東京高等裁判所 昭和53年(ネ)252号 判決 1979年11月26日
控訴人(附帯被控訴人)
有限会社丸山カラー現像所
右代表者
丸山益雄
控訴人(附帯被控訴人)
丸山益雄
右両名訴訟代理人
田子璋
被控訴人(附帯控訴人)
渋谷茂
右訴訟代理人
小原栄
主文
原判決中控訴人らの敗訴部分を取り消す。
被控訴人の控訴人らに対する請求をいずれも棄却する。
附帯控訴人の本件附帯控訴を棄却する。
訴訟費用は第一、二審とも被控訴人(附帯控訴人)の負担とする。
事実
控訴人(附帯被控訴人。以下、単に控訴人という。)らは、「(一)原判決中控訴人ら敗訴部分を取り消す。(二)被控訴人の請求をいずれも棄却する。(三)訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決及び附帯控訴について、附帯控訴棄却の判決を求め、被控訴人(附帯控訴人。以下、単に被控訴人という。)は、控訴について、控訴棄却の判決並びに附帯控訴として、「(一)原判決中附帯控訴人敗訴部分を取り消す。(二)附帯被控訴人らは、連帯して附帯控訴人に対し、一七四万円及びこれに対する昭和五二年六月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。(三)訴訟費用は、第一、二審とも附帯被控訴人らの負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求めた。
当事者双方の主張並びに証拠関係は、次に附加するほかは原判決事実摘示と同じであるから、ここにこれを引用する(ただし、原判決三丁裏末行の「原告は」の次に「、控訴会社代表者丸山益雄の要求に応じ、」を加え、同四丁表一〇行目下から四字目の「が」を削除し、同丁裏一〇行目の「そこで、」の次に「昭和カラーは、昭和四九年一〇月六日、控訴会社に対し、控訴会社と昭和カラーの従来の契約に関し争いが発生したが、次の条件で終局的に円満解決することに両社は合意した。
1 従来の取引に対する計算方法
昭和四九年五月二一日以降
一ドルを二八〇円として為替差益は昭和カラーの利益。
2 市中、三沢、富士本屋等に関しては一応不問に付す(別に控訴会社より申出あり)。
3 会社運営変更に関して(権利譲渡)は、昭和カラーの株主総会にはかり、その議決を得て発効するものとする(別に控訴会社より申出あり)。
4 被控訴人の担保等リスクの負担解消に関しては、控訴会社で誠意をもつて具体的に条件を示す。
5 3項に対して渋谷株主(被控訴人)、中山株主、佐藤株主、智田株主、福田株主、北株主も合意である。
旨の記載のある書面を交付した。<付加訂正省略>
(控訴人らの主張)
一 控訴会社は、本件業務提携を開始してから別表(一)のとおり現像焼付をしたが、それは右業務提携が破綻すれば昭和カラーにおいて清算しなければならない性質のものである。そして、その清算金額は、同業者間の仲間相場を参酌して定められるべきものと思料するが、控え目にみても、別表(二)の金額を下らない。そのほかに、控訴会社は、昭和カラーの業務について東洋現像所に外注し、次のとおりその代金を立替えた。
(一) 昭和四九年四月分一三万五四六六円
(二) 同年五月分 二六万七三四〇円
(三) 同年六月分 三八万三七二〇円
(四) 同年七月分 二二万四二四〇円
(五) 同年八月分 二四万六〇二七円
(六) 同年九月分 二四万二四六八円
(七) 同年一〇月分 二六万六二二〇円
小計一七六万五四八一円
以上について、昭和カラーから控訴会社に支払われた金額は合計四〇七万五八三八円(昭和カラーからの支給材料九七万五八三八円を含む。)であり、控訴会社が直接取立て入金した金額は、富士本屋関係一〇一万九一二一円、三沢関係三〇二万六九〇六円である。
そして、右の差額は控訴会社の財産及び労務によつて昭和カラーが利益を受け、控訴会社はそれによつて損失を蒙つたものであり、しかもそれについては法律上の原因がないから、昭和カラーは控訴会社に対し右利益を不当利得として返還すべきである。
