが認められるから、第一引用例のものにおいてはケース210とシリンダー211は着脱自在な別体のものとなつており、このことがすべり軸の挿入を容易ならしめることに寄与していることはうかがえるけれども、この点よりも、すべり軸221を上下二板の細板で成形し、先端部が一方の板219を彎曲させて他方の板218に添接一体状に固着して成形されているという前記の構成がすべり軸の挿入を容易にする重要な役割をしていることは明らかである(第一引用例第一図参照)。
(3) そうすると、本願考案のフロアーヒンジはケース主体とシリンダーを一体に形成したものである(このことは当事者間に争いがない)関係上ピストン取付軸の挿入の容易化をピストン取付軸を細形板で薄手に成形するという手段のみによつて達成しようとしたのに対し、第一引用例のものはすべり軸の前記のような構成がケースとシリンダーを着脱自在な別体としたことと相まつてすべり軸の挿入を容易にしているという差異があるとしても、ピストン取付軸(すべり軸)を細形板で薄手に成形するという前記の構成およびその作用効果においては、両者の間に本質的な差異がなく、原告主張のような相違はないといえる。
(二)1 次に、原告は、本願考案のフロアーヒンジは蓋部挿入孔の大きさに制約のある丸型挿入孔のフロアーヒンジ(以下、「丸型フロアーヒンジ」という。)を対象としたものであるのに、第二引用例は、蓋部挿入孔の大きさに制約がないためピストン取付軸の挿入に何ら困難性のない角型挿入孔のフロアーヒンジ(以下「角型フロアーヒンジ」という。)に関するものであるから、第二引用例は本願考案についての引用例として適格がない旨主張する。
審決は、そのいわゆる構成要件(A)について第二引用例を引いたものであるが、その引用の可否について、丸型フロアーヒンジであるか角型フロアーヒンジであるかの構成の相違が意義を有するかはしばらくおき、前記甲第三号証によれば、本願の実用新案登録請求の範囲には本願考案のフロアーヒンジが原告主張のような丸型フロアーヒンジである旨の記載はなく、また詳細な説明欄にもその旨の記載は全くない。同号証の第二図には丸型フロアーヒンジらしい構成が図示されているが、同図は本願考案の一実施例を示すに過ぎないから、右のような図面があるからといつて、本願考案の要旨を限定的に解釈する根拠とはなしえない。
もつとも、前記甲第三号証(とくに1欄25~31行の記載部分)によれば、本願考案は直杆状のピストン取付軸を蓋部挿入孔から機枠内に挿入する際にそれが機枠に牴触して挿嵌し難い種類のフロアーヒンジを対象として、その欠点の除去を意図したものであることは認められるけれども、右のような挿嵌の困難性があるのは丸型フロアーヒンジに限られ角型フロアーヒンジには挿嵌の困難性がない、とはいえない。すなわち、丸型フロアーヒンジには蓋部挿入孔の大きさに原告主張のような制約があるのに対し角型フロアーヒンジは丸型フロアーヒンジのように蓋の中心に扉軸貫通孔を位置せしめる必要がないため、扉を取り付ける出入口の柱の側面と扉軸との間隔という観点だけからみた場合は、蓋部挿入孔を大きくするについての制約がないといえるとしても、蓋部挿入孔の大きさは右のような観点からだけではなく、装置の機械的強度等の観点からする設計上の制限がある(装置の機械的強度を大きくするという点からは蓋部挿入孔は大きくない方がよい)ことは見易い道理であるから、角型フロアーヒンジといえども、蓋部挿入孔の大きさが自由でない以上、直杆状のピストン取付軸の挿入に困難があることを否定できないのである。
そうすると、成立に争いのない甲第四号証の二(第二引用例)によれば、第二引用例は角型フロアーヒンジに関するものであることが認められるけれども、本願考案についての引用例適格があるというべきである。
2 そして、第二引用例の記載内容および第一引用例と本願考案の相違点(審決のいう構成要件(A))それ自体が第二引用例に記載されていることは当事者間に争いがなく、そうすると、右構成要件(A)に基づく作用効果が第二引用例においても得られることは明らかである。
(三) そうすると、本願考案は第一、第二引用例に基づいて極めて容易に考案できるとした審決の判断はこれを正当として是認でき、審決を取り消すべき事由はない。
三 よつて、原告の本訴請求を棄却することとする。
〔編註〕本願考案の要旨は左のとおりである。
発条1でピストン2をシリンダー3内に押圧挿入させる様にしたフロアーヒンジの任意のカム装置4によつて扉軸5と連動する様にしたピストン取付軸6を上下二枚の細形板7、8にて成形し、該軸の基部9は上下よりカム4を挾持する様にし先端10は一方7を彎曲11せしめて他方8に添接一体状に固着して薄手に成形せしめ、ケース主体に、該軸が先端より挿入しうるような一体状に成形した蓋部の挿入孔12と、発条1とピストン2とを挿入し該軸の先端にピストン2を軸着し得るような孔13を他端に設けて成るフロアーヒンジの油圧軸の構造