大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和52年(行ケ)47号 判決

事実及び理由

一  請求原因一ないし同三の事実は当事者間に争いがない。

二  そこで、原告が主張する取消事由の有無について検討する。

1  原告は、本件実用新案の要旨は、「蒸留水取出カランの操作のみによつて任意必要時に必要量の蒸留水が得られる自動化したイオン交換水蒸留装置」であつて、この考案は引用例に開示されており、「流量調整用オーバーフロー機構」は本件実用新案の必須の要件ではないと主張する。

しかしながら、本件実用新案の要旨、すなわち、不可欠の構成が請求原因二に記載のとおりのものであることは当事者間に争いがないのであり、これによれば、本件実用新案は「流量調整用オーバーフロー機構」を設けることを要件の一つとしているのであるから、原告の右主張は理由がない。(なお、仮に、請求原因二が本件実用新案の登録請求の範囲として記載されている事項を主張するに過ぎない趣旨と解するとしても、それによつて当事者間に争いがないこととなる本件実用新案の登録請求の範囲の記載及び成立に争いのない甲第二号証の記載(第一頁右欄一一行~一九行、第二頁右欄九行~一二行)によれば、本件実用新案においては「流量調整オーバーフロー機構」を設けることを必須の要件としているものと認められるので、原告の主張は理由がない。)

なお、原告は、本件実用新案において、「流量調整用オーバーフロー機構」は、その機構の開示が不十分、あるいは付加的なものであるから、これを必須の要件とすることはできないと主張するけれども、これを本件実用新案の要旨、すなわち不可欠の要件とすべきことは右認定のとおりであるから、原告の主張は当らない。

2  原告は、仮に、本件実用新案が「流量調整用オーバーフロー機構」を要件とするものであつても、その考案は引用例に開示されているものと同一であると主張する。

しかしながら、成立に争いのない甲第四号証(引用例)(この引用例が本件実用新案の登録出願前に頒布されたものであるか否かについての判断は暫らく措く。)によれば、引用例には、「オーバーフロー機構」を備えたイオン交換水蒸留装置が示されているのみで、それが「流量調整用オーバーフロー機構」を備えたものである旨の記載はない。そして、単なる「オーバーフロー機構」と「流量調整用オーバーフロー機構」とでは、前者が液面制御機能のみを有するものであるのに対し後者は液面制御機能のほかに流量制御機能をも有するものである点において異なり、前掲甲第二号証、成立に争いのない乙第七号証並に弁論の全趣旨によれば、本件実用新案はかかる流量調整用オーバーフロー機構を備えることにより、原水の供給量を調整し、イオン交換速度の適正を図り、イオン交換水の生産量と蒸留水の生産量を一致させることができ、その結果、無機イオン物質の除去効率を高めると共に原水の浪費、イオン交換水の無駄をなくし、効率の良い高純度の蒸留水を採取することができるという作用効果を奏することが認められるので、本件実用新案が引用例に示されているものと同一であるという原告の主張は理由がない。

3  次に、原告は、仮に本件実用新案が引用例のものと形式的には同一でないとしても、「オーバーフロー管」によつて流量を調節する手段は本件実用新案の登録請求の当時において当業者の慣用手段であつたから(甲第五号証の一ないし三、第六号証の一、二)、両者の考案は実質的には同一であると主張する。

しかしながら、その事実を認めるに足る証拠はない。もつとも、成立に争いのない甲第五号証の一ないし三、第六号証の一、二によれば、それらには「ウオーター・レベル・レギユレーター」の示されていることが認められるが、それらの「ウオーター・レベル・レギユレーター」は、「槽内の媒体が水の場合、その水位を一定に保つ。」「水位はレギユレーター内に設けた調節自在のオーバーフロー管により所望のものに正しく調整される。」(甲第五号証の三)、「槽内の水位を一定に保つ。」「水はレギユレーターから槽内に流れるが、槽内とレギユレーター内の水位は共にレギユレーター内に設けた調節自在のオーバーフロー管により調整された水位まで上がる。」(甲第六号証の二)との記載から明らかなように、液面制御によつて単に通水の制御を行うに過ぎないものであるのに対し、本件実用新案の「流量調整用オーバーフロー機構」は、前示のとおり、液面制御のほかに流量制御の機能を有するものであり(液面制御が流量制御と相違し、後者に比して比較的容易であることについては、成立に争いのない乙第六号証により明らかである。)、それにより特段の作用効果を奏するものであるから、これらの甲号証によつては原告の右主張事実を認めることはできない。

三  以上のとおり、本件審決の取消を求める原告の主張は、その余の点について検討するまでもなく理由がないので、原告の本訴請求は失当として棄却することとする。

〔編註〕本件における実用新案の要旨は左のとおりである。

原水をイオン交換器に供給し、このイオン交換器において採取された水をボイラー及び凝縮器を通して蒸留し、この蒸留水を蒸留水タンクに貯留させるようにしたイオン交換水蒸留装置において、流量調整用オーバーフロー機構を設けた前記原水系及び前記凝縮器の冷却水系にソレノイド弁を組込み、かつ、前記蒸留水タンクに受圧器によつて開閉されるスイツチを設けて、このスイツチにより前記両ソレノイド弁及びボイラーの加熱器を制御動作させるようにしたことを特徴とするイオン交換水蒸留装置。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!