東京高等裁判所 昭和53年(ネ)2969号 判決 1981年3月25日
控訴人 甲野一枝
<ほか二名>
右三名訴訟代理人弁護士 乙山一郎
<ほか三名>
被控訴人 和島操子
<ほか三名>
右四名訴訟代理人弁護士 石野隆春
主文
一 原判決中控訴人甲野一枝の請求を棄却した部分を取消す。
二 右取消にかかる訴を却下する。
三 控訴人甲野二枝、控訴人甲野三枝の控訴をいずれも棄却する。
四 訴訟費用中、控訴人甲野一枝と被控訴人ら間において生じた部分は、第一、二審を通じて弁護士乙山一郎、同丙川春夫、同丁原夏夫及び同甲月秋夫の負担とし、控訴人甲野二枝、同甲野三枝の各控訴によって生じた部分は、同控訴人らの負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 控訴人ら
1 原判決を取消す。
2 被控訴人らは各自控訴人甲野一枝に対し、金三万三二七八円、控訴人甲野二枝に対し金一一万九八七九円、控訴人甲野三枝に対し金一二万八八二八円を支払え。
3 被控訴人らは各自原判決別紙目録第一記載の建物を収去して、控訴人甲野一枝に対し、同目録第二記載の土地を明渡し、昭和四九年三月二八日以降右明渡しずみまで月額金一八六五円の割合による金員を、控訴人甲野二枝に対し、同目録第三記載の土地を明渡し、昭和四九年三月二八日以降右明渡しずみまで月額金六七一七円の割合による金員を、控訴人甲野三枝に対し、同目録第四記載の土地を明渡し、昭和四九年三月二八日以降右明渡しずみまで月額金七二一八円の割合による金員を支払え。
4 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。
との判決並びに仮執行宣言
二 被控訴人ら
控訴棄却の判決
第二当事者双方の主張並びに証拠関係
次のとおり附加するほかは、原判決事実摘示と同一(但し、原判決一八枚目裏四行目に「第二八号証」とあるのを「第二七号証」と改め、その六行目の「第二一号証は一ないし一六)」の次に「及び第二八号証の一」を加え、同一九枚目表一〇行目の「(第一、第二回)」を削り、その裏二行目の「(枝番を含む)」の次に「並びに第二八号証の一」を挿入する。)であるから、これを引用する。
(証拠関係)《省略》
理由
第一控訴人甲野一枝の本件訴の適否について
職権をもって調査するに、右訴は、弁護士乙山一郎、同丁原夏夫及び同甲月秋夫が昭和四九年七月九日に控訴人甲野一枝の代理人として提起し、その第一審は、右弁護士三名のうち乙山一郎及びその後乙山弁護士の復代理人に選任された弁護士丙川春夫がその訴訟追行を担当し、更にその第一審判決に対しては、以上四名の弁護士が同控訴人の代理人として本件控訴を提起し、第一審同様乙山一郎及び丙川春夫の両弁護士がその訴訟追行を担当したこと、以上の事実は、本件記録上明らかである。しかしながら、《証拠省略》を総合すれば、控訴人甲野一枝(大正四年三月一一日生)は、昭和一二年頃脳疾患にかかったが、それが逐年悪化し、昭和五一年四月五日には、「陳旧性精神分裂病(欠陥状態)」であって「身辺自律不能を伴う幻覚妄想状態にて思考判断疎通に著しい障害があり適切な意思決定及び表明が期待し得ないもの」と診断され、日常生活においても、いわゆる廃人同様であって、自らの意思に基いて行動し得る状態ではなかったが、かかる状態は、すでに昭和四九年当時においても右と異るところがなかったものと認められる。そうして見ると本件記録に編綴されている昭和四九年六月三〇日付の同控訴人作成名義の本件訴の提起追行を前記の弁護士らに委任する旨の訴訟委任状及び昭和五三年一一月三〇日付の同控訴人作成名義の本件控訴の提起追行を同弁護士ら及び弁護士丙川春夫に委任する旨の訴訟委任状が同控訴人の意思に基いて作成されたものとは到底認めがたいし、他に弁護士乙山一郎、同丁原夏夫及び同甲月秋夫が本訴の提起につき同控訴人を代理する正当な権限があったことを証明するに足りる資料がない。
以上の事実によれば、控訴人甲野一枝の本件訴は、訴訟要件を欠き不適法であるといわざるを得ないから、原判決中、右訴が適法であることを前提として、その請求を棄却した部分を取消して右訴を却下し、訴訟費用については、民訴法九九条の規定を適用して右訴につき訴訟代理人として訴訟行為をした弁護士乙山一郎、同丙川春夫、同丁原夏夫及び同甲月秋夫にこれを負担させることとする。
第二控訴人甲野二枝、同甲野三枝の控訴について
一 当裁判所も右控訴人両名の本訴請求は、いずれも失当として棄却すべきものと判断するのであるが、その理由は、次のとおり附加、訂正するほかは、原判決の理由説示と同一であるから、これを引用する。そして、《証拠省略》を参酌して見ても、以上の認定及び判断を変更する要を見ない。
1 原判決二二枚目裏末行の「第二三号証」の次に「並びに当審における控訴人甲野二枝本人尋問の結果によってその成立を認める甲第三一号証」を挿入し、同二三枚目表一〇行目の「思われない」とあるのを、「思われないし、他に右のように被控訴人らが供託した賃料額が不相当であって、控訴人らの主張する賃料額が相当であることを裏づける客観的な資料は存在しない。」と改める。
2 原判決二六枚目裏一行目に「本人尋問の結果によれば」とあるのを「本人尋問の結果と弁論の全趣旨を総合すれば」と改め、同五行目の「及び同和島真理」を削り、それにつづく「居住し、」の次に「また被控訴人桜井真理は、昭和五三年一一月一三日に桜井裕司と婚姻し、以後東京都国分寺市内の肩書住居に居住し、更に」を挿入し、右五行目から次行にかけて「埼玉県」とあるのを「宮城県」と改め、同八行目の「被告和島真理は大学在学中であり、」を削り、同九行目から次行にかけて「都内神田にある勤務先へ現住居から片道一時間半ないし二時間をかけて通勤しているので」とあるのを「兄誠の早逝により母である被控訴人和島操子(大正二年一二月生)と同居して、同人を扶養すべき立場にあるため」と、その末行に「母ら弟妹」とあるのを「そこで妻子、母及び弟」と、それぞれ改める。
3 原判決二七枚目裏五行目に「これを利用する方策」とあるのを「これを利用し控訴人らの前記の計画を実現させるための方策」と改める。
二 よって、これと同旨の原判決は相当であるから、控訴人甲野二枝、控訴人甲野三枝の本件控訴を棄却し、控訴費用は、民訴法九五条、八九条の各規定を適用して、同控訴人らに負担させることとする。
第三以上の理由によって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 石川義夫 裁判官 寺澤光子 原島克己)