ところで、仮に本件業務提携が解消となつて控訴会社に本件物上保証を消滅させるべき債務があるとすれば、それは控訴会社の昭和カラーに対する右不当利得返還請求権と同時履行の関係にあるというべきである。
二 被控訴人の主張のうち、控訴人らの債務不履行の事実及び控訴人らが本件業務提携の履行の意思を消失したことは否認し、保証率についてはすべて争う。
(被控訴人の主張)
一 被控訴人の本訴請求は、第一次的に、控訴人らの詐欺による不法行為損害賠償を求めるものであり、第二次的に、控訴人らの本件業務提携上の債務不履行に基づく本件業務提携の解除により基盤を失つた担保供与契約の解除によつて本件物上保証を消滅させるべき義務の発生した本件不動産を、控訴人らがなんらの法的理由もなく利用したため生じた利得の返還を求めるものである。
そして、控訴人らの債務不履行の事実は次のとおりである。本件業務提携は、昭和カラーの写真部門を独立させ、かつ、控訴人らを昭和カラーの傘下に入れる目的でなされたもので、その骨子は、対等出資、控訴会社の株式会社への組織変更と非同族会社とすること、昭和カラーによる経理関係の把握である。昭和カラーは、約旨に従い、営業権譲渡に着手し、従業員の三分の二を出向させる(給与は昭和カラーの負担)などとして業務提携の実行に入つたのであるから、控訴会社もまず営業権の代価を支払い、順次増資割当を行い、昭和カラーに株式を与え、当初の約束どおり組織を変更する手続をとり、かつ、経理関係を昭和カラー側の出向役員に引き渡す手続を進めなければならないところ、控訴人らは、昭和カラーがそれらの履行を催告したのにも応じようとしなかつたのである。
仮に控訴人らに右債務不履行がなかつたとしても、右業務提携について控訴人らがその履行の意思を喪失したことが明白になつた時以降は、控訴人らは本件物上保証を消滅させる義務を負うべきところ、控訴人らは、昭和四九年五月一〇日当時既に右業務提携を実行する意思があつたかどうか疑問であつた。
経営者間、商取引者間などでは、年六パーセントは、全く通常の一般的保証率であり、しかも控訴人らはこれを十分認識していたのであるから、原判決の認定した年三パーセントの保証率は安きに失する。
二 控訴人らの主張のうち、控訴会社の昭和カラーに対する債権の存在は否認する。
(証拠関係) <省略>
理由
一請求原因(一)、(二)の事実は、(二)項中の控訴会社代表者丸山益雄が被控訴人に対し本件物上保証の要求をした点を除き、当事者間に争いがなく、原審における被控訴人本人の供述によれば、控訴会社代表者丸山益雄は、昭和四九年四月二四日ころ、被控訴人に対し、本件物上保証の委託を申込み、被控訴人がそれを承諾したことを認めることができ、<証拠判断略>。
二被控訴人は、控訴人らは本件業務提携を誠実に履行する意思がないのに、右業務提携を推進する一環として控訴会社の債務を担保すべき物件の提供を要求して被控訴人を欺罔し、その旨誤信した被控訴人をして本件物上保証の受託をさせたうえ、本件不動産に横浜市信用保証協会のために債務者を控訴会社とする根抵当権を設定させ、被控訴人に損害を与えた旨主張するが、右主張に沿うかの如き甲第九号証、第一二号証の一の記載部分及び原審における被控訴人本人の供述部分は、被控訴人の一方的なきめつけか憶測にすぎないものであつて、いずれも採用することができない。また、控訴会社と被控訴人間において本件物上保証の委託契約が本件業務提携に関連して締結されたこと及び被控訴人が右委託契約に基づいて横浜市信用保証協会のために本件不動産について根抵当権を設定し、その旨の登記を経由したことは、前記のとおり当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、控訴会社は、本件業務提携後昭和四九年四月二四日ころまでの間に、昭和カラーに対し、控訴会社の昭和四八年一〇月分の給料台帳や昭和四九年一月現在における振出手形内訳表を交付した程度に止まり、その余の右業務提携中の控訴会社がなすべき債務を履行していないことを認めることができるけれども、右事実によつては被控訴人主張の事実を推認するに足りない。他に右主張事実を認めるに足りる証拠はない。
