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東京高等裁判所 昭和53年(ネ)1896号 判決 1981年3月24日

控訴人

かんべ土地建物株式会社

右代表者

神戸佐四郎

控訴人

神戸與平

右控訴人両名訴訟代理人

石川義郎

被控訴人

東京都

右代表者知事

鈴木俊一

右指定代理人

池田良賢

外二名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人は控訴人かんべ土地建物株式会社に対し三八〇〇万円、同神戸與平に対し四二〇〇万円及びこれらに対する昭和四七年七月二七日から支払ずみまで年五分の割合による各金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張及び証拠関係は、次のとおり付加訂正するほか、原判決摘示事実と同一であるから、ここにこれを引用する(但し、原判決五枚目裏一一行目の「四月六日付」を「四月一二日付」と、同別紙物件目録表三行目から四行目の「1468.76平方メートル」を「1468.16平方メートル」とそれぞれ訂正し、右目録表五行目から六行目の「幅9.5メートル延長153.20メートル」を削除する。)。

(控訴代理人の陳述)

一  控訴人かんべ土地建物株式会社の請求関係

原判決別紙物件目録記載の覆蓋(以下「本件覆蓋」という。)のうち同目録添付図面の青斜線で表示した部分も赤斜線で表示した部分も立会川両岸に接続する宅地を支点とし、立会川を跨いで鉄筋コンクリート造りの桁を作り、その上にスラブを置き、桁と桁との間に鉄筋を配し、それらを一体としてコンクリートの打込みをしたものであるが、護岸上端と本件覆蓋の下端とは0.05ないし0.3メートル位の間隙を存し、本件覆蓋は護岸に接着していないから、本件覆蓋が護岸ないし河川敷に附合する要件を欠いていた。

仮りに本件覆蓋が護岸ないし河川敷に附合したとしても控訴人かんべ土地建物株式会社(以下「控訴会社」という。)が昭和二七年八月二日品川区長から得た河川敷占用の承諾(原判決摘示事実のうち「(原告会社の請求について)」の五参照)は正式の占用許可の前提としての承諾であり、さらに昭和三〇年一〇月控訴会社が訴外秋島建設株式会社(以下「秋島建設」という。)から、本件覆蓋のうち青斜線部分を譲り受けた際、控訴会社は品川区当局から、秋島建設と同様に右覆蓋の存する部分を占有して差し支えないといわれ、また、昭和三一年二、三月ころ秋島建設を介し品川区当局から同様の意向を伝えられたものであり、いずれにせよ、控訴会社は本件覆蓋の附合の権原を有していたから、控訴会社は本件覆蓋の所有権を保有していたものである。

二  控訴人神戸與平の請求関係

原判決摘示事実のうち「(原告神戸の請求について)」の一、2の四行目の「同年七月一〇日」から六行目の「強行したから、」までを「同年七月一一日には前記取壊しを完了したので、代執行の必要はなくなり、また、そもそも被控訴人主張の下水道整備計画事業は早急にこれに着工しなければならない状況に立ち至つていたわけではなく(現に昭和五四年一月二五日現在においてすら、右事業は完成していなかつた。)、代執行は緊急の必要性を欠いていたのに、東京都知事(以下「知事」という。)は昭和四六年七月一二日代執行(以下「本件代執行」という。)を強行したものであり、しかも本件代執行は控訴人神戸與平(以下「控訴人神戸」という。)の所有でない本件覆蓋の除却を控訴人神戸に対する命令の執行として行い、知事はその費用を控訴人神戸に対し請求しているのであるから、」と訂正する。

(被控訴代理人の陳述)

控訴人ら前記主張事実はすべて争う。

(証拠)<省略>

理由

第一控訴会社の請求について

一本件覆蓋の設置

本件覆蓋のうち青斜線部分は東京府知事が昭和五年から同八年の間に築造して訴外鐘ケ渕紡績株式会社に譲渡し、同会社が昭和二七年二月二七日秋島建設にこれを譲渡したこと、その後、立会川上に本件覆蓋のうち赤斜線部分が築造されたことは、当事者間に争いがない。

