東京高等裁判所 昭和53年(ネ)2758号 判決 1980年11月25日
控訴人(附帯被控訴人)
西島俊之
西島容子
西島繁
西島愛子
右四名訴訟代理人
下光軍二
外三名
被控訴人(附帯控訴人)
一審被告兼同露木正一訴訟承継人
露木一馬
被控訴人(附帯控訴人)
一審被告露木正一訴訟承継人
露木ちよ子
同(同)
磯野ふみ子
同(同)
佐藤悦子
同(同)
露木勲
被控訴人(附帯控訴人)
伊東市農業協同組合
右代表者理事
杉本儀作
右六名訴訟代理人
大橋堅固
主文
一 控訴人西島俊之、同西島容子の控訴及び訴訟承継に基き原判決主文第一項及び第三項中右控訴人両名に関する部分を次のとおり変更する。
1 控訴人西島俊之、同西島容子それぞれに対し、被控訴人露木一馬、同伊東市農業協同組合は各自六七〇万〇一八〇円、同露木ちよ子は二二三万三三九三円、同磯野ふみ子、同佐藤悦子、同露木勲はそれぞれ一一一万六六九六円及び右各金員に対する昭和五二年九月六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
2 控訴人西島俊之、同西島容子のその余の請求を棄却する。
二1 控訴人西島繁、同西島愛子の控訴を棄却する。
2 訴訟承継に原判決主文第二項を次のとおり変更する。
控訴人西島繁、同西島愛子それぞれに対し、被控訴人露木一馬、同伊東市農業協同組合は各自一〇〇万円、同露木ちよ子は三三万三三三三円、同磯野ふみ子、同佐藤悦子、同露木勲はそれぞれ一六万六六六六円及び右各金員に対する昭和五二年九月六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
三 本件附帯控訴を棄却する。
四 訴訟費用は一、二審を通じ三分し、その二を控訴人ら、その余を被控訴人らの負担とする。
五 この判決の主文第一項1及び第二項2は、仮に執行することができる。
事実
控訴人らは「原判決を次のとおり変更する。被控訴人らは(但し、被控訴人露木ちよ子は各七五六万五九一〇円、同磯野ふみ子、同佐藤悦子、同露木勲はそれぞれ各三七八万二九五五円につき)連帯して、控訴人西島俊之、同西島容子それぞれに対し二二六九万七七三〇円及びこれらに対する昭和五二年九月六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。被控訴人らは(但し、被控訴人露木ちよ子は各一〇〇万円、同磯野ふみ子、同佐藤悦子、同露木勲はそれぞれ各五〇万円につき)連帯して、控訴人西島繁、同西島愛子それぞれに対し三〇〇万円及びこれらに対する昭和五二年九月六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は一、二審とも被控訴人らの負担とする。」旨及び主文第三項同旨の判決並びに仮執行の宣言を求め、
被控訴人らは「本件控訴を棄却する。原判決中被控訴人ら敗訴部分を取消す。控訴人らの請求を棄却する。訴訟費用は一、二審とも控訴人らの負担とする。」との判決を求めた。
当事者双方の事実主張及び証拠関係は、次に付加するほか、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。
一 控訴人らの請求原因の補足
一審被告露木正一は、昭和五三年七月二五日死亡し、被控訴人露木ちよ子(妻)、同磯野ふみ子(長女)、同佐藤悦子(二女)、同露木勲(長男)、同(一審被告)露木一馬(二男)が相続したから、控訴人らは、被控訴人ちよ子、同ふみ子、同悦子、同勲に対し各法定相続分につき被控訴人一馬、同組合と連帯して本件不法行為に基く損害賠償及び遅延損害金の支払を求める。
二 被控訴人らの認否
一審被告正一が控訴人ら主張の日に死亡し、被控訴人ら(組合を除く。)が控訴人ら主張のように相続したことは、認める。
三 証拠<省略>
理由
一請求原因1及び2の事実は当事者間に争いがない。
<証拠>によれば、被控訴人一馬は加害車両を運転し、さきに自車を追抜いた車両を再び追抜くため、先行車との十分な車間距離をとることなく、制限速度を著しく超える約八〇キロメートル毎時の速度で走行し、右交差点に近付いた際、その対面信号が赤色を表示し、先行車が右交差点手前の横断歩道手前停止線で停止した車両に次いで停止しようとしたのを認め、追突を避けるため、中央線右側に進出し、しかも、右赤信号を無視してそのままの速度で同交差点を通り抜けようとしたところ、志をりが右交差点出口付近に設けられた横断歩道上を横断歩行中であることを認めたが、もはや衝突回避の措置をとりえず、自車前部を同女に激突させて同女を即死させたことが認められる。
二志をりの損害とその相続関係及び控訴人らの被つた損害並びにその填補については、原判決理由三(六枚目裏七行目から八枚目裏七行目まで)の記載を次のとおり付加訂正のうえ引用する。
1 原判決理由三ノ(一)逸失利益(六枚目裏九行目から七枚目表六行目まで)を次のとおりに改める。
「(一) 逸失利益
