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東京高等裁判所 昭和52年(行ケ)36号 判決

一 請求の原因1ないし3の事実については、当事者間に争いがない。

二 そこで、審決を取消すべき事由の存否について判断する。

1 成立に争いのない甲第三号証(本願発明の特許公報)によれば、本願発明の詳細な説明には、「従来、軽くつき固めた繊維体から成る樹脂浸透繊維質材料を実質的に一層高い密度を持ち一定の所定形状を備えた繊維質製品に成形し硬化することは、繊維質材料を比較的大きい硬化がまを通過する上部コンベヤ及び下部コンベヤの間に閉じ込めることにより行つている。これらの硬化がま内の通過中に、上部コンベヤ及び下部コンベヤは、繊維質材料を所定の圧縮状態のもとに所望の形状に保持すると共に、加熱した空気を繊維質材料に通じ、結合剤を硬化させ、この材料に仕上がりの形状及び密度を与えるようにする。」(二欄六行ないし一六行)、「このような方式に伴う問題としては、繊維質製品の密度が高まるので、繊維質材料に硬化用空気を適正に通す問題がある。コンベヤを使う硬化方式の他の障害は、特に比較的に高い密度の製品を作る場合に、コンベヤが仕上がりの繊維質製品の一方の側又は両側に望ましくない粗い仕上がりを生ずることである。また、繊維質材料を硬化がま内の通過中に、両コンベヤ間で圧縮する場合に、これらのコンベヤの自然の運動により、圧縮度に変動を生じて各繊維の接合部において、樹脂及び繊維質材料間の結合がわずかにゆるむようになる。」(同欄二七行ないし三欄一行)との記載の存することが認められる。右の各記載のほか、いずれも成立に争いのない甲第六号証(米国特許第二九九七〇九六号明細書)、甲第一〇号証(米国特許第二三三八八三九号明細書)、甲第一一号証(米国特許第二三八八三九二号明細書)、甲第一二号証(米国特許第三二七一四八五号明細書)、甲第一三号証(英国特許第七〇三〇二三号明細書)に添付の各図面に徴すると、従来は、軽くつき固めた繊維体に樹脂質結合剤を分散させた成形材料を上部コンベヤと下部コンベヤとの間に閉じ込めて、比較的大きい硬化がまの中を通過させ、加熱した空気を成形材料に通し、両コンベヤ間で圧縮しながら加熱し、結合剤を硬化させて、所望の形状及び密度のものを得ていたが、このような従来の技術においては、密度の高いものとなつてしまうので、成形材料に更に硬化用空気を適正に通さなければならず、また、コンベヤの上下動の揺れによる各繊維の接合部の結合むらが生じ、製品の側面の仕上がりが粗かつたりするなどの障害の生じたことが窺われる。そして、本願発明の明細書によれば、従来のコンベヤを用いた成形技術に伴う前記の障害を改良すべく、本願発明の製造方法においては、コンベヤを通した硬化がまを用いることをやめて、「マツト状体の硬化及び加圧をこのマツト状体を互いに対向する加熱した固定の板部片を経て通過させることにより行い、この硬化したマツト状体をこれに引張力を加えることによつて前記の加熱した各板部片間から引出すこと」にした点に本願発明の特徴があるものと理解できる。そして、本願発明は、軽くつき固めた繊維体に樹脂質結合剤を分散させた成形材料を用いて、前記の方法で加熱硬化し、圧力を加えて「一m3当り八ないし一二八・二kgの密度を持つ硬化製品」を得ようとするものであることは、本願発明の特許請求の範囲の記載から明らかであり、本願発明の成形法の目的物である成形体は、多孔質で空隙のあるものと解される。