そして、立会川のうち本件覆蓋の存在する部分一帯は、東京府が昭和五年から同八年にかけて、河口から品川用水分流点までを河川区間として河川工事により築造したものであつて、当時は普通河川であつたが、昭和一六年東京府知事は旧河川法準用令一条の規定によりこれを河川法準用河川として認定し、その後、右河川は昭和四〇年四月一日現行河川法施行法の施行に伴い二級河川となつたこと、立会川は当初は東京府知事がその管理を行つていたが、昭和一八年七月一日からは、東京都区長委任条項により、東京都品川区長の管理するところとなつたこと、昭和五年から同八年にかけて行われた前記立会川河川工事によりこの付近にあつた訴外鐘ケ渕紡績株式会社の工場敷地が分断され、その利用が制限されることとなつたので、東京府知事は右河川工事の際、付帯工事として、立会川の一部に覆蓋を施して(これが本件覆蓋のうち青斜線部分である。)、これを同会社に譲与し、公有土地水面使用規則(大正七年東京府令第七五号)に基づき、同会社に対し本件覆蓋のうち青斜線部分につき水面使用許可をしたこと、その後(同会社と秋島建設間の本件覆蓋のうち青斜線部分の譲渡の後に当る)昭和二八年ころ秋島建設が品川区長に対し水面使用名義の変更許可申請をしてきたので、品川区長は該許可を与えたうえ、昭和二七年四月一日付で使用目的を工場内通路及び寄宿舎設置、使用期間を一年とする使用許可を秋島建設に与えたこと、以後秋島建設は本件覆蓋のうち青斜線部分上に工事用飯場を設け、継続使用許可を受けて、使用してきたことは控訴会社において明らかに争わないから自白したものとみなす。

二本件覆蓋の所有権の帰属について

1  控訴会社は、「昭和三〇年一〇月中控訴会社が本件覆蓋のうち青斜線部分を秋島建設から譲り受け、また、昭和三二年から同三四年までの間に控訴会社が本件覆蓋のうち赤斜線部分を築造し、それぞれの所有権を取得した。」と主張し、原審における証人衛藤正之、同神戸勝次、控訴人神戸與平本人、当審における証人工藤寛治は、いずれも右主張に添うような供述をし、<証拠>にも、別件証人神戸勝次の同旨の供述記載が存する。そして、<証拠>(秋島建設の控訴会社宛昭和三〇年一〇月一日付念書)には、「一、伏見稲荷大明神並にその敷地と敷地上にある一切 一、上、下水道施設及浄化槽上家屋一棟 一、外灯並ネオン施設一切」を譲渡する旨の記載があり、また、<証拠>は、第三者の控訴会社宛鋼材及び生コン代金の請求書及び領収証等(日付は昭和三四年ないし同三六年中)であり、控訴人らの証拠説明によれば、これらは本件覆蓋のうち赤斜線部分の一部約148.76平方メートルの築造に使用された資材代金等に関するものであるというのである。

