東京高等裁判所 昭和53年(ツ)16号 判決 1980年12月16日
上告人
能登正治
右訴訟代理人
梓沢和幸
被上告人
渡辺正三
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人梓沢和幸の上告理由について。
所論は、原判決の理由齟齬、判例違反をいうが、要するに、上告人は本件建物の前々主亀井辰太郎の本件土地占有開始後二〇年の経過により本件土地につき賃借権を時効により取得したとの上告人の主張を原審が排斥したことを非難するものである。
他人の土地の用益がその他人の承諾のない賃借権の譲渡に基づくものである場合においても、土地の継続的用益という外形的事実が存在し、かつ、その用益が賃借の意思に基づくものであることが客観的に表現されているときは、その土地の賃借権を時効により取得することができるものと解すべきこと(最高裁判所昭和四四年七月八日判決民集二三巻八号一三七四頁参照)は所論掲記のとおりである。
しかし、原審が適法に確定したところによれば、(一) 昭和二三年一二月一〇日亀井辰太郎は長野一始から本件建物を買受けて本件土地の占有を開始し、昭和三二年一一月一三日竹田マス(亀井の内妻)は亀井から本件建物を譲受けて引続き本件土地を占有し、昭和三八年七月一日上告人は竹田から本件建物を買受けて以後本件土地を占有している、(二) 上告人は本件建物買受当時本件土地の所有者は亡村田金太郎の相続人であり、その者のために被上告人が右土地の賃料を受領して、これを取次いでいるものと考えていた、(三) 昭和三八年一二月頃上告人は被上告人に対し一年分の賃料として大豆三斗分に相当する金三〇〇〇円を持参提供したが受領を拒否され、また、その頃被上告人に本件土地の借地を申入れたがこれも断わられ、かえつて本件建物の取毀しを求められた、(四) 昭和三九年四月末か五月初め頃上告人は村田かね(金太郎の相続人義一の妻)に本件土地の賃借の申込をしたが契約締結には至らなかつた、(五) 上告人は昭和四〇年頃から毎年三〇〇〇円を賃料として供託している、というのであり、右認定の事実関係の下では、上告人が前記昭和三八年七月以降賃借意思に基づいて本件土地の使用を継続し、しかもその意思に基づくことが客観的に表現されていたものということはできないから、上告人の賃借権時効取得を認めることはできず、原審が右の抗弁を排斥したのは正当であり、原判決に所論の違法はなく、論旨は理由がない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条本文、八九条を適用して主文のとおり判決する。
(吉岡進 手代木進 上杉晴一郎)