東京高等裁判所 昭和53年(ネ)2928号 判決 1979年4月26日
控訴人 加藤実
右訴訟代理人弁護士 木津川迪洽
被控訴人 有限会社湯河原清掃公社
右代表者代表取締役 室伏敏雄
<ほか三名>
右被控訴人ら訴訟代理人弁護士 吉永精志
諸永芳春
主文
原判決中被控訴人石原久司に関する部分を取り消す。
控訴人の被控訴人石原久司に対する本件訴えは昭和五三年七月五日取下げによって終了した。
控訴人の被控訴人有限会社湯河原清掃公社、同依田務、同秋澤信夫に対する本件控訴を棄却する。
訴訟費用は控訴人と被控訴人石原久司との関係では第一、二審とも控訴人の負担とし、控訴人とその余の被控訴人らとの関係では控訴人について生じた控訴費用を控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は、「原判決を取り消す。横浜地方裁判所小田原支部が昭和五三年五月二六日言い渡した昭和五三年(手ワ)第三四号約束手形金請求事件の手形判決を認可する。異議申立後の訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴人ら代理人は、控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上・法律上の主張及び証拠の関係は、左のとおり附加するほか、原判決の事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。
(控訴代理人の陳述)
本件訴えは、控訴人が原審第三回口頭弁論期日においてその取下書を、被控訴人石原の同意書を添付して原審裁判所へ提出したことにより、同被控訴人に関する限り、有効に取り下げられた。
理由
まず、控訴人の被控訴人石原に対する訴取下げの効力について判断する。
控訴代理人が昭和五三年七月五日被控訴人全員につき訴えを全部取り下げる旨の書面を、かねて被控訴人石原から預っていた同被控訴人の訴取下げに対する同意書面とともに、原審裁判所に提出し、同日午前一〇時の第三回口頭弁論期日において右訴取下書を陳述したところ、被控訴代理人が「被控訴人石原の右訴取下げに対する同意の意思表示は撤回する。被控訴人らは訴の取下げに同意しない。」と述べたことは、記録上明らかである。
しかし、訴えの取下げに対する相手方の同意は、訴取下げについて異議がない旨の裁判所に対する一方的意思表示であり、しかも、訴取下げの効力発生要件である。したがって、その意思表示は、裁判所に到達することによって直ちに完成するとともに、取下げの効力も確定的に発生し、同意がその目的を達成したこととなるので、以後これを撤回することは許されないと解するのが相当である。それ故、被控訴代理人による前記同意の撤回は、その効力を生ずるに由なく、被控訴人石原に関する限り、本件訴えは、適法に取り下げられたものというべきである。
次に、被控訴人石原を除くその余の被控訴人らに対する関係について判断する。
本件訴えが手形金の支払いを求めるものであるところ、控訴人が第一審口頭弁論終結の際に本件各手形を所持していなかったことは、当事者間に争いがなく、また、手形所持に代わるべき除権判決を得ていたことについての主張・立証もないので、控訴人の本訴請求は、失当として棄却するほかはない。
以上の次第であるから、原判決中被控訴人石原に関する部分は、これを取り消して、本件訴えは、同被控訴人に関する限り、取下げによって終了した旨を宣言することとし、その余の被控訴人らに関する部分は、相当であって、本件控訴は理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 渡辺吉隆 裁判官 柳沢千昭 中田昭孝)