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東京高等裁判所 昭和52年(行ケ)35号 判決

一 請求原因一ないし同三の事実は当事者間に争いがない。

二 そこで、原告が主張する取消事由の存否について検討する。

1 先願考案の要旨認定について

成立に争いのない甲第三号証によれば、先願考案の実用新案登録請求の範囲には、「モノブロツク電槽において、接続導体が貫通し又は越える部分の隔壁の肉厚を隔壁の他の部分よりも厚くしたことを特徴とする蓄電池電槽」と記載されているだけであつて、「肉薄の隔壁には複数のリブが並行して突出分布されていること」については記載がないことが明らかである。

しかしながら、右甲第三号証によれば、先願考案の明細書には、「第一図及び第二図は本考案の一実施例を示す電槽の要部斜視図、第三図は従来の電槽の要部斜視図である。」(図面の簡単な説明の項)、「6、6´は隔壁に設けたリブ」(第一頁右欄一三行~一四行)と記載されており、これらの記載と右第一図及び第三図によれば、先願考案は肉薄隔壁に複数のリブを並行して突出配設させた蓄電池電槽の改良に係るものであることが明らかであり、他方、成立に争いのない乙第一号証ないし第三号証によれば、蓄電池電槽の隔壁にリブを並行して突出配設させることは蓄電池電槽の分野における慣用の技術であると認められる。

そうすれば、先願考案は、その実用新案登録請求の範囲中に、先願考案の前提たる蓄電池電槽の分野における慣用技術、すなわち、隔壁に複数のリブを並行して突出配設せしめることを構成上当然の前提として包含しているものと解しうるから、審決が、先願考案はリブに関する構成を潜在的に包含するものと認定したことに誤りはない。

原告は、本願発明の「仕切壁に沿つて分布せしめられた複数の垂直に延び横に突出するリブ部材」に相当する構成はそれ自体又はその付加によつて別の考案を成立させうる別個の要素であるから、「隔壁」なる要素に新しい別個の要素である「リブ部材」を勝手に付加して認定することは許されないと主張しているが、前示認定のとおり、このように構成されたリブ部材は蓄電池電槽の分野における慣用の技術であるから、かかるリブ部材の構成自体又は単なるその付加は別異の考案を成立せしめうるものではなく、右主張は理由がない。

2 対比について

(一) 原告は、先願考案の「接続導体が貫通し又は越える」べき孔は、単純な貫通孔ではなく、その第二図に示されている凹欠部4のごとき形状の凹入部構造を必須とするものである、と主張する。

そこで検討するに、前掲甲第三号証の明細書の記載によれば、従来のモノブロツク電槽はその隔壁が薄く形成されているので、接続導体で単電池間を接続する場合、隔壁と接続導体との接触部分が狭く、両者の接着面積も狭くならざるをえないので、接触部分における気密を保持することが非常に困難であるという欠点があり、この欠点を除くために、先願考案は、接続導体が貫通し又は越える部分の隔壁を他の隔壁部分より厚く構成したものであり、この構成により、接続導体と隔壁との接着面積が広くなり、それによつて両者の固着も確実で、完全に気密を保持することができ、かつ、隣接単電池間の漏洩距離もおのずと長くなり、更に、隔壁ひいては電槽を補強するなどの作用効果を有するものであることが認められる。

ところで、前掲甲第三号証における先願考案の第二図には、接続導体5が隔壁を越える構成が示されており、その接続導体が越える部分たる凹欠部4(符号の7は4の誤記と認める。)には凹入部分を形成したものが示されているが、明細書には、その考案の詳細な説明の項にも、その凹入部分の構成ないしそれに基づく作用効果についての説明はない。

以上のように、接続導体が貫通し又は越える部分の隔壁を厚くした構成と考案の詳細な説明の項における目的ないし作用効果の記載とが十分照応していることと、第二図に示されている凹入部分については詳細な説明の項にそれに相応する具体的な説明もされていないこと及びこの点については実用新案登録請求の範囲にも何も記載されていないことを考え合せると、先願考案の「接続導体が貫通し又は越える」べき孔が、原告主張のように、凹入部構造だけを必須要件とするものとは認められない。