2  そこで、右1掲記の証拠の価値について検討する。

(一) 控訴会社において明らかに争わないで自白したものとみなすべき本件代執行に至る経緯に関する被控訴人の主張事実(原判決末尾添付の「被告の主張」と題する書面(四)ないし(六)記載の事実。但し、(四)の一、二行目の権利の譲受人を「原告神戸与平」とする点、右(六)の一三行目から一四行目の猶予期間を「三か月」とする点、同一六行目から一九行目の下水道整備計画事業の着工に関する説明部分、同二八行目から二九行目の「自主撤去の進捗状況によつてはその間においても代執行を行う旨回答した」とする点、同三二行目の「一部」とある点をそれぞれ除く。)に<証拠>を総合すれば、(1)控訴人神戸は、知事が昭和四〇年一〇月二一日付でした本件覆蓋及びその上に存する建物等の工作物(以下、判決理由第一においては、本件覆蓋を含め「本件工作物」と総称する。)の除却命令に続いて同年一二月一日付でした戒告に対する建設大臣宛の審査請求(昭和四一年一月二八日付)において、「同控訴人は昭和二七年八月二日に品川区長から、自費をもつて鉄筋蓋を施行するなら河川敷等の使用を認める旨の承諾を得、また、秋島建設から『占使用に係る権利の譲渡』を受けた際にも、同区長から正式の使用許可の前提として本件覆蓋の築造につき事前の許可を受けてこれを築造したものである。」旨主張したこと(右審査請求は昭和四五年九月一六日裁決で棄却されたが、右裁決は、その理由中で、控訴人神戸が無許可で本件工作物を河川敷の上に存置しているものと認定した。)、(2)控訴人神戸は昭和四五年一二月中東京地方裁判所に対し前記戒告処分の取消しを求める訴訟を提起したが、その訴状の中で、控訴人神戸が秋島建設から本件覆蓋についての権利の移転を受けた旨主張したこと(もつとも、この訴訟は昭和四六年三月三〇日訴の取下により終了した。)、(3)控訴人神戸は、知事が昭和四六年二月六日付でした本件工作物の除却命令(以下「本件除却命令」という。)に対する建設大臣宛の審査請求(昭和四六年四月六日付)においても、右(1)の審査請求におけると同一の主張をし、同年五月二七日請求棄却の裁決がされるまで右主張に変更がなかつたこと(右裁決は、その理由中で、控訴人神戸が無許可で本件工作物を河川敷の上に存置しているものと認定した。)、(4)控訴人神戸は、右審査請求を提起した後である昭和四六年四月一二日付で知事から戒告(以下「本件戒告」という。)を受け、これに対し数同に亘つて知事に代執行の猶予を申し入れ、同年五月一五日には自主的な撤去を確約したが、そのころから、本件覆蓋が自己の所有ではなく控訴会社の所有であるといいはじめたことが認められ、右認定事実によれば、本件覆蓋除却の要否をめぐる控訴人神戸と知事間の紛争の長年に亘る経過の裡で、控訴人神戸は終始本件覆蓋が自己の所有であることを前提として抗争してきたのであり、これを控訴会社の所有であると主張するに至つたのは本件代執行の直前になつてからであることが明らかである。そして、<証拠>によれば控訴人神戸は昭和二三年以降昭和五四年二月二二日まで控訴会社の代表取締役の地位にあつたものであるから(控訴人神戸が前同日代表取締役を辞任したことは記録上これを認めることができる。)、本件覆蓋が真実控訴会社の所有であるとすれば、知事が控訴人神戸を所有者と認定して前叙処分をしたことの違法についてはなんら格別の調査を俟つまでもなく直ちに判明したであろうのに、前叙処分に関する限りこのことを違法事由として主張した形跡は窺われない。それ故本訴において本件覆蓋が控訴会社の所有であると主張することは、従前の行政及び司法手続における主張を否認し、これと相反する事項を主張することに帰着するものである。

(二) 前記本件代執行に至る経緯に関する事実に<証拠>を総合すれば、控訴人神戸は、秋島建設から譲り受けた建物(その直接の譲受人がなんぴとであるかの確定はしばらく措く。)をローラースケート場に改築し、右建物につき昭和三二年二月二五日自己の名義で所有権保存登記を経由し、その後これを増改築し、新たに設置された本件覆蓋のうち赤斜線部分の上にも逐次建物等を建築した(その中には、固定資産課税台帳上、事務所122.80平方メートル、同60.33平方メートル、倉庫309.91平方メートル、事務所264.46平方メートルとして登録されていたものが含まれる。)。本件覆蓋のうち赤斜線部分も青斜線部分も叙上の建物等の基礎として使用され(建物のあるものは立会川河岸擁壁に埋設されたアンカーボルトにその構造部分が接合していたものあるいは本件覆蓋上にタイルを打つてその床面としていたものがあつた。)、したがつて、本件覆蓋は建物等と構造上不可分一体の関係にあつたことが認められる。

ところで、<証拠>によれば、本件覆蓋のうち青斜線部分とその上の建物はいずれも控訴会社が秋島建設から譲り受け、そのうち建物は控訴会社から控訴人神戸に譲渡し、控訴人神戸の所有としたというのであるが、同証人のいう控訴会社と控訴人神戸間に右建物の譲渡が行われたことを証する契約書その他の書証もないため、譲渡の成否ないし内容は判然とせず、むしろ、右建物が控訴人神戸の名義で所有権保存登記がなされているところからすると、右建物は控訴人神戸が譲り受けたと認めるべき相当の理由を具えているものとすべきである。そして、本件覆蓋とその上に建築された建物の前示のような一体関係に徴すれば、特別の事情がない限り、両者は取引上も一体として取り扱われるとみるのが通常の取引観念に合致するものというべきであるから、本件覆蓋のうち青斜線部分上に建築された建物を譲り受けたのが控訴人神戸であつたとすれば、本件覆蓋のうち青斜線部分もまた控訴人神戸がこれを譲り受けたものとみるべきである。してみれば、前掲甲第一四号証の念書記載の譲渡の目的物に本件覆蓋のうち青斜線部分が含まれるとしても、当該念書の宛名人(文面上の譲受人)が「かんべ土地建物株式会社社長神戸与平」とされていることを根拠に、本件覆蓋のうち青斜線部分を秋島建設から譲り受けたのが控訴会社であると認めるのは躇躊されるところである。