2 一方、成立に争いのない甲第五号証(第二引用例)によれば、第二引用例は、名称を「繊維物質補強樹脂体の成形法」とする発明に係る特許公報であるが、その「発明の詳細なる説明」には、その発明の目的及び構成に関し、次の記載の存することが認められる。すなわち、「本発明者らは、先に、ロービング状の繊維物質を連続的に樹脂液中を通し樹脂を含浸せしめ、要すれば、スクイザーを通じて樹脂含浸量を規制せしめた後、成形用の型内を通し、この部分において成形と同時に硬化を行わせる繊維物質補強樹脂体の成形方法を提案した。この方法は、極めて有効であるが、肉厚のものの成形の場合、その成形速度をある程度以上に保持しようとすると、成形体中に亀裂あるいは巣が生ずることがある。」(一頁左欄五行ないし一二行)、「成形体内に蓄積残留する熱的歪みが増大するので、これによつて、亀裂の発生が多くなる。」(同欄一六行、一七行)、「肉厚のものは、成形する時の成形速度を遅くし、かつ、冷却等を行わないと、反応温度が高くなり、効果が不均一になりがちで、内部の亀裂あるいは巣の発生を抑制することは、なかなか困難である。本発明は、先に提案した方法を改良して、成形速度を低くすることなく、かつ、成形体に亀裂あるいは巣を生ぜしめない繊維物質補強体の連続成形法、特に肉厚の繊維物質補強体を成形せしめるものに関する新規なる方法である。」(同欄二二行ないし二九行)。そして、第二引用例の特許請求の範囲には、「繊維物質に樹脂を含浸せしめた成形材料を、成形体の断面形状を定めるように取付け保持され、かつ、該型に接し温水槽を設けた成形用型面と接しながら引出し進行せしめ、この間において樹脂を加熱硬化せしめたものを心とし、これに更に樹脂を含浸せしめた繊維物質を積層し、前と同様に該型に接し温水槽を設けた成形用型面と接するこの間において加熱硬化成形せしめることを、成形体が所要の肉厚となるまで、所要回反覆して行うことを特徴とする繊維物質補強体の連続成形法」と記載され、これによる効果としては、「任意の厚さのものを製造することができる。また、成形の際の反応熱により温度が急激に上昇し、これに伴う亀裂、巣が生ずることがない。また、第二段以降の成形硬化の際は、心部分は前の工程における反応熱によつてまだ相当の硬度を保つているから、これが樹脂の硬化の時、加熱体としての作用をなし、型の外部から与えられる熱と共に硬化を促進せしめ、迅速に硬化を行わしむるに役立つ。しかも、本発明による硬化せしむべき樹脂層は薄いから、反応温度が極度に上昇することなく有効に行いうる。」(一頁右欄二行ないし一〇行)(別紙図面(二)参照)と記載されている。第二引用例の発明の目的、その構成及びこれによる効果に関する前記の各記載に加え、望ましい工程として、スクイザー3が過剰の樹脂を絞ると同時に、脱泡を行う旨の記載(二頁右欄三行、四行)のあることを勘案すると、第二引用例の繊維物質補強樹脂体の成形法における目的物には、多孔質体のように成形体中に空隙のある製品が含まれていないものと理解される。しかも、第二引用例は、前記の特許請求の範囲の記載から明らかな如く、成形体が所要の肉厚となるまで所要回反覆して行う樹脂体の成形法を要旨とするものである。

3 右に検討したとおり、本願発明は、軽くつき固めた繊維内に樹脂質結合剤を分散させた連続したマツト状体から、第二引用例の如き二段法以上の反覆工程を用いることなく、多孔質で空隙に富んだ目的物が得られるように加熱、加圧して樹脂を硬化させる方法であるのに対し、第二引用例は、繊維物質に樹脂を含浸せしめた成形材料を成形用型面と接しながら進行せしめて、その間に樹脂を加熱硬化し、次いで、これを心として成形体を所要の肉厚になるまで、更にこれに樹脂を含浸せしめた繊維物質を積層し、はじめと同様に成形用型内に通して加熱硬化せしめることを反覆して行う二段法以上の成形法によつて、亀裂や巣のない密実な繊維物質補強樹脂体を製造する方法であるから、本願発明と第二引用例の製造方法とでは、目的及び基本的構成において、著しい相違があるものというべきである。

(一) 審決は、本願発明における密度の限定について、本願発明の目的物が、第一引用例(東京保温保冷工業協会発行・保温J―S・解説)に記載された公知の物品であることを理由に、「特に、かかる製品を得るためというだけの条件限定に、格別の創意があるとすることはできない。」としたが、これは、目的物の密度の限定がそれぞれの発明の目的及び成形法自体に係わる事項であることを看過し、本願発明と第二引用例との成形方法の前記の如き根本的な相違を勘案することなくしたものであり、合理性を欠くものといわざるをえない。結局、審決のこの点の判断は、本願発明と第二引用例との相違点<1>として指摘した密度の限定についての意義を誤つて評価したものとのそしりを免れない。

なお、原告が主張する本願発明と第二引用例との目的物についての差異のうち、本願発明の目的物が疎密な製品であるのに対し、第二引用例のそれは密実な物品である旨の指摘は、前述の如く、正当であるが、更に、原告は、目的物の差異として、本願発明の目的物は、ガラス繊維を基材とし樹脂を補助的な結合剤とした繊維質製品であるのに対し、第二引用例の製造方法の目的物は、樹脂を基材としガラス繊維を補助的な補強材とした繊維物質で補強された樹脂体(Fiberglass Reinforced Plastics)、すなわち、プラスチツク製品であると主張するので、この点を検討する。