三被控訴人は、本件物上保証の委託契約の基盤となる本件業務提携は控訴会社の債務不履行によつて解除された旨主張する。<証拠判断略>。また、昭和カラーが控訴会社に対し昭和四九年一一月五日ころ到達の書面で本件業務提携を解除する旨の意思表示をしたことは前記のとおり当事者間に争いがなく、控訴会社が同年四月二四日ころまでに昭和カラーに対し、本件業務提携中の控訴会社のなすべき債務をほとんど履行していないことは前記認定のとおりであり、原審及び当審における控訴人本人及び被控訴人本人の各供述によれば、控訴会社はその後も昭和カラーに対し、右債務を履行していないことを認めることができる。しかし、本件業務提携中の、昭和カラーが控訴会社に対してなすべき営業権譲渡の実施時期が昭和四八年一二月一日であること、控訴会社の増資と控訴会社が右増資分を昭和カラーに割り当てる債務の履行については確定的な実施時期の定めがないことは、前記のように当事者間に争いがなく、前記本件業務提携の内容から窺える右業務提携の趣旨を考慮すると、昭和カラーの右営業権譲渡の債務は、控訴会社の右増資割当ての債務より先履行の関係にあると解するのが相当とするところ、<証拠>によれば、昭和カラーは、同月二〇日ころ、控訴会社に対し、横浜市内の顧客に対する取引関係を引き継いだのみで、昭和カラーの主力的な得意先である横須賀市の米海軍エツクスチエインジ、静岡県の富士本屋、三沢市の有限会社小島商事の取引関係については、任意に引き継ぐことをしなかつたことを認めることができるし、昭和四九年五月ころからは、昭和カラー側と控訴会社側との間において本件業務提携の実施について対立を生じたことは後記認定のとおりであるから、被控訴人の右主張は失当である。
四被控訴人は、本件業務提携について控訴人らがその履行の意思を喪失したことが明白になつた時点で控訴人らは本件物上保証を消滅させる義務を生じた旨主張する。右主張の趣旨は必らずしも明確ではないが、昭和カラーの控訴会社に対する右業務提携の解除の主張とあいまつて、控訴会社と昭和カラーが右業務提携を黙示に合意解除したことを主張するものと解すべきである。ところで、控訴会社が昭和カラーに対し本件業務提携上の債務をほとんど履行しなかつたこと、昭和カラーが控訴会社に対し右業務提携上の債務である得意先との取引関係の引継ぎを横浜市内の分を除いて自発的に履行しようとしなかつたことは前記認定のとおりであり、昭和カラーが昭和四九年一〇月六日控訴会社に対し、両者は本件業務提携に関して両者間に発生した争いを若干の条件付ながら終局的に円満に解決することを合意した旨の記載のある書面を交付したことは当事者間に争いがない。そのうえ、<証拠>によれば、控訴会社は、昭和四八年一二月二一日から昭和四九年四月二〇日までの間に、昭和カラーから七四八万八七一九円相当のカラープリントの現像等の注文を受けてその仕事を完成し、これを納品したうえ昭和カラーに対し右売掛代金から昭和カラーが負担していた昭和カラーから控訴会社に出向していた従業員の給料の必要経費を控除した残金の清算を求めたが、昭和カラーはそれに応じようとしなかつたこと、被控訴人は、同年二〜三月ころ、控訴人丸山益雄に対し、同控訴人が有する控訴会社の社員権の二分の一を被控訴人と昭和カラーの取締役で控訴会社に出向していた中山正和に譲渡することを求めたこと、控訴会社取締役丸山益雄は、昭和カラーの了解を得ないまま、同年四月二九日ころ、右中山とともに前記小島商事に赴き、また、同年五月初めころには、前記富士本屋に赴いて、それぞれ従前の昭和カラーとの取引を控訴会社との取引に変更することを求めたこと、控訴会社ないし控訴人丸山益雄は、被控訴人が本件業務提携の一条項として控訴会社の組織を株式会社に変更することとする理由に、前記米海軍エツクスチエインジは有限会社組織の業者とは取引しないことを挙げていたが、そのようなことがないことが判明したため、昭和カラーないし被控訴人に対し