東京高等裁判所 昭和53年(う)892号 判決
被告人 山尾庸泰
〔抄 録〕
そこで検討すると、原判示の文書が板倉父子らの生命・身体・名誉・財産などに対し、暗に危害を加えるべき意思が表示されており、いわゆる脅迫文書であることは明らかであるところ、原判決挙示の関係証拠によれば、被告人は、板倉父子が原判示第一の事件に関連して捜査官に対し供述した内容を知ってこれに不満を抱き、同人らを畏怖させる目的で東京拘置所において右文書をみずから作成したのであるから、被告人は脅迫罪の構成要件に該当する事実の認識に欠けるところはなく、したがって脅迫罪の犯意があることは明らかである。もっとも、東京拘置所長作成の「被告人の発信の検閣等について」と題する照会回答書によれば、東京拘置所においては、在監者の発受する信書を検閣し、それが恐喝・脅迫などの犯罪を構成するものであるときは、信書の一部を抹消し、又は発受信そのものを不許可にすることとしており、このことは在監者に対し、「所内生活の心得」においてあらかじめ周知させているというのであり、これによれば、被告人は本件文書の発信が許されたことにより、右文書が脅迫罪を構成するものでなく、これを板倉父子に郵送することが法律上許されるものと誤信したと窺われないでもない。しかし、そうだとしても被告人が右のように誤信したことは所論のように事実の錯誤ではなく、いわゆる法律の錯誤にほかならず、しかも、本件の場合、被告人が作成した右文書を検閣した係官において、何らかの事情で誤ってそのまま発送することがあることも予想しえなかったわけではないから、被告人が本件の行為を許されたと信ずるについて相当な理由があるとはいえない。それで被告人が脅迫罪の犯意を免れることはできない。
(環 斉藤 小泉)