そして、先願考案の明細書には、「一般に区画のあるモノブロツク電槽を使用せる蓄電池において、各単電池間の隔壁を貫通し又は越えて各々の単電池を接続する方法が種々提案されている。」(第一頁左欄一八行~二一行)との記載があり、この記載と成立に争いのない甲第五号証、同乙第四号証、同第五号証によれば、モノブロツク電槽において隔壁に接続導体を貫通させて単電池を接続する構成は周知慣用の事項であると認めることができる。

ことに、先願考案の実用新案登録請求の範囲の項には「接続導体が貫通し又は越える部分の隔壁」と記載されているのであるから、先願考案の図面には、接続導体が肉厚を厚くした隔壁を越える構成のものしか示されていないけれども、先願考案は、このような構成のものばかりでなく、接続導体を肉厚を厚くした隔壁に貫通させる構成のものをも含んでおり、その図面においては一実施例が示されているに過ぎないことが明らかである。

そして、先願考案の肉厚を厚くした隔壁が本願発明の仕切壁及び扶壁に相当することは明らかであり、また、先願考案において接続導体を貫通させる構成のものにおいては隔壁に孔が形成されるのは当然のことである。

したがつて、審決が、本願発明の要件(4)の「仕切壁及び扶壁を貫通する孔」と同一の構成を先願考案が具備しているとしたことに誤りはない。

(二) 原告は、審決が、先願考案において本願発明の要件(6)及び(7)の構成を具備しているとしたのは誤りであるという。

しかしながら、前記1の項に説述のとおり、先願考案はリブ部材を構成上包含していると認むべきものであるから、審決が本願発明の要件(6)の構成を先願考案においても具備しているとしたことに誤りはない。

要件(7)についても、前記先願考案の明細書には、「なお隔壁の肉厚を厚くした部分3はリブ6を兼ねることもできる。」(第一頁右欄一五、一六行)との記載があり、これによれば、先願考案においても、肉厚を厚くした隔壁部分(本願発明の仕切壁及び扶壁に相当するもの)をリブとして用いる場合があり、その場合には、これと先願考案において包含していると認められる他の複数のリブ部材とが協同作用する(電極板を平行な整列状態に保持する作用をする)ことになるのは当然のことであるから、その協同作用上、構成においても肉厚隔壁部分は、複数のリブ部材と平行な表面部分を提供するように形成されるべきものである。したがつて、審決が、本願発明の要件(7)の構成は先願考案においても具備されているとした点にも誤りはない。

なお、原告は、先願考案の図面に示されているリブは隔壁に沿つてテーパ状になつている表面部分を有するから電極板の整列保持の目的を有するものではないと主張しているが、前掲乙第三号証によれば、壁面に沿つて傾斜(テーパ)する表面部分を有する突条(リブ)であつても電極板を整列保持させることができることは明らかであるから、原告の右主張は当らない。

3 相違点に対する判断について

(一) 原告は、本願発明の要件(5)について、これは二つの導電性部材が別個の接続導体を介して接続されるのではなく、二つの導電性部材の一部が扶壁の両側から貫入され、中間衝合点で溶着されていることを意味するものであるという。

そこで検討するに、成立に争いのない甲第二号証(本願発明の明細書)によれば、

「在来の蓄電池は……比較的厚い壁を必要とする。電池製造技術における近年の改良はポリプロピレンのごとき熱塑性プラスチツク材料による軽量のケースの製造を可能にした。熱塑性プラスチツクケースは比較的薄壁に作ることができ……」(第一欄三一行~三七行)、

「本発明は、軽量薄壁構造と壁貫通セル間接続という利点を組合せた改良された電池ケース提供にある。……。本発明の他の目的は、仕切壁を貫通する信頼できるセル間接続を可能ならしめる改良された電池ケースの提供にある。本発明の叙上の目的及びその他の目的は、セル間接続部の領域で各仕切壁の少なくとも一方の側に扶壁を備えた薄壁電池ケースの提供によつて達成される。」(第二欄一三行~二六行)、

