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東京高等裁判所 昭和53年(ネ)242号 判決 1980年12月19日

控訴人

(附帯被控訴人)

日成観光株式会社

右代表者

古木健之

藤田辰治

右訴訟代理人

中山明司

右訴訟復代理人

堀井敬一

被控訴人

(附帯控訴人)

中平興産株式会社

右代表者

中平嘉弘

右訴訟代理人

大木章八

川上真足

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  附帯控訴に基づき原判決主文第一、二項を次のとおり変更する。

1  控訴人(附帯被控訴人)は被控訴人(附帯控訴人)に対し、金四九三万四七四四円及びこれに対する昭和四八年二月二七日から完済まで年六分の割合による金員を支払え。

2  被控訴人(附帯控訴人)のその余の本訴請求を棄却する。

三  訴訟費用は本訴、反訴及び第一、二審を通じてこれを三分し、その一を被控訴人(附帯控訴人)の、その余を控訴人(附帯被控訴人)の各負担とする。

四  この判決の第二項1は仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人(附帯被控訴人、以下「控訴人」という。)

1  (控訴)

(一) 原判決中控訴人敗訴の部分を取り消す。

(二) 被控訴人(附帯控訴人、以下「被控訴人」という。)の本訴請求を棄却する。

(三) 被控訴人は控訴人に対し、金四一四万九七〇三円及びこれに対する昭和四八年五月三一日から完済まで年六分の割合による金員を支払え。

(四) 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

2  本件附帯控訴を棄却する。

との判決

二  被控訴人

1  本件控訴を棄却する。

2  (附帯控訴)

(一) 原判決中被控訴人敗訴の部分を取り消す。

(二) 控訴人は、被控訴人に対し、金一七五四万七二四四円及びこれに対する昭和四八年二月二八日から完済まで年六分の割合による金員を支払え。

(三) 附帯控訴費用は控訴人の負担とする。

との判決

第二  当事者の主張

一  被控訴人の本訴請求原因

1  被控訴人は不動産の売買、斡旋等を業とする会社、控訴人はゴルフ場経営等を業とする会社である。

2  被控訴人は、昭和四六年一二月八日頃控訴人との間で、ゴルフ場用地買付けについて次のとおりの契約をした。

(一) 被控訴人は控訴人を代理して、ゴルフ場用地を長野県上水内郡牟礼村において買付ける。

(二) 控訴人は、土地所有者との間に売買契約が成立し、土地の引渡を受けたときは、被控訴人に対し、報酬として、昭和四五年一〇月二三日建設省告示第一五五二号(以下「本件告示」という。)の第二「売買又は交換の代理に関する報酬の額」に定める最高限度の額、すなわち、売買契約一回毎の代金額について、金二〇〇万円以下の部分につきその一〇パーセント、金二〇〇万円を超え金四〇〇万円以下の部分につきその八パーセント、金四〇〇万円を超える部分につきその六パーセントの割合で計算した金額の合計額を支払う。

3  被控訴人は、控訴人の代理人として、別表記載のとおり昭和四七年一月から一一月までの間に、同表記載の売主との間で、同表記載の面積の土地につき、同表記載の代金にて売買契約を締結した。そして、これらの土地は、遅くとも昭和四八年二月二七日までにはすべて控訴人に引渡された。

4  仮に、報酬額について前記2(二)の約定の存在が認められないとしても、被控訴人は控訴人に対し、商法第五一二条により相当額の報酬を請求しうる。右にいう相当額の報酬とは、一般慣行、定立された業者間協定による報酬規定等があればこれに準拠すべく、より具体的には依頼者の利益、買付業務の難易、業者の払つた努力の程度、費用等諸般の事情を考慮して定めるべきところ、本件買付けのように売買の代理の場合、不動産業者は本件告示の第二に定められている最高額の報酬を依頼者から受けるのが一般の慣行であり、また被控訴人が行つた買付業務が土地に対して強い執着心をもつ多数の農民から広大な面積の土地を一筆余さず買取らねばならないという極めて困難な業務であり、その遂行にあたつて多大の労力と費用を要したことなどを考慮すると、被控訴人には本件告示の第二に定める最高額の報酬が認められるべきである。

5  そこで、前記売買契約について、本件告示の第二に定める最高額の報酬を計算すると、被控訴人が控訴人に請求しうる報酬額は合計金三四八六万九四八八円となるが、控訴人は被控訴人に対し内金一二五〇万円を支払つたのみである。