(三) 次に、前掲甲第二四ないし第二八号証(枝番を含む。)について検討するのに、(1)前掲甲第二四号証の一ないし三、第二八号証の一、二はⅠ型鋼の売買代金の請求書及び領収証であるが、このうち甲第二八号証の一、二の作成日付は昭和三六年三月であつて、右は控訴人ら主張の本件覆蓋のうち赤斜線部分の築造時期(昭和三二年から同三四年)と大きくかけ離れていること、甲第二五、第二七号証は支払の名目が書面自体では不明であること、甲第二六号証の一ないし三は生コンの代金の請求書及び領収証であつて、当該品名は必らずしも覆蓋と結び付くものでないこと、(2)前掲甲第三六号証の別件証人神戸勝次の供述記載によれば、控訴会社は本件覆蓋上の控訴人神戸所有の建物を営業のため使用していたが、該使用につき控訴人神戸との間ではつきりした契約を締結せず、建物使用の対価も支払わず、また、右建物の公租公課は控訴会社が控訴人神戸の名義で納付していたが、これに対し控訴人神戸から領収証を徴することなどをしなかつたことが認められ、また、本来控訴人神戸の負担すべき本件覆蓋上の工作物除却費用の一部も控訴会社の金で支払つていること後記第二の二1認定のとおりであり、以上によれば、控訴会社及び控訴人神戸ともその金員の収支につき放漫な会計処理を行つていた節が窺われるから、前記請求書、領収書の宛名が控訴会社になつていたとの一事により、控訴人ら主張の本件覆蓋のうちの赤斜線部分の一部を控訴会社がその購入した資材で築造したと認めることは無理である。(3)本件覆蓋のうち赤斜線部分の面積は約1069.16平方メートルであるから(本件覆蓋全体の面積は1468.16平方メートルであり、これから青斜線部分の図上計算上の面積約三九九平方メートルを差し引くと、赤斜線部分の面積は約1069.16平方メートルとなる。)、そのうちの148.96平方メートル(その所在は控訴人らの主張によつても定かでない。)の築造資材に関するものと説明される請求書及び領収証をもつて、本件覆蓋のうち赤斜線部分全部の築造が控訴会社の出捐によつてされたものと認定することができないことはいうまでもない。当審証人工藤寛治の証言によれば、本件覆蓋のうち赤斜線部分の築造工事そのものは控訴会社が担当施工したことが認められるが、もとよりこのことは叙上の判断を左右するものではない。以上の諸点をあわせ考えると、控訴会社が譲受あるいは築造によつて本件覆蓋の所有権を取得した旨の控訴会社の主張に添うような前記1記載の供述ないし供述記載はいずれも信用することができず、また、前記1記載の甲号各証も控訴会社の右主張を支える資料とすることはできないものといわなければならない。

3  さらに、<証拠>によれば、控訴会社の自昭和四五年四月一日至昭和四六年三月三一日事業年度の営業報告書の資産の部に、「品川区大井六三四八―一〇〇事店木陸2529.08平方メートル」に関する記載の存することが認められるが、右記載をもつて本件覆蓋が当該建物とともに控訴会社の資産の中に組み入れられていると認めることは適当でない。

4  他に控訴会社の前示主張を認めうる証拠はなく、かえつて、上来説示したところを総合すれば、本件覆蓋は控訴人神戸の所有であると認めるのを相当とするから、本件覆蓋が控訴会社の所有であることを前提とする控訴会社の請求は、その余の争点について審究するまでもなく理由がないというべきである。

