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東京高等裁判所 昭和53年(ネ)1292号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【判旨】

五不法行為の主張について判断する。

1 原島が以上認定のようにして、権限がないのに、注文書を勝手に作成するなどして、正当な代理人であるかのように行動し、被控訴人名義で控訴人との間に本件契約を締結したことは、故意又は過失に基づく控訴人に対する不法行為であると解されるところ、原島が被控訴人の被用者であつた事実は当事者間に争いがなく、右に認定した事実によれば、原島は、被控訴人会社の工事主任の肩書を有する現場監督として、下請負人との見積額、代金額の下交渉等を含む前記三1認定の職務に従事し、内部的には工事実行の責任者として下請負人の工事の進行につき監督者的立場にあつたものとみることができ、また、<証拠>によれば、被控訴人は、代表者を含めて役員、従業員合計一一名の小規模な会社であることが認められ、このような会社の右のような地位にある者が、下請工事の代金額の決定、発注をすることは、外形上、その職務の範囲内の行為に属するものと認めるのが相当であり、したがつて、本件契約の締結は原島が被控訴人の事業の執行についてした行為であるというべきである。

2 被控訴人は、控訴人の悪意又は重過失を主張する。原島が、河野製作所と被控訴人との間の元請負契約の成否未確定の間に、しかも、元請負の見積価格よりはるかに高額な価格で、控訴人に下請工事を発注したことは、不可解というほかはないが、このことから、原島が、何らかの利得を図つて控訴人と通謀し、控訴人も原島の無権限であることを知りながらあえて契約を締結したものとまで推定することは困難であり、他に控訴人が原島の無権限の事実を知つていたものと認めるに足りる証拠はない。また、控訴人は、本件契約締結にあたり、注文書の印影を注意深く見れば、これが偽造であることを疑いえたのにこれを看過し、元請負契約の成否を確かめる手段をとらず、被控訴人会社の社長又は専務に契約の諾否を問い合わせ確認することをしなかつたなどの点に若干の過失があつたことは免れないものの、別件契約に際しては、細部の打合せ、交渉は原島としたのであり、更に、<証拠>によれば、河野製作所東松山工場の建築の設計図は、松村一級建築士事務所によつて、一部は昭和四九年一二月に、残部も同五〇年一月中に作成されていて、控訴人会社代表者は、原島と、右設計図に基づいて下請工事の仕様などについての打合せをし、更に右工場建築の現場をも見分したうえで、本件契約を締結したものであることが認められ、これらの経過からすれば、控訴人会社代表者において、被控訴人の工事主任たる原島にその権限があるものと信じて同人の本件契約を締結したことについて、賠償責任をすべて阻却せしめるほどの著しい注意の欠如があつたものとまでみるのは相当でない。したがつて、この点の被控訴人の主張は理由がなく、被控訴人は、原島の不法行為により控訴人の被つた損害を賠償する責を免れない。

六そこで、損害額について検討する。

1(一) 原審における証人鯨井尊の証言から、原本が存在し、かつ、<証拠>によれば、控訴人は、本件契約が有効なものと信じ、その履行のため、訴外東邦物産株式会社から、本件工事のための鋼材を少なくとも一一万五六一二キログラム購入し、その代金七〇九万五六三三円を支払つた事実が認められる(甲第八号証の六と第一四号証の六とは、数量、金額に若干の違いがあり、いずれが正当か明らかでないので、少額の前者をとる。)。控訴人は、鋼材一三万三七〇三キログラム、代金八二九万七〇八三円相当を購入した旨主張し、右代表者の供述並びにこれによつて<証拠>にはこれに沿う部分があるが、右認定の数量、金額を超える部分については、他に請求書、納品書等の裏付がないので、採用することができない。また、当審における証人鯨井尊の証言により<証拠>各記載の金額は、右証言に照らし、本件工事以外の分を含むものと認められ、その部分を識別しえないので、右主張事実を認める資料とすることができない。

(二) 控訴人会社代表者の供述及びこれにより<証拠>によれば、控訴人は、訴外フルサト工業株式会社から、本件工事の副資材として請求原因5(二)記載の物件を代金合計一八万八五九六円で買い受けた事実が認められる。

2(一) 原審における証人鯨井尊の証言、控訴人会社代表者の供述によれば、控訴人は、右鋼材の加工に着手後、被控訴人から発注の事実がない旨を告げられて工事を中止し、右鋼材及び副資材を他に転用しえず、結局これを屑鉄として処分するほかなかつたことが認められ、右鋼材の廃材価格が四三二万五一八〇円であつたことは控訴人の自陳するところであつて、被控訴人の工事中止申入れ当時における価格又は控訴人が現実に処分して得た利益が右金額を超えるものであつたことを認めるべき証拠はないから(甲第九号証、第二一号証記載の売買価格は右金額を下廻つている。)、前記鋼材及び副資材の購入価格合計七二八万四二二九円と右廃材価格四三二万五一八〇円との差額二九五万九〇四九円の損害が生じたものと認められる。

(二) <証拠>によれば、控訴人は、訴外鈴木悟に、本件工事の人夫賃として六四万八〇〇〇円を支払つた事実が認められる。控訴人は、工賃、消耗費等として合計二二七万三二〇〇円を支出した旨主張し、控訴人会社代表者の供述、これによつて<証拠>にはこれに沿う部分があるが、右認定の鈴木悟への支払を除いては、領収証等の裏付がなく、採用することができない。なお、右供述により真正に成立したものと認められる甲第一〇号証の一ないし一九の作業日報の記載も、工賃の単価が明らかでないので、人件費算定の資料とするに足りず、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる<証拠>の鉄骨建築標準単価も、工事の中止時点までの進行程度が必ずしも明らかでない以上、控訴人が要した費用の算定の根拠とはなりえず、他に右工賃、消耗費等の損害総額を確定すべき資料はない。したがつて、この点の損害額は、右の六四万八〇〇〇円のみが認められる。

(三) 本件不法行為により控訴人の被つた損害は、右(一)と(二)の合計三六〇万七〇四九円である。

七前記五2に認定したとおり、控訴人が原島に本件契約締結の権限があるものと信じたことには、若干の過失があるものと認められるので、本件損害賠償の額については、右過失を斟酌して三割を減ずるのを相当とすべく、したがつて、被控訴人の賠償すべき損害額は二五二万四九三四円(円未満切捨)となる。

(小河八十次 日野原昌 野田宏)

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