成立に争いのない丙第一三号証の一ないし三、第一四号証の一、二、第一八号証ないし第二一号証を総合すると、FRPは、一般には、ガラス繊維を主な補強材とする低圧成形用熱硬化性樹脂の積層成形品をいうとされ、普通プラスチツクの一種とみられるものの、これをガラス繊維製品とみる考え方もあり、右にいわゆるFRP製品のほか、各種の断熱材などを含めてひろくガラス繊維製品とよばれる場合もあることが認められ、FRPとガラス繊維製品なる用語は、互いに排他的な意味で明確に区別されて用いられてはおらず、また、これらを製造する技術分野も明確には峻別しえないことが窺われる。

また、成立に争いのない丙第四号証、第九号証、第一一号証、第一二号証及び第二二号証によると、一般には、FRPといわれる製品のなかには、樹脂含有量に比してガラス繊維含有量の方がはるかに多いものもみられるから、FRPなるが故に、樹脂が基材で繊維が補助材であるとはいえないし、樹脂として発泡性のものを用いた製品もあることが認められる。

ところで、本願発明は、名称を「繊維質製品形成法」とし、本願発明の明細書にも、原告指摘のとおり「ガラス繊維製品形成法」なる記載があるものの、ガラス繊維と樹脂結合剤の量的な比率については何ら限定されていない点からしても、原告が主張するように、本願発明の製造方法の目的物が、ガラス繊維を基材とし、樹脂を補助材とした繊維質製品に限られるとはいえず、また、いわゆるFRPといわれうる製品が本願発明の目的物に含まれないものと断定することもできない。

ただし、第二引用例の目的物と対比する限りにおいては、前述の如く、本願発明の目的物が多孔質で空隙のある物と理解できるのに反し、第二引用例のそれは空隙のない密実な成形体であるという相違があり、この製造方法の目的物の差異は、それぞれの製造方法における目的及び構成を判断するうえで重要な事項とみるべきである。

(二) 更に、審決は、相違点<2>として指摘した形状固定部材の相違に関して、「第二引用例のものが目的物の断面形状に応じた成形型を選ぶものであつてみれば、マツト状体の場合、扁平体を得る型として役立つことの周知な一対の板部片の選択に容易に想い到るものというべく、本願発明におけるこの点の限定も、目的物の形状特定に伴う至極当然のものといわざるをえない。」と判断した。

しかしながら、右の相違点に関する審決の判断も、評価を誤つたものである。すなわち、前掲甲第五号証によれば、第二引用例の「発明の詳細なる説明」には、「一般には、型面と接触進行せしめる間は、型面と成形材料との間には相対的に進行方向に対して垂直方向の運動は与えないで、進行方向のみの運動を与えるようにする方が良好な品質の成形体が得られる。」(二頁左欄一四行ないし一八行)と記載されているが、このことは、型内を通る成形材料に型を押付けることが良くないことを示している。しかるに、本願発明の製造方法においては、第一図ないし第三図に明示されているように、形状固定部材である板部片でマツト状体を上下から加圧して、成形材料の進行方向に対して垂直方向から力を加えているのであり、このことを特許請求の範囲において、「連続したマツト状体の硬化及び加圧をこのマツト状体を互いに対向する加熱した固定の板部片を経て通過させることにより行う」と記載している。このように、本願発明は、互いに対向した板部片によつて成形材料を加熱すると共に、これらによつて加圧して所望の密度の製品を得ることを必須要件としているのであるが、第二引用例には、この点の技術的示唆がないばかりか、形状固定部材による加圧については、前記の如く、これと相反する教示がされている。

