大判例

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東京高等裁判所 昭和53年(う)383号 判決

被告人 山本芳正 外二名

〔抄 録〕

よって、記録を調査して検討すると、原判決挙示の証拠、なかんづく原審証人高橋久男、同嶌寺宣博の各供述(公判調書添附の皇居総図を含む。)によれば、

(一)、被告人らおよびその共犯者が走り込んだ坂下門および宮内庁庁舎前附近は、皇居を東西に分ければ、西地区に属し、西地区を特別区域、準特別区域、一般区域に分ければ、一般区域に属すること

(二)、皇居は、その周囲を濠、堤、塀、門扉などによって囲まれ、外部と明瞭に区画されているところ、被告人らの走り込んだ皇居西地区、一般区域も、外部と濠で区画され、ただ、坂下門によって外部と接するが、坂下門には扉が設けられてあるほか、右坂下門よりさらに外に、人の容易に乗り越え難い鉄柵が設けられてあり、その傍で皇宮護衛官が出入を規制し、身分証明書、通行証等の所持者その他特別の許可のあった者を除き、入門を許されていないこと、

(三)、皇居の管理者は、国有財産法、同法施行令、内閣及び総理府所管国有財産取扱規則等により、宮内庁管理部長であること、

(四)、皇居西地区、一般区域にある最も大型で、顕著な建物は、宮内庁庁舎であって、これを囲繞する形で西地区、一般区域が存在しているところ、右宮内庁庁舎も、西地区、一般区域も、ともにその管理者は、宮内庁管理部長であること、

以上の各事実を認めることができ、これらを総合すれば、被告人らが、宮内庁管理部長管理にかかる宮内庁庁舎等の囲繞地に侵入し、もって人の看守する建造物に侵入した事実を優に認めることができる。

なお、被告人らの走り込んだ皇居西地区、一般区域は、その北側で、天皇の私的な住居の存する吹上御苑(皇居西地区、特別区域)に接し、東側で、皇宮警察本部が使用している皇居東地区、公用区域に接しているが、吹上御苑は、天皇の住居の囲繞地と解せられ、皇居東地区、公用区域は、皇宮警察本部庁舎の囲繞地と解するのが相当である。さらに、皇居西地区、一般区域は、その西側では、天皇の国事行為など公的行事が行なわれる宮殿(特別区域に属する)の存する地域(準特別区域に属する。)に接しているけれども、この間を結ぶ塔の坂には、両区域の境界を示すような構築物はなんら存しないから、両区域を、それぞれ宮内庁庁舎の囲繞地および宮殿の囲繞地として、二個の建造物が存するものとは解し難い。もっとも、宮殿は、宮内庁管理部長の管理する他の建物と異り、特に設けられた宮殿管理官が管理することとされているけれども、宮殿管理官は、宮内庁管理部に置かれ、管理部長の下に位置するものであるから、宮殿が、宮内庁管理部長が直接管理する宮内庁庁舎と、とくに管理の形態を異にしているものとはいえない。

また、皇居西地区、一般区域内には、宮内庁女子職員宿舎および坂下護衛署庁舎が存在することが認められるところ、右職員宿舎は個々の職員の住居であり、右護衛署庁舎は皇宮警察本部の管理の下にあるものと解せられるが、そのような建物が区域内に存在するとしても、このことが、皇居西地区、一般区域を宮内庁庁舎の囲繞地と解することの妨げとなるものではない。

所論は、建造物の付属地に対する侵入が、その建造物における業務の平穏が害されるのと同程度の平穏に対する侵害を生ずる場合に限って、その付属地を囲繞地であると解するべきであり、本件の場合、宮内庁庁舎に密接する部分、例えば内庭等のみが、建造物と評価される部分であって、宮内庁庁舎前広場ないし道路は、宮内庁庁舎の囲繞地とみることはできないという。しかしながら、建造物の管理者が、建造物の周囲に門、塀、濠等を設け、その内部への立入を規制するゆえんは、建造物の平穏を維持するためであることは、多言を要しないから、犯人において門、塀、濠等の内部へ立ち入った以上、建造物そのものの平穏を害したものと解するべきことは、当然である。本件の場合、被告人らが、坂下門および宮内庁庁舎前広場の平穏を害したことにより、宮内庁庁舎そのものの平穏も害したこととなるのであって、建造物侵入罪が成立するためには、そのうえさらに、宮内庁庁舎内における執務が妨害される具体的危険が発生したことまで必要とするものではない。庁舎および庁舎に密接する部分、例えば内庭等のみを建造物と解するべきであるとする所論は、独自の見解であって、採用することができない。

所論は、被告人らの侵入した地域は、極めて広大であって、形状が著しく異様であるから、社会通念上単一の囲繞地ということはできないという。しかし、前記のとおり、宮内庁庁舎およびこれを囲繞する地域の管理の状況に照らすと、右は一つの建造物の囲繞地と解せられるのであって、面積が広いこと、その形状が四辺形、円形などの単純なものでないことは、右の結論を左右するものではない。

被告人らが、宮内庁管理部長管理にかかる皇居内宮内庁庁舎等の囲繞地地域に侵入し、もって人の看守する建造物に侵入した旨認定した原判決には、事実の誤認はなく、論旨は理由がない。

(綿引 藤野 三好)

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