6  よつて、被控訴人は控訴人に対し、報酬残金二二三六万九四八八円及びこれに対する弁済期の経過した後である昭和四八年二月二七日から完済まで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  本訴請求原因に対する控訴人の認否及び主張

1  本訴請求原因第1項の事実は認める。

2  同第2項の事実中、控訴人が昭和四六年一二月八日頃被控訴人との間で、長野県上水内郡牟礼村においてゴルフ場用地を買付けることについて契約したこと、右契約において、控訴人が被控訴人に対し、土地売買契約の成立につき何らかの報酬を支払うべく、その支払時期は被控訴人主張のとおりとする旨合意されていたことは認めるが、その余の事実は否認する。控訴人は被控訴人に対して土地所有者との売買の仲介を依頼したものであり、控訴人の代理人として買付けることを依頼したものではない。報酬額については、当初売買代金額の二パーセントと定め、その後昭和四七年六月一二日に、同日以降売買契約が成立する分については売買代金額の三パーセントとすることに改定された。

3  同第3項の事実中売買契約の締結につき被控訴人が控訴人の代理人の立場にあつたことは否認するが、その余は認める。

4  同第4項は争う。

5  同第5項のうち控訴人が被控訴人に報酬金一二五〇万円を支払つたことは認めるが、その余は争う。被控訴人に対する報酬は反訴請求原因記載のように過払いとなつている。

6  同第6項は争う。

7  報酬割合について。

(一) 本件においては、(1)買付予定地は当初からほぼ特定された一団の土地であり、その所有者も買付予定地内又はその付近に居住しているので、これとの交渉に要する時間、費用とも通常の場合より少なくてすむこと、(2)予定地内の土地であれば控訴人は必ず買受けるのであるから、交渉は売主である土地所有者とのそれに限られること、(3)買付総面積が大きいから一件あたりの金額は小さいものがあつても、報酬の総計は大きくなること、(4)必要経費の大部分は控訴人が負担し、被控訴人の負担するのは交通費、従業員の給料、消耗品代程度であること、などの諸事情がある。そのうえ、被控訴人代表者中平は控訴人の取締役であつて、同人にとつて本件買付業務は被控訴人の業務遂行であるとともに、控訴人の役員としての自己の任務の遂行でもあつたことや、買付けには控訴人の役員等も被控訴人に協力したことなどの事情もある。そして、大規模の宅地造成工事等のため、専属的に宅地建物取引業者を使つて土地の買付けをする場合に買受人から業者に支払われる報酬は、経費の全部を業者が負担する場合で買付額の三又は四パーセントであり、本件のように経費の大部分を買受人が負担する場合には買付額の二又は三パーセントとされるのが通常である。

また、被控訴人は、買付予定地の地元の業者であるから、土地の事情に通じているはずであるのに、被控訴人が売買を仲介した土地の中には、農業振興地域の整備に関する法律によつて、農地以外への転用が厳しく規制されている農地が多く含まれており、そのため控訴人は多大の損害を被つた。更に、被控訴人は、別途自ら開発して宅地として分譲しようとした土地に進入路がないところから、この進入路にしようとの意図の下に、本件買付けに際し、控訴人に約一万平方メートルの不用の土地を買わせるなど、宅地建物取引業者としてなすべからざることをも行つている。

以上の諸事情に照らすと、本件においては、被控訴人主張の報酬割合は高率にすぎるものというべく、控訴人主張のように二又は三パーセントとする約定があつたものと認むべきであり、仮に右約定の存在が証拠上認められないとしても、右の割合により計算した額をもつて相当額の報酬とすべきである。

(二) 被控訴人代表者中平は、控訴人の株主であり、取締役であつたが、背信的行為があつたため取締役を辞任せざるをえなくなり、持株を控訴人代表者古木健之に売渡し、昭和四七年一〇月六日頃精算金明細書なる書面(乙第三号証)をもつて控訴人に対し、控訴人・被控訴人間の債権債務の清算方を求めた。このような場合、被控訴人代表者中平としては、被控訴人の立場で主張しうる最大限の額を要求するのが当然と思われるところ、中平は右書面に「土地買付手数料残金三〇〇万円」と記載して金三〇〇万円を請求しており、このことは、右当時被控訴人の主張によつても、報酬残額は右金額にすぎなかつたことを明らかに示している。そして、控訴人は右請求に応じて同月一一日金三〇〇万円を支払つており、反訴において主張するように右は過払いとなるのであるが、仮にそうでないとしても、少なくとも被控訴人が控訴人に請求しうべき報酬の残額はもはや存在しないものとみるべきである。

