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東京高等裁判所 昭和53年(ネ)2462号 判決 1979年8月08日

控訴人 京葉機工株式会社

右代表者清算人 眞木洋

被控訴人 千葉信用金庫

右代表者代表理事 斉藤隆

右訴訟代理人弁護士 中島皓

二瓶修

主文

一  本件控訴中原判決主文第一項に対する部分を棄却する。

二  原判決主文第二項を取り消す。

被控訴人の右取消にかかる部分の請求を棄却する。

三  訴訟費用は第一、二審を通じ控訴人及び被控訴人の平分負担とする。

事実

一  控訴代理人は、「原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

二  当事者双方の主張は、左記1ないし4のように付加訂正し、かつ5、6のとおり補充するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する。

1  原判決五丁表二行目「五六年」を「五七年」と改める。

2  同五丁表八行目「書面より提供して」を「現実に提供しないで」と改める。

3  同一〇丁表一〇行目「ついては、」の次に「県が被控訴人主張の日に買戻代金を供託し、控訴人がその主張の日に還付を受けていること、」を加える。

4  同四丁表三行目において引用する別紙債権目録の最終丁表四行目「特記」とあるを「特約」と改める。

5  控訴代理人は次のように述べた。

特別清算の開始を命ぜられた会社である控訴人に対しては、商法四三三条、三八三条二項により強制執行をなすことはできないから、本件給付請求は許されない。また本件債権の確認請求も、控訴人がこれを争わない以上、確認の利益を欠く。

6  被控訴代理人は次のように述べた。

(一)  控訴人は被控訴人に対する給付義務を自認している。また原判決主文第二項は右義務を前提として控訴人に対する債権者相互間の配当に関する問題につき判断を示したものである。従って控訴人は原判決に対し不服申立てをなす利益を欠く。

(二)  控訴人の右5の主張は争う。

理由

一  控訴の利益

被控訴人は控訴人は控訴の利益を欠くと主張するが、控訴人が特別清算の開始決定を受け、その代表者たる清算人は会社、債権者らに対し公平かつ誠実に清算事務を処理する義務を負っていることを考慮しても、控訴人が原判決中敗訴部分に対し控訴を提起する利益を有することを否定できない。

二  貸付金請求

1  控訴人が商法上の特別清算開始決定を受けたことは争いがないから、控訴人に対する強制執行は商法四三三条、三八三条二項により許されないけれども、控訴人に対する無条件の給付判決をなすことは、差支えないと解される。すなわち、控訴人の債権者が当該給付判決を債務名義として強制執行に及んだ場合に、控訴人は執行法上の不服申立により右執行を阻止すれば、右法条の目的とするところを達成できるものと考えられるからである。

2  被控訴人が控訴人に対し原判決別紙債権目録記載のように本件消費貸借契約を締結して各金員を貸し渡したこと、控訴人が昭和四八年五月三一日東京手形交換所から取引停止処分をうけて、右各債務につき期限の利益を喪失したこと、同日における証書貸付の残元本額は六六二〇万円、手形貸付の残元本額は八〇五万四三九六円、合計七四二五万四三九六円であることは争いがない。

3  よって被控訴人に対し七四二五万四三九六円及びうち六六二〇万円に対する弁済期後の同年六月一六日から、うち八〇五万四三九六円に対する同年七月一日から各完済まで年一八・二五パーセントの割合による約定遅延損害金の支払いを求める被控訴人の請求は正当として認容すべきである。

三  控訴人の預金債権に対し本件抵当権及び根抵当権にもとづく物上代位が及ぶことの確認請求

1  控訴人は本件土地に原判決別紙抵当権目録記載のとおり本件抵当権及び根抵当権を設定し、その各設定登記を経たこと、控訴人はこれより先昭和四七年一〇月一七日千葉県からその所有の本件土地を代金六八五三万〇四七二円で買い受け、その際、買戻期間昭和五七年一〇月一六日まで、契約費用なしとの買戻の特約を結び、本件抵当権及び根抵当権設定登記に先だつ昭和四七年一二月二七日右所有権移転及び買戻特約の各登記を経たこと、千葉県は昭和四八年九月二二日控訴人あてに買戻の意思表示をしたことは争いがない。

