東京高等裁判所 昭和53年(く)200号 決定 1978年8月15日
被告人 田代季徳
主文
本件抗告を棄却する。
理由
抗告申立書及び理由補充書による本件抗告の趣意は、要するに、原移送決定は違法不当であり、かつ、申立人らは右決定により著しく利益を害される場合にあたるから、原決定を取り消されたいというものである。
よつて案ずるに、刑訴法一九条一項による移送の決定に対しては、同条三項にいう「その決定により著しく利益を害される場合に限り」制限的に即時抗告をすることができるものであるから、この点の所論について検討すると、予想される弁護人側証人の出廷、勾留中の被告人に対する接見、弁護人の裁判所との折衝等における不便は、東京、千葉間の距離関係交通事情等にかんがみ、本件が千葉地方裁判所で審判され被告人が千葉拘置所に勾留される場合と、東京地方裁判所で審判される場合との比較において、後者の場合とくに著しいものがあるとは認めがたく、また、弁護権行使の便宜、審判の整一並びに量刑の均衡の点を考慮してみても、本件が千葉地方裁判所の担当裁判部において審判を受ける場合と、東京地方裁判所の担当裁判部において審判を受けるにいたる場合とで、とくに顕著な差違を生ずるものとは認められず、所論諸事情を総合して考慮してみても、いまだ本件移送の決定により著しく利益を害されるとすることはできない。
なお、千葉地方裁判所における事件負担の現状にかんがみれば、裁判所全体が国法上の責務として負わされている適正迅速な事件処理を実現する方策のひとつとして、本件移送は効果的であると認めるに足りるから、原裁判所が諸般の事情を考慮してこの方策を適当であるとした判断に誤りがあるということはできず、所論予断乃至起訴状一本主義の問題は、移送の請求を受けた裁判所が請求の当否を審理し移送の決定をしたにとどまる本件の場合において、そもそも生じようがなく、また、所論管轄の問題は、刑訴法一九条一項にいう管轄裁判所には固有の土地管轄を有する裁判所及びいわゆる関連事件管轄を有する裁判所を含むものであることは規定の位置及び文言上明らかであるところ、当審事実調の結果によつても、本件について東京地方裁判所に管轄が存することは認められ、原決定にその他所論の違法も認められず、従つてまた、所論の違憲をいう点はいずれも主張自体の前提を欠くものである。
以上のとおりであつて、本件抗告は理由がないから、刑訴法四二六条一項により主文のとおり決定する。
(裁判官 木梨節夫 渡邊達夫 柴田孝夫)