志をりが死亡時八才の女子であつたことは当事者間に争いがなく、その平均余命が六九年を下らないことは公知の事実である。その逸失利益の額を、中学校卒業時から六七才まで稼動し毎年女子労働者の平均的収入(昭和五四年センサスによるパートタイム労働者を除く女子全労働者・産業計・企業規模計・学歴計の表による各年齢階級の平均給与額=年額一七一万二三〇〇円)のほか家事労働相当額年六〇万円を加算し、その五割相当の生活費を支出するものとしてライプニッツ方式により民事法定利率(年五分)による中間利息を控除して事故時の現価を算出すると概算一五八九万円となる。」
2 同七枚目裏二行目「各二〇〇万円」を「各三〇〇万円」に、八枚目裏六行目「三〇万円」を「六〇万円」にそれぞれ改める。
3 同八枚目表二行目の次に次のとおり付加する。
「3の2 前記慰藉料の額について附言するに、本件事故の原因がさきに述べたとおり加害車両運転者である被控訴人一馬の一方的過失(故意に近い無謀な運転)にあること、本邦において将来にあつても顕著な労働賃金(名目賃金)の上昇、貨幣価値の下落の傾向をたどると予測されていることは公知の事実であり、現在の平均賃金額を基礎とし、ライプニッツ方式・民法所定利率による中間利息控除の方法による逸失利益の現価の算定は極めて控え目な数値をもたらすこと、女子の収入を予測する場合男子のそれと著しい格差のある現在の状態が将来も長期間継続することを前提とすることは必ずしも妥当でなく、また特に児童の死亡による損害の算出に当り男女の将来収入に格差を認めることは本来合理性に乏しいこと等に鑑み、本件事故により被害者及びその近親である控訴人らの被つた損害総額の判断に際し、これらの諸点を慰藉料額の算定において考慮するのを相当とする。以上を合計すれば、弁護士費用を除く総損害は二八二四万円(うち慰藉料合計一二〇〇万円)となる。」
三以上により、被控訴人一馬、一審被告正一、被控訴人組合は連帯して、本件事故による損害賠償として控訴人俊之、同容子に対し各六七〇万〇一八〇円、控訴人繁、同愛子に対し各一〇〇万円及びこれらに対する本件事故発生後の昭和五二年九月六日から支払済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払義務を負つたところ、一審被告正一が死亡し、被控訴人ちよ子(妻)、同ふみ子(長女)、同悦子(二女)同勲(長男)、同(一審被告)一馬(二男)が相続したことは当事者間に争いがないので、法定相続分に従い、被控訴人ちよ子はその三分の一、同ふみ子、同悦子、同勲はその六分の一ずつにつき一審被告正一の各債務を承継したものといわなければならないから、控訴人らの請求は右限度において正当として認容し、その余は失当として棄却すべきである。
四よつて、控訴人俊之、同容子の控訴と訴訟承継に基き右趣旨に従い、原判決中右控訴人両名に関する部分を変更し、控訴人繁、同愛子の請求については右と同旨の原判決は相当であつて控訴は理由がないからこれを棄却し、訴訟承継に基き右控訴人両名勝訴部分を変更し、被控訴人らの附帯控訴はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、八九条、九二条、九三条、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。
(倉田卓次 井田友吉 高山晨)
<参考・原審判決>
(東京地裁昭五二(ワ)第七七一六号、損害賠償請求事件、昭53.10.23民事第二七部判決)
〔主文〕
一 被告らは原告西島俊之、同西島容子それぞれに対し、各自三八六万四、八〇五円とこれに対する昭和五二年九月六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告らは原告西島繁、同西島愛子それぞれに対し、各自一〇〇万円とこれに対する昭和五二年九月六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
三 各原告のその余の請求を棄却する。
四 訴訟費用は五分し、その四は原告らの、その余は被告らの負担とする。
五 この判決第一、第二項は仮に執行することができる。
〔事実〕
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告らは各自、原告西島俊之に対し二、二六九万七、七三〇円と、原告西島容子に対し二、二六九万七、七三〇円と、原告西島繁に対し三〇〇万円と、原告西島愛子に対し三〇〇万円と右各金員に対する昭和五二年九月六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
3 第一項について仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告らの請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 交通事故の発生
昭和五一年一月一三日午後三時五四分、静岡県田方郡大仁町田原野三二〇番地交差点の横断歩道上で、被告露木一馬運転の普通乗用自動車(静岡せ六六五一号)が横断中の西島志をりに衝突し、志をりは頭蓋骨折等によりその場で死亡した。