また、第二引用例は、その特許請求の範囲の記載から明らかなように、温水槽を設けた成形用型を用いるのであるが、温水加熱の効果については、「発明の詳細なる説明」に次のように記載されている。「単に型を加熱するか、あるいは誘電加熱などにより樹脂自体を加熱するのみで冷却を伴わない場合には、硬化時における温度上昇で、甚だしく亀裂のない良質の成型体を得ることは、困難の場合がある。しかしながら、温水循環により加熱を行う場合には、樹脂の硬化に必要な温度に可及的に加熱されると同時に、硬化後の発熱による温度上昇に対しては、冷却の働きをするため、最高発熱温度を低下し、亀裂の少ない良質の成型体を得ることができ、本発明の効果を更に向上せしめる。」(二頁左欄二八行ないし三六行)。そして、温水温度については、「一例では、九〇度Cの温水を通し硬化を行わしめる。」(同欄三八行、三九行)とある。右の各記載からみても、第二引用例の製造方法においては九〇度C前後の温水によつて樹脂を加熱硬化させながら、温水のもつ発熱による温度上昇に対する冷却効果によつて発熱温度を低下させて亀裂の少ない良質の成型体を得ようとするものである。他方、本願発明においては、その加熱条件は、特許請求の範囲の記載からは明確ではないが、前述の如く、板部片によつて加圧加熱するものであるところからみても、第二引用例の温水加熱とは異なるものとみるべきであり、本願発明の実施態様をみても、「各押板18、20の板部片22、24の温度は、約五五〇度F(約二八七・八℃)であつた。」(特許公報九欄一七行ないし一九行)と記載されている。本願発明における右の如き加熱方法が、第二引用例の製造方法においては、好ましくないとして排除された加熱方法に属することは、前記第二引用例の記載内容に照らして明らかである。

したがつて、加熱方法の点についても、本願発明と第二引用例の製造方法との間には、著しい差異があるものというべきである。

審決の相違点<2>についての判断は、前記の如き顕著な差異を十分勘案せずにした誤つたものである。

なお、この点について、被告は、第二引用例の記載を詳細に引用して、本願発明の製造方法における形状形成部材が第二引用例におけるそれと実質的に何ら異なるところはない旨主張するが、審決は、既に指摘した如く、単にマツト状体の成形材料を用いるならば、扁平体成形用の型として板部片を選択使用することは、容易に想到しうることである旨判断したものであるから、被告の右の主張は、審決の右の判断理由を正当化しうるものではない。

(三) 以上のとおり、本願発明と第二引用例の製造方法とでは、その目的及び基本的構成が著しく相違し、そのため、審決が両者の相違点<1><2>として指摘した事項についても、その基本的な技術的思想上重要な差異があるのに、審決は、これを看過し、相違点についての評価を誤つたものというべきである。

この点の原告の主張は正当である。

したがつて、審決が第二引用例に記載されていると認定した製造方法における基本的な構成を本願発明のように変更することが容易であるとみるべき合理的根拠を第二引用例に見出すことはできない。第二引用例に記載された成形法が、目的及び構成において本願発明のそれとの関連性を認め難い技術であるとみざるをえないから、たとえ、第一引用例によつて本願発明の製造方法の目的物と同じ密度のガラス繊維マツト状体のものが公知であることを勘案したとしても、第二引用例は、これに基づいて当業者が本願発明を容易に推考できたとみるべき合理的根拠とはなりえないものである。

右のとおりであるから、その余の点の検討を待つまでもなく、本願発明をもつて、第二引用例の方法に第一引用例のものを併せ勘案することにより、当業者が容易に発明をすることができたものとした審決は、その判断を誤つたものであることが明らかであつて、違法として取消を免れない。

三 よつて、審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求は、正当であるから、これを認容することとする。

〔編註その一〕 本願発明に関する事項は左のとおりである。

1 特許庁における手続の経緯

原告は、昭和四一年八月一九日、一九六五年九月八日のアメリカ合衆国においてした特許出願に基づく優先権を主張して、名称を「繊維質製品形成法」とする発明について特許出願(昭和四一年特許願第五四二七八号。以下、この発明を「本願発明」という。)をしたところ、昭和四五年一月二八日、拒絶査定を受けたので、同年六月二六日、審判を請求し、昭和四五年審判第五五二五号事件として審理された結果、昭和五一年九月三日、「本件審判の請求は成り立たない。」との審決がされ、その謄本は、同年一〇月九日原告に送達された。

なお、原告のため、出訴期間として三か月が附加された。

2 本願発明の要旨

軽くつき固めた繊維から成りこの繊維内に樹脂質結合剤を分散させた連続したマツト状体から、前記結合剤を硬化状態になるまで加熱し更にこの硬化中に一m3当り八ないし一二八・二kgの密度を持つ硬化製品が得られるように前記マツト状体に圧力を加えることによりガラス繊維製品を形成する形成法において、連続したマツト状体の硬化及び加圧をこのマツト状体を互いに対向する加熱した固定の板部片を経て通過させることにより行い、この硬化したマツト状体をこれに引張力を加えることによつて前記の加熱した各板部片間から引出すことを特徴とするガラス繊維製品形成法。

(別紙図面(一)参照)

〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。

図面(一)

<省略>

図面(二)

<省略>

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