大判例

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東京高等裁判所 昭和53年(ネ)266号 判決

公正証書はその有する重要性に鑑み、公正の効力を有するためには法律の定める要件を具備することを要するところ(公証人法二条)、代理人の嘱託による公正証書作成の場合には、公証人法三二条、三九条、同法施行規則一三条の二に規定された手続を履践することを要するのであるから、代理人が本人と称して公正証書の作成を嘱託することは違法であり、これに基いて作成された公正証書は公正の効力を有せず、いわゆる署名代理を認める余地はないと解され(最高裁昭和五一年一〇月一二日判決、民集三〇巻九号八八九頁)、この理は、代理権を有しないものが正当な権限を有する代理人と称して公正証書の作成を嘱託した場合も同様であると解するのが、相当である。けだし、公正証書の作成を現実に嘱託する者に人違いがないということは、公正証書の作成にあたり要求される最も基本的な事項というべきであるからである。

≪証拠≫によれば、被控訴会社代表者川井三郎は同社京都支社長高橋義治に対し被控訴会社と控訴会社との間の本件建物賃貸借契約について公正証書の作成嘱託の代理権を授与したこと、右高橋は控訴会社と約束した公正証書作成期日である昭和四三年二月二八日に他に出張することとなり、公証人役場に出頭することができなくなったので、同支社内務課長高本善哉に、同日公証人役場に出頭して右公正証書の作成嘱託をする旨命じたこと、その際高橋は高本に被控訴会社の高橋に対する公正証書作成嘱託を委任する旨の委任状、高橋義治の印鑑証明書を交付しただけで、高橋の高本に対する復代理の委任状は交付しなかったこと、右高本は昭和四三年二月二八日、控訴会社代理人塩見松治とともに京都地方法務局所属公証人中道武次役場に出頭し、同公証人に対し被控訴会社代理人高橋義治と称して本件公正証書の作成を嘱託したこと、同公証人は高本の提出した被控訴会社の高橋に対する委任状及び高橋の印鑑証明書により高本を被控訴会社代理人高橋義治と認め、その結果本件公正証書が作成されたこと、同公正証書になされた被控訴会社代理人高橋義治の署名は高本がなしたものであることが認められ、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。

そうすると、本件公正証書は、その作成嘱託に違法があり、公正の効力を有しないものというべきであって、債務名義として無効であることが明らかであるから、その余の点について判断するまでもなく、本件公正証書の執行力の排除を求める被控訴人の本訴請求は認容すべきものである。

(吉岡 手代木 上杉)

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