東京高等裁判所 昭和53年(う)1540号 判決
被告人 北島重信
〔抄 録〕
原判決挙示の各証拠ならびに自動車検査証等写二通(七一丁、八四丁)を総合すると、つぎの事実が認められる。すなわち、
1 被告人は、原判示日時ころ、被告人車(普通乗用自動車、箱型、車体の長さ四・三一メートル、車幅一・六九メートル)を運転して、幅員約三・七メートルの市道を川越駅前方面から国道一六号線を横断して大塚新田方面に向うべく、川越市新宿一丁目二五番地二五先の右両道路の交差点(以下単に本件交差点という)付近に至ったこと
2 右国道の車道幅員は約一四メートルであり、被告人が進行してきた市道の幅員よりも明らかに広く、また、本件交差点は交通整理が行なわれていなかったこと
3 被告人は、市道から、国道の左右が見通せる位置である国道脇の歩行者通行帯と車両通行帯との境目あたりまで進行して一時停止し、まず右側狭山市方向を見て、工藤車(普通貨物自動車、キャブオーバ、車体の長さ一一・九八メートル、車幅二・四九メートル)が片側二車線のうちの外側車線を本件交差点に向けて進行してくるのを被告人の位置から約九四メートル離れた地点に認め、ついで、左側大宮市方向を見たところ、一台の自動車が二車線のうちのセンターライン寄りの車線を本件交差点に向けて進行してくるのを工藤車よりもやや交差点に接近している地点に認めたこと
4 被告人は、右のような道路ならびに車両等の状況を認識したうえ、前記一時停止をした地点から時速約五ないし一〇キロメートルで交差点内へ進入して進行したが、約五・二メートル進行した地点で、国道左側から進行してくる前記自動車が約二九メートル離れた地点まで接近してきているのに気付き、そのまま進行した場合の同車との接触の危険を感じ、同車を先に通過させるため直ちにブレーキを踏み、さらに約二・二メートル進行して、自車の前部がセンターライン付近に、また後部が工藤車の進行車線に残った状態で停止したこと
5 工藤は、被告人車と約七〇メートル位離れた地点で被告人車を認め、それまで通り時速約五〇キロメートルで進行を続けたが、被告人車の前記のような進行状況から自車との衝突の危険を感じ、急制動をかけて停止したことの各事実が認められる。
そこで、工藤車が急制動をかけた原因につき、右の事実関係をもとにさらに具体的に検討する。
まず、右に認定した工藤車の進行車線、被告人車および工藤車の進行速度、被告人車発進時の被告人車と工藤車との距離関係等からすれば、被告人車が後部を工藤車の進行車線に残してセンターライン付近で停止することなくそのまま進行していれば、被告人車が工藤車の進行車線を横断しきった後工藤車は何ら速度や方向を急に変えることなく、本件交差点を通過しえたものと認められる。
他方、被告人が本件交差点へ進入した時点からセンターライン付近で停止するまでの時速(五ないし一〇キロメートル、七・五キロメートルとして計算する)および進行距離(約七・四メートル)から計算される経過時間(7.4m÷7500/3600m≒3.55秒)をもとに、その間の工藤車の進行距離を計算すると、約四九メートル(50000/3600m×3.55≒49m)であるから、被告人車がセンターライン付近で停止した時点における被告人車と工藤車との距離は約四五メートル(94m-49m=45m)となるのであり、また、これに、被告人が工藤車を確認し、ついで左方の車を確認して発進するまでにある程度の時間的間隔があることをも考慮すると、右四五メートルという距離はさらに短縮されることになる。したがって、工藤車がそれまで時速約五〇キロメートルで進行してきている以上、その秒速および制動距離からすれば、被告人車がセンターライン付近で後部を工藤車の進行車線に残して停止したために、工藤車は、これとの衝突を避けるべく急制動を余儀なくされたことが明らかである。
このように、工藤車が急制動を余儀なくされた直近の原因は、被告人車がセンターライン付近で停止したためであると認められる。しかしながら、先に認定したような本件現場の道路状況ならびに各車両の位置、速度、被告人車の車体の長さ等の客観的状況からすれば、被告人車は、国道の左方から本件交差点に進入してくる車両との衝突の危険が生ずるため、センターライン付近でいったん停止して同車両を通過させる必要が生ずること、ならびに、その場合には国道の右方から接近中の工藤車が被告人の車両との接触を避けるため急制動をかけなければならないこととなるおそれがあることが、被告人が本件交差点に進入する時点においてすでに当然に予測されたものと認められるのであるから、工藤車の急制動の原因として被告人車のセンターライン付近での停止行為のみをとりあげるのは相当ではなく、そもそも、右のような状況にありながら被告人が本件交差点に進入を開始したことが原因であると認めるのが相当である。したがって、被告人の本件所為は法二条一項二二号、三六条二項にいう進行妨害に該当するものであり、かつ、被告人が前記4で認定のとおり本件道路の状況、車両の位置関係等の状況を認識しつつ本件交差点への進入を開始したものである以上法三六条二項違反の罪の犯意に欠けるところはなく、被告人につき同条項違反の罪の成立は免れないのである。
(堀江 森 中野)