三  前項7の主張に対する被控訴人の認否及び反論

1  前項7(一)の主張はすべて争う。

一般に土地の大規模買付けの業務について三又は四パーセントの報酬割合が定められることがあるとしても、それは坪あたり一〇万円、二〇万円もする土地の買付けの場合であつて、報酬割合が低くても十分採算が合うのに対し、本件の場合は、ゴルフ場造成のための買付けであり、坪あたり五〇〇円ないし三〇〇〇円という極めて低額の物件を対象とするのであるから、右のような報酬割合では到底企業的採算に合わないことが明らかである。また、本件においては、地主にゴルフ場の見学をさせるなど一般の買付業務とは異なる特別の経費を要したのであり、業者がこの種経費を負担しなければならないとすれば、到底採算に合わないことになるし、右のような特別な分以外の一般的な経費は被控訴人が負担しているのである。

2  前項7(二)の主張中被控訴人代表者中平が昭和四七年一〇月六日頃乙第三号証の書面に「土地買付手数料残金三〇〇万円」と記載したこと、被控訴人が同月一一日控訴人から報酬として金三〇〇万円の支払を受けたことは認めるが、その余は争う。

右乙第三号証の記載は、当時控訴人に支払を求めうべき報酬は常時残つている状態であるという意味で「残」という言葉を用いたものにすぎず、残額全部という趣旨ではない。けだし、右当時は未だ買付業務が続行中であり、全部の報酬の清算をすべき時期は到来していなかつたものである。

四  控訴人の反訴請求原因

1  前記一、1と同じ。

2  控訴人は、昭和四六年一二月八日頃被控訴人との間で、ゴルフ場用地買付けについて次のとおり契約をした。

(一) 被控訴人は控訴人のために、控訴人がゴルフ場用地として牟礼村において買入れる土地売買を仲介する。

(二) 控訴人は、被控訴人の仲介によつて売買契約が成立し、土地の引渡を受けたときは、被控訴人に対し、報酬として、売買代金額の二パーセントの割合の金員を支払う。

3  右報酬割合は、昭和四七年六月一二日に、同日以降売買契約が成立する分については、売買代金額の三パーセントとすることに改定された。

4  控訴人は、被控訴人の仲介によつて、別表記載のとおり昭和四七年一月から一一月までの間に、同表記載の売主から、同表記載の面積の土地を同表記載の代金にて買受けた。

5  そこで、控訴人が被控訴人に支払うべき報酬額を前記約定に従つて計算すると、合計金九五五万〇二九七円となる。

一方、控訴人は被控訴人に対し、報酬の概算払として次のとおり合計金一二五〇万円の支払をした。

昭和四七年二月一八日 金一〇〇万円

同年四月一日 金一〇〇万円

同年同月二八日 金一五〇万円

同年五月三一日 金一〇〇万円

同年六月九日 金三〇〇万円

同年八月一六日 金二〇〇万円

同年一〇月一一日 金三〇〇万円

控訴人は、右支払のほか、被控訴人がその下請として使用した原田秋雄に対し金一〇五万円、梨本志津江に対し金一〇万円、白石勝之に対し金五万円、以上合計金一二〇万円の報酬を支払つたが、右支払は、被控訴人がすべきものをその依頼によつてしたのであるから、控訴人の被控訴人に対する報酬の支払の一部となるものである。

したがつて、控訴人が被控訴人に対し概算払として支払つた報酬額は、合計金一三七〇万円である。

6  控訴人と被控訴人との間の前記2の契約は、昭和四八年一月一三日に合意解除された。したがつて、被控訴人としては、控訴人から報酬として支払を受けうべき前記金九五五万〇二九七円を超えて概算払を受けた金四一四万九七〇三円については、その支払を受けるべき法律上の原因がないことになるから、控訴人にこれを返還すべきである。

7  よつて、控訴人は被控訴人に対し、右不当利得金四一四万九七〇三円及びこれに対する反訴状送達の日の翌日である昭和四八年五月三一日から完済まで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