《証拠省略》によると、千葉県は右意思表示とともに買戻代金を現実に提供すべきところ、これより先すでに千葉銀行申立にかかる控訴人あての右買戻代金債権仮差押決定(債権額七〇一九万余円)、伊那倉庫運輸株式会社申立にかかる控訴人あての破産宣告前の保全処分としての右代金債権仮差押、被控訴人申立にかかる控訴人あての右代金債権仮差押決定(債権額八一二〇万円)の各送達を受けていたので、いつでも必要に応じ右代金の支払いをなしうるよう準備をした上、右買戻の意思表示とともに控訴人あて右事情ならびに右支払の用意ある旨を通知し、さらに同年一〇月二五日被控訴人から控訴人あての本件抵当権及び根抵当権による物上代位にもとづき右代金債権の差押及び取立命令(千葉地方裁判所同年(ル)第四七四号、同年(ヲ)第五一七号)の送達を受け、その直後控訴人から右取立命令の効力に疑義があるので被控訴人に買戻代金を支払わないようにとの申入れに接し、同年一一月一日民訴法六二一条一項を根拠として右代金相当額を供託し、同月一三日同裁判所に事情届を提出し、昭和五二年三月二八日本件土地につき買戻の登記を経由したことが認められる。

なお、《証拠省略》によると、控訴人は昭和四八年一一月二九日千葉地方裁判所から、右買戻代金供託金を取戻したときは株式会社富士銀行虎の門支店にこれを預金して保管すべき旨の命令を受け、昭和四九年七月二六日右代金債権の差押及び取立命令に対し執行方法の異議を申し立て、その申立てが棄却されるや、東京高等裁判所に抗告を申し立て、昭和五一年九月二〇日右代金債権に対する前記物上代位にもとづく強制執行を許さない旨の決定を得、昭和五二年二月二三日右決定にもとづき右差押、取立の執行処分の取消決定を受け、本件代金供託金の還付を得たことが認められる。控訴人が右還付金を右銀行虎の門支店に預金保管中であることは、控訴人の明らかに争わないところであるから自白したものとみなす。

2  思うに売主は買戻の意思表示に当り買戻代金を現実に提供すべきであるが、この買戻代金債権につき債権仮差押執行が競合してなされ、売主は買主に対する右代金の支払を、買主はその受領をそれぞれ禁じられ、その受領権者を知りえない場合には、右代金の提供は、現実の提供であることを要せず、これに代えて、支払の準備をしたことを買主に通知するをもって足りると解される。

本件において、千葉県は買戻代金債権につきあらかじめ前記仮差押の執行を受けた結果、その弁済を、控訴人もまたその受領を各禁止されていた関係上、千葉県はこれを現実に提供できず、買戻代金を準備して買戻の意思表示とともに控訴人にその旨を通知したのである。のみならず、千葉県は仮差押等の競合により、各差押債権者にどのように支払うべきかの判断に困難を感ずる事態に陥り、民訴法六二一条一項により右代金相当額を供託したのであるから、右措置は、買主の保護を目的として買戻代金の現実の提供を要求する法意にかなったものというべく、千葉県のなした買戻の意思表示は適法である。

しからば、右買戻の意思表示により、本件土地所有権は当初の売買の時にさかのぼって千葉県に復帰し、右買戻の特約の登記後に設定された本件抵当権及び根抵当権はこれにより消滅したものと解さざるを得ず、かように買戻の特約の登記の対抗力にもとづき本件抵当権及び根抵当権が消滅した以上、その買戻代金債権等に対する物上代位が生ずると解する余地はない。

3  よってその余の点につき審究するまでもなく、前記預金払戻請求権に対し物上代位が及ぶことの確認を求める被控訴人の請求は理由がない。

四  結論

以上説明のとおりであるから、貸付金請求に対する本件控訴を棄却し、物上代位確認請求に関する原判決を取り消し、右請求を棄却し、訴訟費用は主文第三項のように負担させるのを相当と認め、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 川島一郎 裁判官 沖野威 裁判官小川克介は転補につき署名押印できない。裁判長裁判官 川島一郎)

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