大判例

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東京高等裁判所 昭和52年(行ケ)25号 判決

一 原告の請求原因及び主張の一ないし三は当事者間に争いがない。

そこで本件審決にこれを取消すべき瑕疵があるかどうかについて考える。

二 本件発明が特許出願された昭和四三年当時、アルミニウムの脱脂、エツチング、中和、水洗、陽極酸化、電着塗装及び焼付の各処理工程を連続的に行なうことは、アルミニウムの表面処理工程としては周知であつたことは当事者間に争いがなく、また、本件発明が、アルミニウムの電着塗装のための一連の工程を長手方向に縦づりで行なう点で新規であることも争いがない。しかして、成立について争いのない甲第二号証の二(本件発明の明細書)によれば、本件発明の特許出願前行なわれていたアルミニウム電着塗装の連続表面処理は、素材を横づりにしてするものであつたことが認められ、本件発明は、この従来横づりにして行なわれていた連続表面処理を縦づりにしてした点に新規性があるものと認められる。

しかしながら、引用例(成立について争いのない甲第三号証明細書)には、細長い金属管等の浸漬塗装の縦づり処理が示されており、本件発明において、従前横づりで行なわれていたアルミニウムの、周知の連続表面処理を縦づりにして行なう程度のことは、右引用例の記載に基づいて当業者が容易に発明できたものと認められる。

三 原告は、「アルミニウムの連続表面処理を縦づりで行なうことの技術的困難性」について述べているが、本件発明は、その特許請求の範囲に記載のとおりの「アルミニウムの脱脂、エツチング、中和、水洗、陽極酸化、電着塗装及び焼付の各処理工程(本判決注。右各処理工程を連続的に行なうことは、アルミニウムの表面処理工程としては周知であつたことは、前記のとおり、当事者間に争いがない。)において被処理材をすべて長手方向に縦づりにして処理することを特徴とするアルミニウムの連続表面処理方法。」であつて、「被処理材をすべて長手方向に縦づりにして処理する」点に新規性ありとして出願されたものであり、縦づりにして処理することにつきいかに原告主張のような技術的困難があつたとしても、その困難を解決する方法の発明について出願したものとは認められないから、本件訴訟においてその技術的困難性を述べることにはなんの意味もない。

四 原告はまた、引用例には金物一般の浸漬塗装の縦づり処理が示されているにすぎず、電着塗装に関する問題点の開示は何もないと主張し、先ず、引用例は塗料容器の形状とその中に充填される浴液の構成によつて塗料の節減をはかつた発明であり、被処理材を縦づりにすることによる作用効果を意識した発明ではないという。しかし原告のこの主張は到底首肯できない。なぜなら、「細長き塗料容器を地中に垂直に埋設し、容器内の下層は水を充たし、其上層に比較的僅少の塗料を充た」(特許請求の範囲の項)せば、その容器の中に出入させられるべき「細長き金属」(同特許請求の範囲)には、縦づりでなければ塗料を施し得ないのであり、引用例中「縦づり」という文言が用いられていないからといつて引用例のものが被処理材を縦づりにすることによる作用効果を意識していないということはいえないからである。

原告は、次に、引用例の浸漬塗装法における塗料の粘度は非常に高いのに対し、本件発明の電着塗装法における塗装浴の粘度はそれに比べるとはるかに低いから、引用例には本件発明におけるような処理液の離脱を速かに行なうという思想はないのに、審決はこの点をみすごしているとの趣旨の主張をする。

なるほど、本件明細書には従来の横づり法では液切れが悪いのに、本件発明の縦づり法ではそれがよい旨の記載はある(第一頁下から四行目、第二頁第五行目、第三頁第八行、第一四行、第二〇行)。しかしながら、引用例においても、その処理液の流下の速さは、仮りに本件発明のそれに比べれば小さいとしても、細長い被処理材が容器上部の塗料層を上部から下部に垂直に通過する際に塗装され、更に容器下部に入るにしたがい右塗装された塗料は水中で被処理材に固着する(引用例第一二二頁第二、第三行参照)から、処理材を容器から引上げる際被処理材に付着する処理液(塗料及び水)は、被処理材を横づりにして塗装する場合に比し、より速かに流下離脱することは見易いところである。従つて、原告の右の点に関する主張は理由がない。

五 原告は、引用例には本件発明におけるような、脱脂、エツチング、中和、水洗、陽極酸化、電着塗装及び焼付という異種の一連の工程を結合させることの開示はないと主張する。審決認定のように、引用例においても塗装と乾燥という異種の作業工程の結合が開示されているものと認めるのが妥当であるかどうかはともかくとして、本件特許出願当時、アルミニウムの脱脂、エツチング、中和、水洗、陽極酸化、電着塗装及び焼付の各処理工程を連続的に行なうことは、アルミニウムの表面処理工程としては周知であつたことは前認定のとおりであり、本件発明は、従来横づりで行なわれていた右連続表面処理を縦づりで行なうようにしたものにすぎないから、引用例に異種の作業工程の結合の開示があると認められようと、ないと認められようと、それは本件発明の進歩性の判断には無用のことである。原告の右の点に関する主張も理由がない。

六 原告は、本件発明は作用効果の点において引用例とは格段に異なると主張する。しかしながら、原告が主張するような本件発明の作用効果も被処理材を縦づり処理することによる当然のものと認められ、予想外のことではない。原告のこの点の主張も理由がない。

七 以上のとおりであつて、本件発明が特許法第二九条第二項の規定により特許を受けることができないとした本件審決に違法の点はなく、その取消を求める原告の請求は理由がないからこれを棄却する。

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