五  反訴請求原因に対する被控訴人の認否

1  反訴請求原因第1項の事実は認める。

2  同第2項については、本訴請求原因第2項のとおりの契約をしたものである。

3  同第3項の事実は否認する。

4  同第4項の事実中売買契約締結につき控訴人が仲介人の立場にとどまるものであつたことは否認するが、その余は認める。

5  同第5項の事実中控訴人が被控訴人に対し、控訴人主張の日に報酬合計金額一二五〇万円を支払つたこと、控訴人が原田秋雄ら三名に金員を支払つたことは認めるが、右三名への支払額は知らない。右三名は被控訴人の下請ではなく、原田と白石は買付予定地の所有者、梨本は所有者の親友であつて、いずれも地元の有力者であり、右三名に対する金員の支払は、これらの者から買付けの承諾を得ることによつて他の所有者の承諾も得やすくなることや、名目上の買付価額を低くおさえ、他の所有者からの買付価額をも安価にできることなどの効果を期待して、控訴人が直接に行つたものである。したがつて、右支払が控訴人の被控訴人に対する報酬の支払の一部となる理由はない。

6  同第6項は争う。

第三  証拠<略>

理由

一被控訴人が不動産の売買、斡旋等を業とする会社、控訴人がゴルフ場経営等を業とする会社であること、被控訴人が昭和四六年一二月八日頃控訴人との間で、代理人の立場に立つか仲介人の立場に立つかはともかくとして、控訴人のために、ゴルフ場用地を長野県上水内郡牟礼村において買付ける旨の契約(以下「本件契約」という。)を締結したこと、右契約において、控訴人が被控訴人に対し土地売買契約の成立につき報酬を支払うべく、その支払時期は土地所有者との間に売買契約が成立し、控訴人において土地の引渡を受けたときとする旨合意されていたこと、被控訴人が、代理人としてか仲介人としてかは別として、控訴人のために、別表記載のとおり昭和四七年一月から一一月までの間に、同表記載の売主から同表記載の面積の土地を同表記載の代金にて買付けたこと、これらの土地は、遅くとも昭和四八年二月二七日までにはすべて控訴人に引渡されたこと、以上の事実は当事者間に争いがない。

二被控訴人は、本件契約においては、控訴人が被控訴人に支払うべき報酬の額について、本件告示の第二に定める最高限度の額とする約定があつたと主張し、これに対し、控訴人は、契約当初売買代金額の二パーセントと定め、その後昭和四七年六月一二日に、同日以降売買契約が成立する分については売買代金額の三パーセントとすることに改定されたと主張するので、以下検討する。

1  まず、被控訴人の右主張については、原審における被控訴人代表者本人の供述(第一、二回)も、本件契約当時、控訴人代表者古木健之から報酬は十分支払うからと言われたので、被控訴人代表者中平としては、控訴人から少なくとも本件告示の第二に定める額程度の報酬は支払を受けられると考えたというにとどまり、それ以上に報酬の額について被控訴人主張のとおりの約定があつたことを具体的に供述するものではなく、他に右約定の存在を認めるに足りる証拠はない。

2  一方、控訴人の前記主張についてみるに、昭和四六、七年当時控訴人の代表取締役の一人であつた原審証人向後武はこれにそう証言をする(もつとも、売買代金額の三パーセントとすることに改められたのは昭和四七年末頃のことであり、その後現実に買付けはなされていないと言う。)。しかしながら、同じく当時控訴人の代表取締役の一人で、右証人が二パーセントの約定がなされたときに同席していたと供述する原審証人石戸文夫は、右約定の存在を否定する証言をしているし、また当時取締役であつた原審証人岩沢巖も、本件契約当時右約定があつたとは聞いておらず、後に買付けが進んだ頃古木から被控訴人には三パーセントの報酬を支払つていると聞いたことがあるだけである旨証言しており、これらの証言のほか、<証拠>に照らして、前記証人向後武の証言はにわかに採用しがたいというほかない。また、当審証人原田久子は、被控訴人代表者が昭和四七年六月一二日頃、長野県上水内郡牟礼村で同証人の営む雑貨店の店先の公衆電話から控訴人会社に電話をかけたあと、被控訴人の社員木下康紀及び同証人の夫原田秋雄に対し、右電話によつて、右同日以降成立の契約については報酬の額を三パーセント相当額に上げてもらうことの了承を得たと話していた旨証言し、<証拠>(同証人の長野地方裁判所昭和五二年(ワ)第二六号事件における証人調書写)にも同旨の供述記載部分があるが、右証言及び供述記載部分は、当審における被控訴人代表者本人尋問の結果(第二回)及び弁論の全趣旨に照らしてたやすく措信しがたいというべきである。当審における控訴人代表者藤田辰次の供述も、控訴人主張の報酬額に関する約定の存在を認定するには十分でなく、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

