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東京高等裁判所 昭和52年(行ケ)56号 判決 1977年12月21日

原告

ローンシューズ株式会社

右訴訟代理人弁理士

酒井一

被告

特許庁長官

熊谷善二

右指定代理人

桜井常洋

内正秀

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判<省略>

第二  請求の原因

原告訴訟代理人は本訴請求の原因として次のとおり述べた。

一  特許庁における手続

原告は、別紙一に表示する構成からなる商標につき、第二二類「靴その他本類に属する商品」を指定商品として、昭和四六年九月一日商標登録出願をし、昭和五〇年二月二四日拒絶査定を受けたので、同年五月二四日審判を請求したところ、特許庁は、同年審判第四五〇八号事件として審理し、昭和五二年一月八日右請求は成り立たない旨の審決をし、右審決の謄本は同年二月一六日原告に送達された。

二  審決の理由の要点

審決は、登録第五九八一八三号商標(ハイフンを介して前半部に「L「(大文字)の欧文字を、後半部に「ron」(小文字)の欧文字をそれぞれブロツク書体風に横書き(L―ron)して成り、第二二類「はき物(運動用特殊ぐつを除く。)、かさ、つえ、これらの部品および附属品」を指定商品として、昭和三六年二月七日登録出願、昭和三七年九月二八日登録、昭和四八年二月七日存続期間の更新登録がされた。以下「引用商標」という。別紙(二)参照。)を引用したうえ、次のように要約される理由を示している。

本願商標及び引用商標は、それぞれの構成からして、外観上は互に区別しうる差異があるが、両者を称呼の点からみると、本願商標は、輪郭内にローマ文字のエルの文字と認められる「L」の文字と「on」の欧文字とを結合して成るものであるから、右構成にかかる欧文字に相応して「ロン」の称呼を生ずることが明らかである。

他方、引用商標は、ハイフンを介して前半部に「L」の欧文字を、後半部に「ron」の欧文字を書いて成るものであるが、ローマ文字の一字又は二字は、一般に商品の種別又は型式を表示する記号又は符号として、取引上類型的に随時採択使用されていることが取引の実情に照らし明らかなところであるから、引用商標における自他商品識別の機能を果す部分は後半部の「ron」の欧文字にあるものといわなければならず、そうとすれば、引用商標は、右欧文字に相応し「ロン」の称呼を生ずるものと認めざるを得ない。

してみれば、本願商標及び引用商標は、その観念について論ずるまでもなく、「ロン」の称呼を共通にする類似の商標であり、かつ、両商標の指定商品も同一のものと認められるから、本願商標は商標法第四条第一項第一一号に該当するものとして商標登録を受けることができない。

三  審決の取消事由

しかしながら、右審決は、本願商標につき、引用商標との誤つた類否判断のもとに、登録すべきでないとしたものであつて、違法であるから、取消されるべきものである。すなわち、

(一)  仮りに審決のいうようにローマ文字の一字又は二字が自他商品識別機能を果さないとしても、本願商標は「L」の文字と「on」の文字とを結合したものであり、引用商標は「L」と「ron」とから構成されているにもかかわらず、本願商標はそのまま「L」と「on」とを結合して観察しているのに対し、引用商標は一方的に「L」と「ron」とに分離して観察する理由はない。もし、引用商標にはハイフンがあるために分離観察をしたとすれば、次に述べるような矛盾が生ずる。

すなわち、引用商標は登録番号第五九八一八三号として登録されたものであり、これに相互に連合する商標として仮名文字「エルロン」から成る登録第五九八一八二号商標がある。引用商標の「L―ron」と「エルロン」とは観念、外観ともに非類似であることは明らかであるが、称呼は類似である。けだし、「L―ron」は「エ」「ル」「ロ」「ン」と読むのが通常であり、「L―ron」の「L」を除いて「ron」の称呼である「ロ」「ン」としたのでは、「エルロン」の称呼である「エ」「ル」「ロ」「ン」と称呼上非類似となり、引用商標は、登録第五九八一八二号商標とは相互に連合商標となりえず、商標登録を受けることができないはずであるからである。このことは甲第五号証の一ないし四の文字商標集(弁理士会発行)第一四巻に「エルロン」はもちろん「L―ron」も(エ)の欄にあり、(ロ)の欄にはないことでも明らかである。なお、審決は、「取引の実情に照し」ローマ文字の一字又は二字が一般に商品の種別又は型式を表示する記号又は符合として取引上類型的に随時採択使用されていることが明らかであるというが、これは何ら根拠がない。