2 被告らの責任原因
(一) 被告一馬は対面信号が赤色を示していたのに、速度を出しすぎて交差点内に突走つた過失によつて、本件事故を発生させた。
(二) 被告露木正一は加害車両を所有し、自己のため運行の用に供していた。
(三) 被告伊東市農業協同組合は被告一馬を使用し、同被告が被告組合の業務執行中にこの事故を起した。
3 損害関係
(一) 志をりの損害と相続
(1) 逸失利益
三、六〇八万五、一〇〇円
志をりは死亡時、小学校二年生(八才)の健康で学業成績も優秀な女子であつた。労働可能年数は二二才から六七才までの四六年間、算定基礎収入は昭和五〇年賃金センサス中の大学卒女子労働者平均賃金を、昭和五一年、昭和五二年の賃金上昇率を五パーセントずつとして上昇させた額に家事労働分として毎月五万円ずつを加算した金額、生活費は右収入の五割、中間利息はホフマン式により控除
(2) 慰藉料 一〇〇〇万円
(3) 相続
原告俊之、同容子は志をりの親である。(1)、(2)の損害賠償請求権を二分の一ずつ相続した。
(二) 慰藉料
(1) 原告俊之、同容子分
各五〇〇万円
志をりの父、母として蒙つた精神的損害の額はいずれも五〇〇万円を下らない。
(2) 原告繁、同愛子分
各三〇〇万円
志をりの祖父、祖母として蒙つた精神的損害の額はいずれも三〇〇万円を下らない。
(三) 葬儀費用
原告俊之、同容子で一七万五、〇〇〇円ずつ負担した。
(四) 損害のてん補
(1) 原告俊之、同容子は、本件交通事故に基づく損害につき、自賠責保険金一、二九八万九、六四〇円、被告らから五五万円を受領した。
(2) 原告俊之、同容子は(一)ないし(三)の損害から、六七六万九、八二〇円ずつを差差引く。
(五) 弁護士費用
原告俊之、同容子は一二五万円ずつを負担した。
4 まとめ
よつて、被告ら各自が不法行為に基づく損害賠償金として、原告西島俊之に対し二、二六九万七、七三〇円、原告西島容子に対し二、二六九万七、七三〇円、原告西島繁に対し三〇〇万円、原告西島愛子に対し三〇〇万円と右各金員に対する不法行為日後の昭和五二年九月六日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うことを求める。
二 請求原因に対する認否
請求原因1、2の事実は認める、3のうち(一)(1)中の志をりの死亡時の年令の点と(四)(1)事実は認め、その余は知らない。
三 抗弁
被告らは原告らに対し、本件交通事故に基づく損害賠償金として五〇万円を支払つた。
四 抗弁に対する認否
五〇万円の受領は認める。但し、香典として贈られたものであるから、損害をてん補したとはいえない。
第三 証拠<省略>
〔理由〕
一 交通事故の発生
請求原因1の事実は当事者間に争いがない。
二 被告らの責任原因
請求原因2の(一)ないし(三)の事実は関係当事者間に争いがない。
三 損害関係
1 志をりの損害と相続
(一) 逸失利益
志をりが死亡時八才であつたことは当事者間に争いがない。同女の労働可能年数は二二才から六八才までの四六年、その収入は公刊されている昭和一年賃金センサス中の全労働者の平均給与額に依拠し、生活費は収入の三五パーセントを占めるものとして逸失利益を算出し、現価はライプニッツ式によつて換算するのが相当である。
算式
(143000×12+467900)×(1−0.35)×(18.9292−9.8986)=12819252
(二) 慰藉料 四〇〇万円
(三) 相続
原告西島容子本人の供述によれば、原告俊之、同容子が志をりの父母で、志をりに属する権利をそれぞれ二分の一ずつ相続したと推認できる。
2 各原告の慰藉料
(一) 原告俊之、同容子
各二〇〇万円
(二) 原告繁、同愛子
各一〇〇万円
原告西島繁本人の供述によれば、原告繁と同愛子は志をりの祖父母で、志をりが生まれてこのかた、常にそのそばにいて種々世話をし、愛護していたことが認められる。これら諸般の事情を考慮すると、原告らが蒙つた精神的損害の額はそれぞれにつき一〇〇万円と算定するのが相当である。
3 葬儀費用
原告西島容子本人の供述によれば、同原告と原告俊之は志をりの葬儀費用として合計三五万円を下らない額を折半して負担したことが認められる。
4 損害のてん補
(一) 請求原因3(四)(1)の事実は当事者間に争いがなく、受領額六七六万九、八二〇円ずつを原告俊之、同容子に属する損害賠償請求権の額から差引くべきことは同原告らが自認するところである。
(二) 右のほか被告らが五〇万円支払つたことは当事者間に争いがない。この五〇万円は原告西島容子本人の供述によれば、香典として受領したものであることが認められる。ところで、右香典の額、原・被告らの関係を考慮すると、損害賠償義務履行の一つの形式として理解し、原告俊之、同容子の損害をてん補すべき性質のものとするのが相当である。
5 弁護士費用
原告俊之、同容子が訴訟代理人に支払うべき弁護士費用のうち各原告につきそれぞれ三〇万円を本件交通事故による損害として相当と認める。
四 結論<省略>