東京高等裁判所 昭和52年(行ケ)83号 判決
事実及び理由
一 請求原因事実中、本願考案につき、出願から審決の成立にいたるまでの特許庁における手続の経緯、本願考案の要旨及び審決理由の要点は、当事者間に争いがない。
二 そこで、審決に原告主張の取消事由があるか否かについて検討する。
引用例の記載内容が審決認定のとおりであり、本願考案と引用例の考案との間に審決認定の一致点及び相違点があることは、原告の自認するところである。
ところで、右相違点の第一は、本願考案が機体後部下方から上向傾斜に座席用支持枠を延設したのに対し、引用例の考案がサドルの支持用主杆を水平方向に取り付けた点にあるが、審決は、本願考案における右構成の進歩性を否定する理由として、特定の一周知技術を挙げるのみで、他には何らの先行技術を挙げていないことが明らかである。
そして、争いない審決理由の要点によれば、右周知技術の内容は、大きな荷重を受ける片持梁の補強のために、その下方に斜め上方に向う棒状体を配設し、その上方先端部と片持梁の適宜個所とを一体的に結合させる技術に過ぎない。
これに対し、成立に争いのない甲第一号証の一、二(本願考案の明細書)によれば、従来のパワーシヨベルの座席は、機体の上部にあつて地上からの高さが高いため、乗降が不便であり、殊に、座席の側部にシリンダーあるいはそれを支持する機枠があると、機体が転倒する事態が発生した場合、操縦者が待避しにくい不具合があつたこと、本願考案は、右不具合を解消することを目的としたものであつて、そのため、機体1後部下方から上向傾斜に支持枠2を延設し、これに座席3を設けるようにし、この構成によつて、従前の同種機械のものよりも、乗降に便であるとともに、機体転倒時の退避に支障がなく、また、支持枠2とシヨベル5とのバランスをとるようにし、さらに、上向き走行時においても機体が接地することなく安定した走行ができるという効果を奏すること、したがつて、本願考案においては、支持枠2の補強すべき片持梁などは存在しないことが認められ、これに反する証拠はない。
そうだとすると、審決の挙げる周知技術と本願考案とは目的、効果において全く異なるものがあり、両者間には技術上の関連性がないものといつて妨げないから、審決が右周知技術に基づいて本願考案における前記構成の進歩性を否定したことは誤りというべきである。
なお、被告は、下方から上向きに傾斜した支持脚によつて座席を支持する手段が周知慣用技術であつた旨主張するが、審決においては、上向き傾斜状の補強材を片持梁について用いることが周知であるとするだけであり、主張のような周知技術については審決理由中において何ら言及されていないから、審決取消訴訟においてこのような別の事実にもとづいて本願考案を容易に推考しうると主張することは許されない。
以上のとおりであるから、引用例及びその挙示する周知事実に基づいて本願考案の進歩性を否定した審決は、その余の争点について判断するまでもなく、違法であつて、取消を免れない。
三 よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を正当として認容する。
〔編註〕本願考案の要旨は左のとおりである。
機体後部下方から上向傾斜に支持枠を延設してこれに座席を設けてなるパワーシヨベルにおける座席