不信の念を抱くようになつたこと、控訴会社は、同月六日ころ、昭和カラーに対し、右エツクスチエインジとの取引を昭和カラーと合併した控訴会社の名においてする旨の右エツクスチエインジに提出すべき書面に署名することを求めたところ、昭和カラーはそれを拒否したこと、昭和カラーは、同年一〇月六日、控訴会社に対し、前記同日付書面に署名押印することを求めるとともに、右書面の約旨を忠実に実行するうえは本件業務提携を白紙に戻すことを確約する旨を記載した書面を交付したこと、昭和カラーないし被控訴人は、本件業務提携を、控訴会社が昭和カラーの子会社になることであり、控訴会社の経理部門は昭和カラー側で掌握することであると認識していたこと、控訴会社ないし控訴人丸山益雄と昭和カラーないし被控訴人は、同年五月ころから相互に相手方に不信感をもち、同年一〇月初めころには、本件業務提携を解消することもやむをえないとし、ただ、その清算について話合いがつかないまま、昭和カラーないし被控訴人は、それを有利に運ぶために、他方、控訴会社は、昭和カラーないし被控訴人の一方的な清算の要求に畏怖感をもつたために、本件業務提携の合意解除が延引していたこと、前記昭和カラーが控訴会社に対して右業務提携を解除する意思表示をする旨を記載した書面には、控訴会社は昭和カラーに対し、すみやかに右解除に伴う清算をすることを要求する旨の記載があること、昭和カラーの右解除の意思表示等に対し、控訴会社及び控訴人丸山益雄は、弁護士田子璋に本件業務提携の解消ないしその事後処理を委任し、同弁護士は、右両名の代理人として、昭和カラー及び被控訴人に対し、同年一二月九日ころ到達の書面で、控訴会社の不法行為及び債務不履行を否定するとともに、昭和カラーとの争いを解決するについて協議をする考えがあることを申出たこと、昭和カラーの代表者である被控訴人は、右申出に応じ、同月一一日から一六日にかけて、右弁護士と協議をしたが、右協議は、もつぱら本件業務提携の解消を前提としたその清算についてであつたことを認めることができる。これらの事実を総合すると、昭和カラーと控訴会社は、同月一一日ころ、清算関係は協議を重ねることとして取敢えず本件業務提携を解除することを黙示に合意したことを推認することができる。
五被控訴人が控訴会社に対し、昭和四九年一二月六日ころ到達の書面で本件物上保証の委託契約を解除する旨の意思表示をしたことは当事者間に争いがない。そして、右委託契約は、本件業務提携と関連してなされたものであるから、右業務提携が存在する間は、右解除の意思表示は効力を生じないと解すべきであるが、昭和カラーと控訴会社が同月一一日ころ右業務提携を合意解除したことは前記のとおりであり、右委託契約の解除はその数日前になされたものであるとはいえ、これを社会観念に照らして観察すると、右業務提携の合意解除の経過のもとでは、ほぼ同じ時期になされたものということができるから、右委託契約の解除は有効になされたものと解するのを相当とする。もつとも、右委託契約は、本件物上保証を目的とするものであるから、右委託契約を解除するためには、本件根抵当権者でもある横浜市信用保証協会の同意を必要とすると考えることもできなくはない。しかし、民法六五一条の趣旨に鑑みるときは、被控訴人は、右委託契約の解除の効力を同協会に対して主張することはできないが、控訴会社との間においてはこれを有効になすことができると解すべきであつて、控訴会社は、すみやかに同協会に対し、代りの担保を提供するなり、横浜信用組合に対し貸金債務を弁済するなどして本件物上保証を消滅させ、被控訴人が本件抵当権設定登記の抹消登記手続をすることができるようにする債務があるというべきところ、控訴会社が昭和五二年五月末日までこれをしなかつたことは当事者間に争いがない。
六そこで、進んで控訴会社の不当利得返還義務について判断する。