「扶壁15の目的は、電池ケースの仕切壁13を通じて信頼できるセル間接続部の形成を可能にすることにある。」(第四欄一四行~一六行)、

「そのような薄壁構造の場合、本発明の扶壁構造がないとすれば、セル間接続部材は、比較的柔軟なプラスチツクの極めて薄いナイフのような縁に座置することになる。したがつて、電池が振動を受けた場合、ケースは周期的に撓む。……。その結果、セル間接続部はケース振動に応答して周期的に揺動する。そのような揺動によつて誘起されるセル間接続部の荷重は、それが座置する極薄の縁に付加されるから、接続部の揺動は、薄い縁に画成された孔19を急速に侵食し、わずか二~三時間のうちに孔19は二倍の大きさにされ、それによつてセル間接続部を通して一方のセルから他方のセルへの液漏れを惹起することになる。」(第四欄三七行~第五欄八行)、

「本発明によれば、電解液の漏れの防止及びセル間接続部に対する剛性の付与は、扶壁15によつて達成される。セル間接続部を扶壁15を貫通して形成することにより、接続部と仕切壁の孔部分との間の界面が長くされ、それによつて電解液の液漏れ道を延長させ、密封面積を増大させると共に、接続部に対して比較的細長い支承表面を提供する。かくして、扶壁を備えた壁貫通接続は、扶壁のない接続構造に較べてはるかに信頼性の高い接続部を形成し、通常の振動又は衝撃を受けた場合、接続部が仕切壁の孔に対して弛むことがない。」(第五欄一三行~二四行)との記載があることが認められ、これらの記載によれば、本願発明は、従来の厚壁構成の電池ケースを熱塑性プラスチツクで薄壁に構成すると、セル(単電池)間接続部材は比較的柔軟なプラスチツクの極めて薄いナイフのような縁に座置することになり、セル間接続部はケース振動に応じて揺動し、荷重が極薄の縁に付加され、薄い壁に画成された孔は急速に侵食され液漏れを惹起することになる。そこで、このような事態の発生を防止すると共に、セル間接続部に対して堪える性能を付与するために、仕切壁に扶壁を設けるものであり、扶壁にセル間接続部を貫通して形成することにより、密封面積を増大させ、通常の振動又は衝撃を受けても接続部が弛むことがないようにしたものと認められる。

そうすれば、本願発明は、従来の薄壁構成の電池ケースのセル間接続部の仕切壁に扶壁を設けた点に主たる特徴があるものというべきである。

他方、前掲甲第五号証、同乙第四号証、第五号証によれば、電池において別個の接続導体を介して二つの導電性部材を仕切壁(隔壁)の孔を通して電気的に接続するようにしたセル間接続構成は周知慣用の技術と認められる。

そして、本願発明の要件(5)における「該孔を通して電気的に接続された第一及び第二導電性部材」には、右の慣用技術をも加味して考えれば、第一及び第二導電性部材それ自体が孔を通して直接に接続される態様と第一及び第二導電性部材が別個の接続導体を介して間接に孔を通して接続される態様とがあるものと考えるのが合理的である。

以上のような、本願発明の主たる特徴、構成要件(5)の記載から考えられる接続態様、セル間接続における慣用技術並に本願発明の作用効果を総合して考えると、本願発明の要件(5)をもつて、二つの導電性部材の一部が扶壁の両側から貫入され、その衝合点で溶着されるもののみに限定して解すべきものとすることはできない。本願発明の明細書(甲第二号証)第四欄二七行~三二行の記載及びその第五図に示されている接続態様は本願発明の一実施例を示しているものというべきである。

この点に関する原告の主張は採用することができない。

(二) 原告は、審決が甲第五号証、第六号証を挙げて隔壁貫通孔の両側に座着する面をストラツプ部材に設けることは先願考案の登録出願前より周知の接合手段であるとしたのは誤りであるという。

甲第六号証が先願考案の登録出願日(昭和四〇年五月二六日)の後の日である昭和四〇年九月九日の出願公告に係るものであることは成立に争いのない甲第六号証に徴して明らかである。

しかしながら、前掲甲第五号証によれば、同号証は一九六一年(昭和三六年)一〇月一七日付リイシユ・パテントに係るアメリカ合衆国特許明細書であり、それには、電池のモノブロツク電槽における隔壁を介してのストラツプ(導電性部材)の電気的接続手段として、隔壁の貫通孔の両側に座着する端子出張り(terminal lugs)、すなわち、座着する面をストラツプに設け、ストラツプを貫通孔を通して電気的に接続した構成のものが図示説明されており、また、前掲乙第四号証(昭和三九年四月二八日出願公告)、同乙第五号証(昭和三九年四月二八日出願公告)にも同様の構成が示されているから、これらの事実によれば、このような導電性部材の接続手段の構成は先願考案の登録出願前より周知慣用の技術であつたと認めるのが相当であつて、審決の認定に誤りはない。