本願商標と引用商標とは、外観、観念において非類似であるし、本願商標「Lon」の称呼は「ロ」「ン」とすべきであり、引用商標「L―ron」は称呼を「エ」「ル」「ロ」「ン」とすべきであつて、称呼非類似であるから、本願商標は、引用商標とは非類似である。

(二)  右主張が正しいことは、本願商標の出願前に登録され原告が現に商標権者である登録第六八四六七一号商標「ROWN」、登録第六八四六七二号商標「Lone」、登録第六八四六七三号商標「RONE」、登録第六八四六七四号商標「LON」及び登録第六八四六七五号商標「Ron」並びに引用商標の出願前に登録され原告が現に商標権者である登録第四二九〇八五号商標「LAWNローン」がすべて相互に連合商標として認められている事実からも明らかである。本願商標「Lon」と引用商標「L―ron」とが類似するとすれば、原告の最先の登録第四二九〇八五号商標「LAWNローン」がありながら、これに類似する引用商標「L―ron」が登録され、さらに原告の登録商標、特に登録第六八四六七四号商標「LON」が順次登録されたことになり二重、三重の過誤登録が存在することになる。

(三)  原告は本願商標を現に広く使用しているものであり、引用商標が存在するためにそれに類似するものとして本願商標を使用できないこととなれば、原告が商標権者である登録商標、特に登録第六八四六七四号商標「LON」の商標法第二五条の規定による権利を害されることになり、法的安定性を著しく損うことになる。

(四)  以上の理由により、本願商標は商標法第四条第一項第一一号に該当するものではない。

第三  答弁<省略>

第四  証拠関係<省略>

理由

一請求の原因事実中、本願商標について、その構成及び指定商品、登録出願から審決の成立に至るまでの特許庁における手続の経緯、引用商標の構成及び指定商品並びに審決の理由に関する事実は当事者間に争いがない。

二そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について考察する。

(一) 本願商標は、輪郭内に一体の欧文字「Lon」を左から右へ横書きにして成るものであり、右文字に相応して「ロン」の称呼を生ずることは明らかである。

他方、引用商標は、欧文字「L」に、一連の欧文字「ron」をこの文字とほぼ同じ太さと大きさのハイフンで左から右へ横書きに結合することによつて成るものであり、外観上、欧文字「L」と欧文字「ron」との結合は、「ron」の三文字相互の結合ほど緊密でない印象を与え、両部分が区別されたものとしての感を与える構成となつている。しかも、経験則によれば、欧文字「L」の一字又は二字は一般に商品の種別又は型式を表示する記号又は符号として取引上随時採択されていることが認められるから、引用商標においても、ハイフンで結合された前半部の「L」の欧文字がそのような記号又は符合として取引者に受取られ、後半部の「ron」の欧文字が自他商品識別の機能を果すことは十分考えられることである。その場合には、引用商標は「ron」の欧文字に相応して「ロン」の称呼を生ずるものといわざるをえない。引用商標が全体として把握され、「エルロン」の称呼を生ずる場合もあることを否定はできないが、引用商標からは常に「エルロン」の称呼のみしか生じないとは断定しえない。

原告は、引用商標が「ロン」の称呼を生ずるとすると、これと相互に連合する商標である登録第五九八一八二号商標「エルロン」があるのに、この両商標は称呼上非類似となり連合商標であることと矛盾する旨主張するが、右両商標が称呼上類似するかどうかは、本願商標と引用商標との類否の判断を左右するものではない。

(二)  また原告は、本願商標と引用商標とが類似するとすると、二重、三重の過誤登録が存在することになるとして幾多の登録商標を挙げるが、原告の挙げる登録商標に過誤登録があるかどうかによつて、本願商標と引用商標との類否判断が左右される筋合のものではない。

(三)  さらに、原告は、引用商標に類似するものとして本願商標を使用できないこととなれば、原告が商標権者である登録第六八四六七四号商標「LON」その他の登録商標の商標法第二五条の規定による権利を害されることとなる旨主張するが、右登録商標等は本願商標とは別個のものであり、本願商標が引用商標との関係において商標登録を受けることができるかどうかは、これとは別異に考究されるべきことがらであるから、原告の右主張も理由がない。

(四) 以上により、本願商標は引用商標と称呼を共通にする類似の商標というべきであるから、両商標に称呼上の類似性がないとし、これを前提に審決の判断に誤りがあるとする原告の主張は失当というほかはない。

三<省略>

(荒木秀一 石井敬二郎 橋本攻)

<別紙(一)>

<別紙(二)>

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