第二控訴人神戸の請求について

一本件代執行の実施

控訴人神戸が本件覆蓋上に不動産営業所、駐車場、宴会場、卓球場、撞球場、橋梁、材料置場等の工作物を所有していたが、知事が控訴人に対し昭和四六年二月六日付で右工作物の除却命令(本件除却命令)を、同年四月一二日付で戒告(本件戒告)を、同年七月五日代執行命令を発し、同月一二日代執行を強行したこと(本件代執行)、本件代執行に先立つ同年五月一一日控訴人神戸が知事に対し六月末までに前記工作物を取り壊すことを確約したが、右期限までに前記工作物の取壊しを完了しなかつたこと及び本件代執行に至る経緯に関する被控訴人の主張事実(原判決末尾添付の「被告の主張」と題する書面(四)ないし(六)記載の事実。但し、前記第一の二、2、(一)の冒頭で、右事実から除いた事項は、ここでも除く。)は当事者間に争いがない。

二職権濫用の有無

控訴人神戸は、本件代執行は知事がその職権を濫用してなした違法行為であると主張するので、判断する。

1  控訴人神戸は、本件代執行が行われる前日の昭和四六年七月一一日には前記工作物の取壊しを完了した旨主張し、原審証人神戸勝次、当審証人工藤寛治は、右日時には残材の片付けを残すのみで、前記工作物の取壊しは終了していたと供述し、前掲甲第三六号証にも同旨の供述記載があり、さらに当審三木孝治の証言中にも同じ趣旨の供述部分が存するが、以上の供述ないし供述部分のうち工作物の取壊しが完了していたとする点は信用できず、かえつて、<証拠>によれば、本件代執行が行われた昭和四六年七月一二日の時点において、控訴人神戸は訴外三木建設株式会社に対し前記工作物の除却工事を請け負わせ(但し、その請負代金と右訴外会社の発生資材買受代金とを相殺した後の請負残代金一五〇万円は控訴会社の金によつて支払われた。)、右訴外会社において工事中であつたが、前記工作物のうちには壁や柱などがそのまま本件覆蓋に接合して残つている状況の建物もあつて、前記工作物の全部が完全に本件覆蓋から離脱していたのではないのみならず、前記工作物の解体による発生資材が山をなして本件覆蓋に残存している状態であつたことを認めることができ、右認定事実によれば、前記工作物の除却を命じた本件除却命令が履践されていなかつたことが明らかである。

2  また、控訴人神戸は、知事において本件代執行を行うべき緊急の必要性がなかつた旨主張するが、<証拠>によれば、立会川の下水道幹線化については、すでに昭和三七年三月三一日付建設省告示第一〇九二号をもつて都市計画事業の決定があり、東京都下水道局は昭和四四年より河川法所定の許可を受けながら下水道建設工事を施工中であつたこと、本件覆蓋の存する箇所も早急に着工しなければならない段階にきているのに、本件覆蓋及びその上の前記工作物が存するため施工できず、前記事業の進捗に大きな支障を生じたため、速かにこれを除却して前記工事を可能ならしめる必要があつたこと、その時期は七月以降の台風期が終了したならば前記工事に着工できるよう台風期の始まる以前が適当とされたこと、本件除却命令及び代執行命令は以上のような判断のもとに発せられたものであることが認められ、また、本件覆蓋上に前記工作物解体による発生資材が山積みにされていたのでは、地震や河川の流出によつて本件覆蓋が損壊した場合には、右資材の流出等によつて護岸の損壊、下流住民に対する危害が生ずるおそれがあることは自明のことであるから、本件代執行はこれを行うべき緊急の必要性を備えていたものというべきである。

3  控訴人神戸は、知事が控訴会社所有の本件覆蓋を控訴人神戸の所有であるとして同控訴人に対する命令の執行としてこれを除却し、しかも同控訴人にその費用を請求していることを論難するが、本件覆蓋が控訴会社の所有であるとは認められないこと先に説示したとおりであるから、控訴人神戸の右主張は前提において失当とすべきである。

以上によれば、知事の職権濫用をいう控訴人神戸の主張は採用できず、したがつて控訴人神戸の請求はその余の点について判断するまでもなく、失当とすべきである。

第三結論

以上説明したとおりであるから、控訴人らの本訴請求を棄却した原判決は結局相当であつて、本件控訴は理由がないから、これを棄却すべく、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(蕪山厳 浅香恒久 安國種彦)

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