被控訴人は、控訴会社が本件物上保証を消滅させるべきであるにもかかわらず、本件根抵当登記を引き続き利用していたことをもつて、法律上の原因なき受益と主張する。思うに、他人の不動産を利用するといつても、利用の形態が事実上の占有使用である場合には(むしろ、この場合が通例である。)、占有権原なき利用者は、適正賃料相当額を不当に利得していることはいうまでもない。そして、この場合は、単に占有使用しているという事実状態それ自体が所有者の損失による利得を生ぜしめていることになる。これに対し、物上保証に係る不動産を自己の債務の担保として利用するという形態にあつては、右と著しく事情を異にし、同列に論ずることはおよそ不可能である。けだし、このように担保として利用するという場合には、その債務のため該不動産が物上保証になつているという法的状態それ自体では、利用者に対し何らの利得をももたらさないからである。物上保証があれば、例えば、これによつて金融機関から融資を受け、その融資を有利に運用して利益を挙げ得る場合のあることは、これを認めるにやぶさかではない。しかし、これは、当人の事業経営の才能、力量や当人の活用し得た取引機会のいかんにかかわる問題であり、商才・商運といつた個人的特殊事情のしからしめるところが大きく、右のごとき利益をもつて、当該不動産の生み出した利益と評価することができないのみならず、事実上の占有使用の場合における適正賃料額のごとき評価の客観的基準もない。このように見てくると、他人の不動産を物上保証として利用していることは、不当利得の要件としての「他人ノ財産……ニ因リ利益ヲ受ケ」ていることに該当しないものというほかはない。
不当利得のいま一つの要件である「損失」についても、事情は全く同じであり、所有者の不動産が物上保証として他人の債務の担保に供せられているという法的状態それ自体によつては、あたかも不法占拠されている場合における適正賃料相当額と同様の客観的な損失を被つていることにはなり得ない。不当利得における「損失」の要件は、現実に被つた損失であるを要しないとして、損失概念を拡大する見解が有力であるが、かかる見解は、当該事実なかりせば財産の増加することが通常なりと認められる場合には、なお損失ありとすべきであるというのであつて、いわば、損失を抽象的・客観的にとらえようとするのである。ところが、所有者の財産が物上保証に供せられている場合においては、そのことがなければ自らこれを担保として融資を受け、又は適時に売却して利益を挙げ得たはずであるといつてみても、果たしてそのとおりであるか、またその額いかんは、やはり当の所有者の商才・商運という個人的特殊事情に左右されざるを得ない。そうすると、右に掲げた損失概念を拡大する見解に従うとしても、右の場合においては、不当利得の要件たる「損失」としての得べかり利益の喪失を見出すことができない。なお、被控訴人は、本件不動産につき、日本冷凍食品株式会社から物上保証提供方の有償の委託契約の申込みがあり、この旨を控訴会社に告知してあるとして、右有償提供の機会を喪失したことをもつて、損失ありと主張するもののごとくである。そして、<証拠>によれば右告知の事実は認められるけれども、告知内容たる事実の存在については、原審及び当審における被控訴人本人の供述によつても、これを認めることができない。ほかには、この点に関する証拠はないから、被控訴人の右主張は採用することができない。
したがつて、控訴会社には不当利得の返還義務はないといわざるを得ない。
七控訴会社に債務不履行及び不当利得の責任がないとすると、控訴人丸山益雄の責任はその前提を欠くから、その余の点を判断するまでもなく、被控訴人の控訴人丸山益雄に対する請求も失当である。
八よつて、被控訴人の控訴人らに対する本訴請求は、その余の点を判断するまでもなく理由がないからこれを棄却すべきところ、これと趣旨を異にする原判決は失当であつて本件控訴は理由があるから、民訴法三八六条により原判決中控訴人ら敗訴部分を取り消して被控訴人の請求を棄却し、被控訴人(附帯控訴人)の本件附帯控訴は理由がないから、同法三七四条、三八四条によりこれを棄却し、訴訟費用の負担について同法九六条、八九条を適用して主文のとおり判決する。
(岡松行雄 賀集唱 並木茂)
別表(一)、(二)<省略>