三そして、被控訴人が支払を受くべき報酬について、他にも控訴人・被控訴人間に具体的な額ないし算定割合を定める合意があつたことを認めるに足りる証拠はなく、結局、両者の間には、単に報酬を支払う旨の合意があつたにとどまるものといわざるをえない。しかし、商人である被控訴人がその営業の範囲内において控訴人のために行為をしたのであるから、被控訴人は控訴人に対し商法五一二条により相当の報酬を請求することができ、その相当の報酬は、本件においては、法令による制限、不動産取引業界の慣行、被控訴人の行つた買付業務の内容、難易、期間、これに要した労力、費用、取引額その他諸般の事情を斟酌して算定するのが相当である。しかるところ、被控訴人は、本訴請求原因第4項において予備的に、被控訴人には右相当額の報酬として本件告示の第二に定められた最高額が認められるべきであると主張し、一方、控訴人は売買代金額の二又は三パーセントの額をもつて右相当額とすべきであると主張する。

そこで、本件において被控訴人に支払われるべき報酬の相当額がいくらであるかについて判断を進めることとする。

1  まず、弁論の全趣旨によれば被控訴人は宅地建物取引業法によつて規制を受ける宅地建物取引業者と認められるから、右報酬額の最高限が同法四六条に基づく本件告示の第一「売買又は交換の媒介に関する報酬の額」(その算定割合は、第二の場合の一〇パーセントを五パーセント、八パーセントを四パーセント、六パーセントを三パーセントとしたものである。)又は第二「売買又は交換の代理に関する報酬の額」のいずれかによつて画されたこととなるので、そのいずれによつて画されるかをみるに、<証拠>を総合すれば、本件においては、控訴人がゴルフ場建設のため一方的に土地の買入れを計画したもので、土地所有者側にはもともと土地売却の意向はなかつたのであり、被控訴人代表者中平は、控訴人側の者として土地買付けの衝にあたり、もつぱら控訴人の利益をはかるべく行動し、被控訴人は土地所有者とは利害の対立する立場に立つていたものであること、したがつて、売買契約が成立しても、被控訴人が土地所有者から何らかの報酬の支払を受けるなどということはもとより期待しうべくもなかつたこと、被控訴人は控訴人からおよそ買付単価その他契約の大綱こそ指示されていたが、個々の買付けにあたつては相当の範囲の裁量権をもつて交渉を行い、控訴人に代わつて買受けの意思表示をする権限をも与えられており、現に控訴人と土地所有者との間の売買契約書の調印や代金の支払は、控訴人の社員が立ち会うこともあつたが、被控訴人代表者中平ないし社員の木下康紀だけで行う場合も少なくなかつたこと、以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。右によれば、被控訴人は控訴人から本件告示の第一にいう売買の媒介ではなく、第二にいう売買の代理を依頼され、これを実行したものと認めるべきである。<証拠>によれば、控訴人と土地所有者との間の売買契約書の方式は、被控訴人が控訴人を代理しているもの、被控訴人代表者中平が控訴人の取締役として控訴人を代理した上、媒介責任者として被控訴人を表示しているもの、被控訴人の名が全くあらわれていないものなど様々であることが認められるが、原審における被控訴人代表者本人尋問の結果(第一回)によれば、契約書の方式が右のように一定していないのは、用紙や印章等の用意の都合によるものと認められるので、控訴人と土地所有者との売買契約書上被控訴人が控訴人を代理する形式をとつていないものがあるからといつて、被控訴人と控訴人との間では、被控訴人が控訴人から売買の代理を依頼され、これを実行したものであるとの前記認定を左右するには足りず、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

してみると、被控訴人に対する報酬は本件告示の第二によつて最高限を画されるということになる。

2  原審証人杉山広の証言によれば、一般に、不動産業者が不動産取引の媒介又は代理をする場合、報酬額について具体的な約定をしていないときには、特段の事情のない限り本件告示の第一又は第二に定められている最高額の支払を受けていることが認められる。