(三) 以上のとおり、本願発明の要件(5)の構成は、先願考案の接続導体が貫通し又は越える部分の隔壁の肉厚を隔壁の他の部分より厚くした部分(本願発明の扶壁を設けた部分に相当する。)に前記甲第五号証、乙第四号証、第五号証に示されているような周知慣用の導電性部材の接続手段を単に適用したに過ぎないものと認められるから、審決がこれを単なる付加に過ぎない程度のものとしたことに誤りはない。

原告は、先願考案は拡大部のある接続導体全体を頂部開放部から隔壁の肉厚部分の凹欠部に挿入嵌合させるように構成したものであるから、甲第五号証の貫通孔へ軟性金属ピンを圧入する(打込む)ように構成するものとは構成が全く異なり、先願考案に甲第五号証の接続導体を組合せることは技術的に困難かつ不合理であると主張しているけれども、原告のこの主張は、先願考案の接続導体を右のように限定することを前提とするものであり、その前提が誤りであることは前述のとおりであるから(前記2の(一)の項)、理由がない。

4 作用効果について

原告は、審決が本願発明と先願考案との間に存する作用効果の顕著な相違を看過しているという。

しかしながら、前掲甲第五号証、同乙第四号証、第五号証によれば、これらの各号証におけるストラツプ(導電性部材)も隔壁の接続用の貫通孔を囲んで隔壁に座着する垂直面を有していることが明らかであり、原告の主張する、ストラツプ及び極板の重量によりストラツプの座着面は隔壁の垂直両面を強く挟みつけ、重量の多くは隔壁の面によつて支持され、振動や衝撃による孔の拡大及びそれによる密封力の低下もなく、同時に、この挟みつけ作用でストラツプの面と孔の周りの壁面との間の密封力を増大させるという作用効果は、ストラツプ(導電性部材)が隔壁に座着する面を有することによつて達成されるものであつて、隔壁貫通におけるストラツプの接続態様によつて差異が生ずるとは考えられないから、甲第五号証及び乙第四号証、第五号証におけるストラツプが隔壁に座着する面を有する以上、それらのものにおいても当然に原告主張のような作用効果を奏するものと考えられる。そして、この構成は既述のように周知慣用の事項であるから、原告が主張する本願発明の作用効果は、先願考案に周知慣用のストラツプに伴う構成を適用した場合に必然的にもたらされるところの周知慣用の技術それ自体が奏する作用効果であつて、本願発明に特有の作用効果ということはできない。

したがつて、審決が原告主張の作用効果の点に触れなかつたとしても、誤りとはいえない。

5 以上のとおりであるから、本願発明は、先願考案の実用新案登録請求の範囲の記載とその実施態様として示された第一図及び第二図の電池構造体とその出願前周知の技術とに徴し、先願考案に包含される関係にあり、結局、先願考案と実質的に同一というべきものである。

三 よつて、本件審決の取消を求める原告の主張は理由がないのでこれを棄却することとする。

〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

(1)各々電池の電極板を保有する少なくとも二つのセル、(2)前記セルを隔てるための熱塑性プラスチツク材製の薄い仕切壁、(3)前記仕切壁の厚さを増大させるために該壁の少なくとも一側に設けられ、該壁の高さの相当部分に亘つて垂直に延在する扶壁、(4)前記仕切壁及び扶壁を貫通する孔、(5)前記孔の近傍で前記仕切壁の両側に座着する面を有し、該孔を通して電気的に接続された第一及び第二導電性部材、及び、(6)前記仕切壁に沿つて分布せしめられた複数の垂直に延び横に突出するリブ部材から成り、(7)前記電極板を前記仕切壁と仕切壁の間に平行な整列状態に保持するために、前記扶壁は、前記リブ材と協同して平行な表面部分を提供するような距離だけ前記仕切壁から水平方向に突出して成る電池。

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