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東京高等裁判所 昭和53年(ネ)187号 判決 1981年5月27日

控訴人(原告・反訴被告) 増田浩二

被控訴人(被告・反訴原告) 古河電気工業株式会社

被控訴人(被告) 原子燃料工業株式会社

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、本訴につき「原判決を取り消す。控訴人が被控訴人両名に対しそれぞれ雇用契約上の権利を有することを確認する。控訴人が被控訴人古河電気工業株式会社(以下単に被控訴人古河電工という。)中央研究所において勤務する義務が存在しないことを確認する。被控訴人らは、控訴人に対し、連帯して金三四三万九五一二円及び昭和五三年一〇月以降毎月二五日限り一か月金四万九八四八円の割合による金員を支払え。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、反訴につき「原判決を取り消す。被控訴人古河電工の請求を棄却する。訴訟費用は、第一、二審とも同被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人古河電工代理人は、本訴及び反訴につき控訴棄却の判決を求め、被控訴人原子燃料工業株式会社代理人は、本訴につき控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述、証拠の提出、援用及び認否は、次のとおり付加するほか、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

(控訴代理人の陳述)

懲戒解雇処分は他の懲戒処分に比し特段に重大な不利益処分であるから、使用者は、懲戒解雇処分をなすにあたつては、労働協約ないし就業規則に定められた手続を厳格に履行しなければならないことはもちろん、当該被処分者に対し、その懲戒事由につき告知、聴聞の機会をあたえ、その弁明をまち、それが真に懲戒解雇に妥当するかを十分に検討することが義務づけられているものというべきところ、被控訴人両名は、控訴人に対し、事前に本件懲戒解雇事由について何らの告知をしなかつたのみならず、これにつき弁明の機会を与えることなくして、まさしく不意打ち的懲戒解雇処分をなしたものである。本件懲戒解雇は、手続的にも信義則に反し、不当であるから、懲戒権の乱用として無効であるというべきである。

なお、控訴人の賃金債権に基づく請求の趣旨を改めて、控訴人は、被控訴人らに対して、昭和四七年一二月一六日以降昭和五三年九月一五日までの未払い賃金合計三四三万九五一二円(一か月四万九八四八円の六九か月分)と、同年一〇月以降毎月二五日限り一か月金四万九八四八円の割合による月額賃金との支払いを請求することとする。

(被控訴人ら代理人の陳述)

懲戒処分が有効か否かは、懲戒事由の存在及び具体的行為と懲戒処分の相当性の有無によつて決定されるべきであつて、いかなる手続に基づき懲戒処分を行なうべきかは、労働協約、就業規則等においてこれを制限する特段の定めがある場合のほかは、もつぱら懲戒権者である企業の判断にまかさるべきものであり、懲戒権行使の要件ではないと解すべきである。ところで、被控訴人古河電工と古河電工労働組合間の労働協約二二条においては、懲戒手続につき「組合に通知した後、懲戒に付する」と規定しているのみであり、この点就業規則においても五九条ないし六一条に同一の定めがあるのみで、これ以上に懲戒手続に関し自らを制限する規定を設けていないのである。しかし、被控訴人古河電工は、会社の控訴人に対する再三の説明説得と、組合の控訴人に対する最終説得との経過のなかで、事実上控訴人のこれに対する意見を聴取した後において、懲戒解雇に処しているのであるから、控訴人の主張する手続の不当性は存しない。

(証拠)<省略>

理由

当審における新たな証拠を加えてさらに審究した結果、当裁判所は、控訴人の被控訴人らに対する各請求は理由がないものと認め、被控訴人古河電工の控訴人に対する反訴請求は理由があるものと認める。その理由は、次に付加するほか、原判決がその理由において説示するところと同一であるから、これを引用する。

控訴人は、被控訴人らが控訴人に対して事前に本件懲戒解雇事由を告知せず、かつ、これにつき弁明の機会を与えなかつたことは、懲戒解雇手続として不当であるから、懲戒権の乱用に当たると主張するけれども、特に、労働協約、就業規則等において、控訴人の主張の如き告知・聴聞・弁明等の手続を経ることとしている場合のほか、右の手続履践をもつて懲戒解雇手続の要件とすることはできないものと解すべきであるから、右の特段の事情につき主張及び立証がないかぎり、控訴人の右主張は採用しがたい。

よつて、控訴人の本訴請求を棄却し、被控訴人古河電工の反訴請求を認容した原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないから、民訴法三八四条一項、九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 田宮重男 中川幹郎 真榮田哲)

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