大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和53年(ネ)2549号 判決

控訴人は、増淵及び斎藤の右行為は故意又は重大な過失による違法な職務行為であるとして、国家賠償法一条又は民法七一五条に基づき、被控訴人に対しその損害の賠償を求めている。しかし、

1 国民が国の運営する郵便事業を利用する場合の関係を権力関係と捉えること、換言すれば、郵便局郵政事務官(以下「郵便局員」という)の郵便利用者に対する役務の提供を公権力の行使と解することは、その性質上相当でなく、郵便局員が右役務の提供に当り他人に損害を加えたとしても、国家賠償法一条の場合に該当しないものと解すべきであるから、同条の適用を前提とする控訴人の請求は、この点においてすでに失当である。

2 次に、同法四条は、国又は公共団体の損害賠償の責任について、同法一条ないし三条の適用がない場合は、民法の規定によると定めているが、同法五条によれば、民法以外の他の法律に別段の定めがあるときは、その定めによるとされており、郵便法は、郵便物を取り扱うに当って生じた損害の賠償に関し、第六章損害賠償として六八条ないし七五条の規定を設け、六八条は、国が賠償すべき場合と賠償金額を限定的に規定し、七三条は、損害賠償の請求権者を郵便物の差出人又はその承諾を得た受取人に限る旨定めている。これらの郵便法の諸規定は、郵便の役務を、なるべく安い料金で、あまねく公平に提供することによって、公共の福祉を増進するため(同法一条)、国が郵便事業を独占することとした(同法五条)結果、取り扱う郵便物の数量が厖大となり、事故の発生も避け難いことが必定であるところから、それによって生ずる損害のすべてについて国が賠償責任を負うことになると、低廉、迅速を基本とする郵便事業の合理的運営を妨げ、ひいては同法の前記目的にももとるおそれもあるので、このような事態を避けるために、国が損害賠償責任を負うべき場合とその範囲を定めたものと解するのが相当である。したがって、右郵便法の諸規定は、国家賠償法五条にいう別段の定めに当り、郵便物の取扱いに関する国の損害賠償の責任については、民法の適用はないものといわなければならない。

控訴人は、右郵便法の諸規定が国家賠償法五条にいう別段の定めに当るとしても、取り扱った公務員に故意又は重大な過失がある場合のように同法に定めのないものについては、民法が適用されるべきであると主張するが、郵便法には、鉄道営業法一一条の二第三項、一二条四項のような特則はなく、前記郵便法の規定の置かれた趣旨に照らし、控訴人の右主張は採用することができない。

以上のとおりであるから、民法七一五条に基づき被控訴人に対し損害賠償を求める控訴人の請求もその前提を欠くものといわなければならない。なお、控訴人が、郵便法七三条の損害賠償請求権者でないことはその主張自体から明らかであり、同法に基づく損害賠償もまた問題になり得ない。

(田宮 森 真栄田)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!