大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和53年(う)2158号 判決

被告人 山根孝之

〔抄 録〕

本件は被告人が昭和五三年三月一三日ごろから同年四月一七日ごろまでの間に前後四回にわたりいずれも京浜急行電鉄金沢文庫駅に停車中あるいは同駅付近を走行中の電車内において、乗客のズボンうしろポケット内から現金または現金等在中の財布をすり取った(窃取した現金は合計九万三、七五〇円)という事案であって、被告人は犯行当時横浜市所在の勤務先に京浜急行電鉄の電車を利用して通勤していたが、浦賀駅からいつも電車の最後尾の車両に乗り、車内が混み合っているのを利用して、他の乗客のズボンのうしろポケットあたりに手を触れるなどして財布等がはいっているのを確認していわゆるあたりをつけておき、その電車が金沢文庫駅で後部に二両増結されることになっていたため、電車が同駅につくと乗客らが先を争って右増結車両に乗り移ろうとする混雑に乗じ素早く前記あたりをつけておいた乗客のズボンのうしろポケットから財布等を抜き取るという極めて巧妙な手馴れた手法で犯行を重ねていたものであること、被告人は昭和四九年七月二日にも本件と同種事案の京浜急行電鉄電車内におけるすりの事犯で検挙され、その際は起訴猶予処分となったのにその後間もなく電車内でのすりを繰り返すようになり、右犯行によって得た金員を競馬、キャバレー遊びなどの遊興費にあて、原判示第四の犯行で被害に気付いた乗客に現行犯で逮捕されるまでの間その犯行は数百回に及び、窃取金員も数百万円に達していることが窺われ、被告人が当時社会福祉法人という堅実な職場に勤務しながら職場の上司・同僚や家人らにも知られないようにして右のように長期間すりを続けて来たものであることなどを考えると、被告人のこの種犯行を繰り返す性癖はかなり強固であると評価せざるを得ない(なお、原判決は被告人の余罪について、その回数がいかに多く、また被害額が巨額にのぼろうとも、これを正面切って量刑の事情としてくみ入れることはできない旨説示するけれども、刑事裁判における量刑は、被告人の性格、経歴、犯行の動機、目的、手段等全ての事情を考慮して裁判所が法定刑の範囲内において適当に決定すべきものであるから、その量刑のための一資料としていわゆる余罪をも考慮することは、それが右余罪事実について被告人を実質的に処罰する趣旨でない限り許されると解するのが相当である((昭和四一年七月一三日最高裁判所大法廷判決、刑集二〇巻六号六〇九頁参照))。したがって本件においても被告人の前記余罪を被告人の性格、本件各犯行の動機、目的等を推知するための一資料として考慮することは当然許容されるというべきである。)。

(小松 千葉 鈴木)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!