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東京高等裁判所 昭和53年(う)2843号 判決 1979年7月10日

主文

原判決中判示第二の罪につき罰金を言渡した部分を破棄する。

被告人を右第二の罪につき罰金一万円に処する。右罰金を完納することができないときは金二、〇〇〇円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。

その余の本件控訴を棄却する。

当審における未決勾留日数中一五〇日を原判決中の判示第一の罪の刑に算入する。

当審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

<前略>

三次に、職権をもつて原判示第二事実に関する事実認定の当否につき、原審記録及び当審における事実取調べの結果をも合わせ調査してみるに、原判決は「被告人は業務その他正当な理由による場合でないのに、昭和五二年五月二一日千葉県東葛飾郡沼南町高柳七一三番地の九渡来光夫方居宅において刃体の長さ22.5センチメートルのあいくち一振(昭和五三年押第二九号の一四)を携帯したものである」と認定し、右事実につき昭和五二年法律第五七号銃砲刀剣類所持等取締法の一部を改正する法律附則三項、同法律による改正前の銃砲刀剣類所持等取締法三二条二号、二二条に該当するとしているが、あいくちは同法二条二項が「刀剣類」の定義としてこれにあたる刃物を制限的に列挙して規定している中に含まれており、「刀剣類」に該当するものであると考えられるところ、同法二二条に規定されている「刃体の長さが六センチメートルをこえる刃物」とは前記「刀剣類」に該当する刃物以外の刃物を指していると解すべきであるから、原判決が本件あいくちを同法二二条の刃物にあたるとして前記のような事実認定をなしたのは、同条文の解釈、適用を誤りその結果事実を誤認したものと認められ、右の誤認は原判示第二事実の構成要件的評価に変更をきたすこととなるので、判決に影響を及ぼすことの明らかな事実誤認があるといわなければならない。したがつて、弁護人の控訴趣意書中第一、四、(1)、(2)の主張に対する判断をするまでもなく、原判示第二の罪とその余の罪(原判示第一、(一)、(二)、(三)の罪)とを併合罪として原判示第二の罪について罰金刑を選択し、これを併科した原判決中判示第二の罪に関する部分の破棄を免れない。

よつて、原判決中原判示第二の罪につき罰金を言渡した部分については刑訴法三九七条一項、三八二条によりこれを破棄することとし、なお、当審検察官が予備的にした訴因及び罰条の追加請求を許可したうえ、同訴因は本来的訴因の証拠及び当審において取調べた鑑定証人服部善三郎の供述によりこれを認めることができる(本件あいくちを被告人が所持していた点については、原判決の挙示する関係証拠によれば、司法警察員千葉勝弥は原判示の渡来光夫方の捜索差押令状執行のため昭和五一年五月二一日午後三時ころ右渡来方に赴き、同人方二階に上つたところ、同二階東側のベランダに被告人がおり、同ベランダ西側に接続する廊下上にビニール付紙袋が置いてあり、被告人は警察官の姿を認めるや、その制止をふりきつて逃走したこと、右紙袋及びその中に入つていたものは渡来光夫及びその家族の者の所有物ではないこと、右紙袋内には本件あいくちのほか、稲川会林一家と肩書のある佐々木久の名刺三枚、人物写真二枚(一枚は被告人の子供が写つており、他の一枚は被告人の母親らが写つているもの)等が入つており、また、右紙袋から被告人の左手拇指指紋が発見されていること、被告人は同年五月二一日午前零時三〇分ころから右渡来光夫方二階に来て、同日午後三時過ぎころ、警察官の姿を見て逃走するまでの間引き続き同所に滞在していたこと等の事実が認められ、これらの事実を総合して考察すれば、右紙袋及びその中に入つていた本件あいくちも被告人が所持していたものであることを十分認めることができる。)から当裁判所は右破棄部分について同法四〇〇条但書により更に次のとおり判決する。

(罪となるべき事実)

被告人は法定の除外事由がないのに、昭和五二年五月二一日千葉県東葛飾郡沼南町高柳七一三番地の九渡来光夫方居宅において刃渡り約21.3センチメートルの短刀(あいくち)一振(当裁判所昭和五三年押第九八三号の一四)を所持したものである。

(証拠の標目)<略>

(法令の適用)

被告人の判示所為は昭和五二年法律第五七号銃砲刀剣類所持等取締法の一部を改正する法律附則三項、同法律による改正前の銃砲刀剣類所持等取締法三一条の三・一号、三条一項に該当するところ、所定刑中罰金刑を選択し、右は原判示第一、(一)、(二)、(三)の罪と刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条一項により原判示第一、(一)、(二)、(三)の罪の懲役刑と併科することとし、所定罰金額の範囲内で被告人を罰金一万円に処し、右罰金を完納することができないときは、同法一八条により金二、〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

その余の本件控訴は刑訴法三九六条によりこれを棄却し、刑法二一条を適用して当審における未決勾留日数中一五〇日を原判決中の判示第一、(一)、(二)、(三)の罪の刑に算入し、当審における訴訟費用については刑訴法一八一条一項本文により全部被告人に負担させることとする。

以上の理由によつて主文のとおり判決する。

(向井哲次郎 小川陽一 中川隆司)

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