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東京高等裁判所 昭和52年(行ケ)44号 判決 1977年12月15日

原告 松方興産株式会社

被告 特許庁長官

主文

特許庁が昭和五一年一二月九日昭和四五年審判第九九七九号事件についてした審決を取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実および理由

第一当事者の求めた裁判

原告は主文同旨の判決を求め、被告は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。

第二当事者間に争いのない事実

一  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和四三年八月三一日特許庁に対し、「KMI」および「KOSUKE MATSUKATA (INDUSTRIES) LTD.」ならびに「松方興産株式会社」の各文字を三段に横書きにしてなる商標について、第一一類「キヤビネツト スピーカー ピツクアツプ用カートリツジ電気蓄音機 レコードプレーヤー レコードオートチエンジヤー」を指定商品として出願登録したが、昭和四五年九月七日拒絶査定を受けた。そこで原告は同年一一月六日審判の請求をし、同年審判第九九七九号事件として審理されたが、昭和五一年一二月九日「本件審判の請求は成り立たない。」旨の審決があり、その謄本は、昭和五二年一月二六日原告に送達された。

二  審決の理由

本願商標およびその指定商品は前項のとおりである。これに対し、原査定は「本願商標は、出願人と相違する法人名「KOSUKE MATSUKATA (INDUSTRIES) LTD.」の文字を有してなるものであり、このような商標を採択使用することは穏当でない。したがつて、本願商標は、商標法四条一項七号に該当する」と認定し、その登録を拒絶したものである。

そこで、本願商標を見るに、本願商標中には「KOSUKE MATSUKATA (INDUSTRIES) LTD.」の文字を有するので、これからは、コウスケ マツカタ(工業)会社、または、マツカタ コウスケ(工業)会社の欧風書と認定し得るところであるから、これは当該出願人の会社の商号と相違する商号を商標として登録出願したものである。

ところで、商法は、会社にあつては、その商号を、設立の際必ず選定し、定款中に定めることを要し、会社は、設立登記事項の一つとして商号の登記をすることを要すると規定して取引の安全を図つている。このことからして、会社の商号は、一あつて二あることを許されないものであること勿論である。また、会社の商号からなる商標にあつては取引者、需要者は、その商標が付せられた商品は、その商号の会社の業務(製造・販売)に係るものと認識し、その商品に対する責任は、その商号の会社が果たすものと信じて取引が行なわれるのが普通である。そうとすれば、本願商標中「KOSUKE MATSUKATA (INDUSTRIES) LTD.」の文字からは前述したとおりの意味を有するものであるから、請求人(出願人)の商号と異なる法人の名称を書してなるものであることその構成に徴し明らかであつて、かかる文字を含んでなる本願商標をその指定商品について使用するときは、取引者、需要者は、会社の商号と商品の出所とが一体関係にあるものと信じて、あたかも、該商号を有する会社が実在するかのように認識せしめることがあるといわなければならない。

してみれば、請求人(出願人)が、自己の商号と異なる文字を含んでなる本願商標を、その指定商品に使用することは、公共の利益に反し、公の秩序をみだすおそれがあるといわなければならない。

結局、本願商標は、商標法第四条第一項第七号に該当するものとして、その登録を拒絶した原査定は妥当であつて、これを取り消す理由のないものである。

第三争点

一  原告の主張(審決を取消すべき事由)

審決には次のとおりの違法があるから取消されなければならない。

(一)  主位的主張

本願商標中、「KOSUKE MATSUKATA (INDUSTRIES) LTD.」の文字を有する部分は原告会社名の英訳であることは、本願商標が三段横書きから成り、三段目に「松方興産株式会社」と記載されていること、および原告会社定款第一条により明らかである。しかもこの英訳名の会社が他に実在するという証拠はない。そうすると、本願商標を出願どおり三段横書きにして、その指定商品について使用したとしても、その商品を取引者、需要者が原告会社と別会社の商品と誤認混同する虞れはないから、その使用が公序良俗に反することにはならない。これに反する判断をした審決は誤つている。

(二)  予備的主張

原告は、昭和四三年八月三一日、指定商品を「第一二類高速地下輸送用車輛、内燃蓄電池駆動の六輪自動車」として本願商標と同一の商標を登録出願し、この商標は昭和五一年一一月四日登録されている。しかるに出願日が同一で、かつ同一の商標につき、指定商品が異なるだけで、本願については拒絶査定をし、さらに本件審決においてその拒絶を維持したのは、特許庁としての判断の統一性を欠いており違法である。

二  被告の答弁

(一)  主位的主張について

原告会社名である松方興産株式会社を英訳すれば、「MATSUKATA (INDUSTRIES) LTD.」となるはずであるし、また本願商標の指定商品を購入する需要者は、原告会社の定款を調査することまではしないから、本願商標中「KOSUKE MATSUKATA (INDUSTRIES) LTD.」の部分について、需要者は原告会社名の英訳とは考えないはずであり、これとは別の会社が存在すると誤認するおそれがある。そうすると需要者は本願商標の付された指定商品の品質保証、アフターサービス等の問題につき、原告会社と他の該英語書きの会社の二社で、共同で責任を負つているかの如き誤認をすることを免れない。このような事態は公序良俗に反するから審決の判断に誤りはなく原告の主張は失当である。

(二)  予備的主張について

別件において審査官が誤つた判断をした場合、それと同種の本件事案において審判官の合議体が、別件の誤つた判断に拘束される理由はないから、原告の主張は失当である。

第四証拠<省略>

第五争点に対する裁判所の判断

一  主位的主張について

本願商標が、「KMI」および「KOSUKE MATSUKATA (INDUSTRIES) LTD.」ならびに「松方興産株式会社」の各文字を三段に横書にしてなるものであることは、当事者間に争いがない。

本願商標のうち「KOSUKE MATSUKATA (INDUSTRIES) LTD.」の部分(以下「二段目の部分」という。)のKOSUKEの語は、原告会社の代表者松方幸輔の名前をローマ字で記載したものと思われ、原告会社自体には、その代表者の名前が入つていないから、二段目の部分を原告会社名の正確な英訳ということはできない。しかしながら、KOSUKEの語を除いたMATSUKATA (INDUSTRIES) LTD.の部分は原告会社名の英訳といえないわけではないこと、しかも本願商標のうち三段目の部分には、原告会社名がそのまま表示されていること、世上会社名の英訳として使用されているものが必ずしも正確な飜訳ではなくて、その英文名を和訳すれば本来の会社名とは異つた日本名となる類のものが散見されること、一般に、法人名ないし商号を商標とする場合には、一つの法人名ないし商号が表示されるのが通常であり、二つ以上の異つた法人名ないし商号が一緒に表示されるようなことは考えられないことなどを考慮にいれると、一般の取引者、需要者が本願商標をみた場合、二段目の部分は実質的に原告会社名の英訳であり、一段目の部分(KMI)はその略称であると考え、本願商標を全体として原告会社名を表示したものと理解するのが通常であると思われる。

そうすると、本願商標のうち二段目の部分が原告会社の商号と異なる法人名として認識されるとした本件審決の判断は誤りであるというほかはない。

二  以上によれば、原告のその余の主張を判断するまでもなく、本件審決は違法であるから取消を免れない。よつて原告の本訴請求は正当であるから認容し、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 古関敏正 小笠原昭夫 石井彦壽)

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