東京高等裁判所 昭和52年(行ケ)65号 判決
一 請求原因事実中、本願考案につき、出願から審決の成立にいたるまでの特許庁における手続の経緯及び審決理由の要点は、当事者間に争いがない。
二 そこで、審決に原告主張の取消事由があるか否かについて検討する。
1 要旨認定について
審決が、本願考案の要旨をその明細書の実用新案登録請求の範囲に記載されたとおり認定していることは、成立に争いのない甲第一号証(本願考案の訂正明細書)により明らかである。
これに対し、原告は、審決の要旨認定に遺脱がある旨主張する。しかし、原告が遺脱していると主張する構成のうち、(1)「接合管5の一端を内方に折曲して円筒状の係緑7を設け」る点、(2)「接合管5の他端を内方に折曲して相対位置に係爪11、11を設け」る点、(3)「係爪11、11の両側に傾斜突縁3、3を」「嵌合するための切欠を」「設ける」点については、本願考案の登録請求の範囲と対照してみると、いずれも、これに記載された構成に実質上包含されているということができるから、もとより認定を遺脱したものには当らないし、また、右(1)ないし(3)以外の点、すなわち、(4)係爪11、11と傾斜実線3、3の嵌合が「ゆるい」ものである点、(5)それらの嵌合するための切欠が「幅広く」設けられる点、(6)「係縁7と係爪11、11との間に係縁(傾斜突緑)3、3と段部(実縁)8とを容易に収容するために『ふところ』を広く、かつ、大きく形成し」た点については、本願考案の登録請求の範囲には記載されていない事項であるうえ、前記甲第一号証によつて本願明細書の考案の詳細な説明の項を精査しても、本願考案においては、右(4)ないし(6)のような限定ないしは附加的構成を必須要件とするものであるとは解することはできないから、これらはいずれも本願考案の要旨には属しないというべきである。
したがつて、本願考案の要旨について審決のした認定は正当であつて、これに原告主張の誤りはない。
2 記載内容の認定について
原告は、審決が各引用例の記載内容として認定した事項が各引用例の考案の要旨でないことを根拠として、右認定を誤りであるとする。しかし、当事者間に争いのない審決理由の要点によれば、審決が第一、第二引用例を引いたのは、それらに示された実用新案自体ではなく、刊行物たる各引用例に記載された技術的内容をもつて本願考案の登録を拒絶すべき先行技術とする趣旨であることが明らかであるから、各引用例の記載内容をそれらの考案の要旨と異なつて認定したからといつて、それだけで認定を誤りとすることはできない。そして、成立に争いのない甲第二号証(第一引用例)及び第三号証(第二引用例)によれば、第一、第二引用例には、それぞれ審決の認定したとおりの事項が記載されていることが認められる。なお、原告は、第一引用例について「突起10に雄ねじを刻設し、その雄ねじに斜溝環6を螺着し、斜溝環6の雄ねじに締環2の雌ねじを螺着して、頸管1に牡金具3を連結する構成」であると主張するけれども、右甲第二号証には右のような構成であること認めしめるほどの記載はなく、その主張は採用することができない。
3 対比判断について
(一) 原告は、本願考案の顕著な作用効果として(1)の及び(2)の点を主張する。しかし、右(1)の点は、本願考案が「係縁7と係爪11、11との間に………『ふところ』を広く、かつ、大きく形成」する構成があることを前提とするものであるところ、先に判示したとおり、右のような構成は本願考案の要旨外の事項であるから、これに基づく主張はすでに失当であり、また、右(2)の点については、本願考案がその主張のような作用効果を奏することは、前記甲第一号証から認めることができるけれども、他面、第一引用例のホース接手の構成が審決認定のとおりである以上、それにも本願考案と同様の効果があるものと推認されるから、これをもつて本願考案に独特なものということができない。さらに、原告は、第一引用例について、作用効果上の欠点を主張するが、その主張は、原告独自の構成を前提とするものであることが前説示から明らかであつて、その構成が認められない以上、採用することができない。
(二) 原告は、第二引用例について、本願考案との構成及び作用効果上の差異を主張し、審決が本願考案のホース接手を同引用例と技術的に同一であるとしたことを不当とする。しかし、前記審決理由の要点によれば、審決が第二引用例を挙げたのは、本願考案と第一引用例のものとの把手に関する差異(審決認定の相違点(2))が第二引用例の把手杆手段及び周知の倒コ字形弾性挾持具からきわめて容易に考えられるとの判断を示すためであつて、それ以外に、本願考案と第二引用例との技術的同一等に及び何ら判断されているわけではないのであるから、原告の右主張は、それ自体失当である。
(三) 以上のとおりの本願考案の要旨及び第一引用例の記載内容によれば、本願考案と同引用例の接手との間には、審決の認定の一致点及び相違点(なお、相違点については原告の争わないところである。)があることが明らかであるところ、右相違点の構成によつて本願考案が格別の作用効果を奏するとも認められず、これに、前示第二引用例の記載内容及び弁論の全趣旨に徴し周知の挾持手段と認むべき倒コ字形の弾性挾持具を併わせ考えるならば、第一引用例の接手に第二引用例の把手杆手段を組合わせて、本願考案のような構成とすることは、本願考案の属する技術の分野における通常の知識を有する者にとつてきわめて容易に考えることができると解するのが相当である。
したがつて、審決のした対比判断は正当であつて、これに原告主張の誤りはない。
三 よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却する。
〔編註〕 本願考案の要旨は左のとおりである。
連結用の雄接合管1の外周相対位置に同一方向に傾斜する傾斜突縁3、3を設け、傾斜突縁3、3と、ホース16端部に取付けた接合口金9の端部外周に設けた突縁8とに、常時接合口金9に嵌合されている凹字形の接合管5を跨らせて被冠し、接合管5の一端を内方に折曲して円筒状の係縁7を設け、接合管5の他端を内方に折曲して相対位置に係爪11、11を設け、係爪11、11の両側に傾斜突縁3、3をゆるく嵌合するための切欠を幅広く設けるとともに、係縁7と係爪11、11との間に係縁(傾斜突縁)3、3と段部(突縁)8とを容易に収容するために「ふところ」を広く、かつ、大きく形成し、係爪11、11を傾斜突縁3、3間に嵌めた後、約九〇度接合管5を回転することによつて、係爪11、11傾斜実線3、3に係止するように形成するとともに、接合管5の一部外周に前面を開放した匣状突出部を設け、その匣状突出部内に把手12の基部を起倒自在に枢着し、把手12の枢着部に相対して右匣状突出部内に把手12を挾持する倒コ字形の弾性挾持具13を取付けてなるホース接手