3  そこで、さらに本件における具体的事情につき検討する。

まず、<証拠>によれば、本件買付業務は、多くの場合、農民が現に耕作等を行つている土地を対象とするものであり、売却を望まない土地所有者も多数あり、これらの者に対する粘り強い説得活動を必要とし、しかもゴルフ場建設に必要なだけの広大な面積を一筆余さず買取らねばならないという困難な業務であつたこと、被控訴人代表者中平及び社員の木下康紀は一年弱の期間右買付けに専念し、多大の労力を費やし、ようやく前認定の別表のとおりの買付けに成功し、控訴人はその後右買付土地によつてゴルフ場建設の目的を達していること、被控訴人が買付けた代金額は、特に高額にすぎることはなく、控訴人としてもほぼ満足すべき額であつたことが認められる。

しかしながら、一方、本件においては以下のような事情も認められる。

(一)  まず、原審証人杉山広の証言によれば、不動産取引業者が本件告示に定められた最高額の報酬を受ける場合には、取引成立のために必要な諸経費は取引業者が負担し、受領報酬でこれをまかなうのが一般であることが認められ、これに反する証拠はない。ところが、<証拠>によれば、本件土地買付けに際しては、交通費、従業員の給料、消耗品代等を被控訴人が自ら負担したことはもちろんであるが、その他に土地所有者が多数で売却を望まない者も多かつたため、交渉、説明集会、接待、説得工作、説明見学旅行会などに多額の費用を要したところ、これら費用の主要部分は、控訴人が直接に支弁し、あるいは被控訴人が立替え支出した後、被控訴人の請求に基づいて控訴人が支弁することによつて、これを負担したことが認められ、右認定に反する証拠はない。

(二)  次に、被控訴人と控訴人との関係についてみるに、<証拠>によれば、被控訴人は従来中平がほとんど一人で分譲地売買などを行つていた会社であり、本件ゴルフ場用地買付けについて二人の使用人を用いたものの、実質的には中平個人と同視される会社といつてよいこと、控訴人は本件買付土地に建設するゴルフ場の経営を目的として新たに設立された会社であるところ、被控訴人代表者中平は右設立当初から控訴人の取締役となり、金三〇〇万円を出資した株主でもあつたこと、中平が右のように控訴人の取締役に就任したのは、ゴルフ場用地のような大規模買付けの場合には、不動産取引業者が業者として関与するよりは買主の取締役の肩書を有する者が活動する方が買付けを行いやすいとの配慮によるものであり、中平は、土地所有者と交渉するにあたりもつぱら控訴人の取締役たることを表示した名刺を用いたこと、もつとも、昭和四七年六月頃控訴人代表者古木から中平に対し、取締役であることを理由に土地買付けの報酬を安くするようにとの話があり、中平はこれを嫌つて取締役を辞任したが、株式は同年一〇月初め頃まで保有していたこと、以上の事実が認められ、原審証人向後武の証言中右認定に反する部分は採用せず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。右認定のように、被控訴人と実質的に同視さるべき中平が本件買付けの中途の時期までとはいえ、買付けの便宜のため控訴人の取締役の地位にあつて土地買付けを行い、また、控訴人に出資してゴルフ場開場後の収益からの利益を期待していたであろう事実等を考えれば、本件における被控訴人と控訴人との関係には、不動産取引業者と一般依頼者との関係とは著しく異なるものがあり、被控訴人に対する報酬を一般の場合よりは減額すべき事情があるものということができる。

(三)  更に、<証拠>及び本件記録中の支払命令申立書によれば、被控訴人は買付業務がもはや完了した後である昭和四八年二月五日に、控訴人に対して報酬残金を内容証明郵便で請求するに際して、本件ゴルフ場用地買付けに対する正規手数料の割合は平均7.5パーセントであるところ、これを五パーセントに値引して残額金一〇〇〇万円を請求するものとし、また、同月二一日横須賀簡易裁判所に支払命令を申し立てるについても、長野県宅地建物取引業協会規定の買付手数料として買付価額の五パーセント相当額の報酬請求権を有するものとしていることが認められるのであり、右事実にかんがみると、右時点までは被控訴人自らも本件告示の第二に定める最高額の報酬を請求しうるものとは考えていなかつたことをうかがうことができる。

4  前項に認定した諸事情を彼此総合して勘案すれば、本件においては、被控訴人に対する相当の報酬は、本件告示の第二に定める最高額とするのが相当とすべき事情にはなく、また控訴人主張のように売買代金額の二又は三パーセントをもつて相当とすべきものとも、解されず、結局、本件告示の第二に定める最高額の半額を基準として算定した額(本件告示の第一の場合と同額となる。)とするのが相当と認めるべきである。

5  なお、控訴人の主張するその余の事情につき付言する。

控訴人が本訴請求原因に対する認否及び主張の第7項(一)で主張する諸点のうち、被控訴人が買付けた土地の中に農業振興地域の整備に関する法律の適用土地が多く含まれていたために控訴人が多大の損害を被つたとの主張は、<証拠>によれば、右事実は買付けの当初の段階で判明し、被控訴人から控訴人にその旨が伝えられていたのに、控訴人は後日問題を解決することとして買付けの続行を依頼していたことが認められるから、失当たるを免れず、被控訴人が不用の土地を買付けたとの主張はこれを認めるに足る証拠がなく、その余の点も、上来説示したところに照らし、被控訴人に対する報酬の相当額についての右判断を左右するに足りない。

また、控訴人の前同項(二)の主張については、被控訴人代表者が昭和四七年一〇月六日頃乙第三号証の書面に「土地買付手数料残金三〇〇万円」と記載したこと、被控訴人が同月一一日控訴人から報酬として、金三〇〇万円の支払を受けたことは当事者間に争いがなく、右事実に前記乙第三号証の記載をあわせれば、右書面の作成時点において、中平が被控訴人に請求しうる報酬残額が金三〇〇万円のみであることを承認していたかのようにみられないわけではない。しかしながら、原審における被控訴人代表者本人尋問の結果(第一回)によれば、右当時は未だ本件契約の継続中で、買付予定地も残つており、全部の報酬を清算すべき段階には至つておらず、中平としても報酬額に関する明確な認識がなく、残額を具体的に計算してみたこともなかつたことが認められ、右事実に照らすと、中平が乙第三号証に前記のような記載をした事実から直ちに、右時点で被控訴人において、報酬の残が金三〇〇万円しかないものと承認したとか、そのように認識していたとかみるのは早計であり、右事実は、被控訴人に対する報酬の相当額を前記のとおり認定することの妨げとなるものではない。

四してみると、控訴人が被控訴人に支払うべき報酬額は、別表記載の各売買の代金額について、金二〇〇万円以下の部分につきその五パーセント、金二〇〇万円を超え金四〇〇万円以下の部分につきその四パーセント、金四〇〇万円を超える部分につきその三パーセントの割合で計算した金額の合計額であるものというべく、右によると、別表記載の各売買についての報酬額は別表中認定報酬額欄記載のとおりであり、その総合計額は金一七四三万四七四四円となる。

そして、控訴人が被控訴人に対して報酬として既に合計金一二五〇万円を支払つていることは当事者間に争いがない。控訴人は、右支払のほか、原田秋雄、梨本志津江及び白石勝之に対し合計金一二〇万円を支払つており(この事実は、<証拠>によつて認められる。)、右支払は控訴人の被控訴人に対する報酬の支払の一部となるものであると主張するが、<書証>の原田秋雄発行の領収証が被控訴人代表者宛となつていることによつては、右三名の者が被控訴人の下請の立場にあり、前記一二〇万円は被控訴人が支払うべきものであつたことを認めるに十分でなく、他にこれを認めるに足りる証拠はない。かえつて、<証拠>によれば、右金員は、本件買付けにあたり右三名の者に土地所有者との間の橋渡し役となり、また他の者に先がけて安い価格で売却に応じるなど種々協力してもらつたので、これに対する謝礼として、被控訴人の指示、助言により控訴人が自ら負担する意思で支払つたものであること(その支払手続は多くの場合被控訴人代表者が代行した。)が認められる。したがつて、右金一二〇万円の支払が被控訴人に対する報酬の支払の一部となる旨の控訴人の主張は失当である。

五そうすると、被控訴人の控訴人に対する本訴請求は、前記認定の報酬額金一七四三万四七四四円から前記金一二五〇万円を差し引いた金四九三万四七四四円及びこれに対する弁済期の経過した後である昭和四八年二月二七日から完済まで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却すべきである。一方、以上説示したところによれば、被控訴人に対し、報酬を過払いしたとして不当利得金の返還を求める控訴人の反訴請求はすべて理由のないことが明らかであるから、これを棄却すべきである。

よつて、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、附帯控訴に基づき原判決主文第一、二項を右のとおり変更することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、八九条、九二条本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(小林信次 浦野雄幸 河本誠之)

別表 <省略>

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