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東京高等裁判所 昭和53年(ネ)2992号 判決

本件賃料の不払につき背信性を欠くとの控訴人の主張について判断する。

(一) ≪証拠≫によると、控訴人会社の代表者訴外増田スミ子は、昭和四二年七月一日訴外有限会社モデラートから本件不動産に対する賃借権を、代金二、〇〇〇万円で譲渡を受け(右代金額には、賃貸借の保証金として同社が被控訴人に預託した金二五〇万円に関する権利譲受け分が含まれている。)、そのころ金一、三〇〇万円位を投じて改装、設備を整えた上、スイス料理レストランを開店し、その後控訴人会社が設立され、その経営に当ることになって被控訴人と本件賃貸借契約を締結するに至ったものであるが、控訴人は、その際被控訴人の賃料増額請求にも応じ、本件に至るまで、後記事故を除いて格別の問題もなく経過し、現在従業員八名を擁し月間売上高も数百万円に達し、各種宣伝の結果知名度もかなり高くなってきたので、今後も本件建物部分において前示営業を継続したい意向を有している事実を認めることができる。

(二) そして、昭和四八、四九年ころ水道の突然の断水事故、水道への汚水、油水の混入事故、同四六年一〇月一〇日本件建物部分のうち地階天井の一部が抜け落ちそこから大量の水が流れ込んだこと、同五〇年七月一三日右地階の床全面が水浸しになって控訴人が三日間の休業をしたこと及び控訴人は右後者の漏水事故による損害賠償として被控訴人に対し金六〇万六、一八七円の支払を請求して交渉した結果、同五一年二月被控訴人とその損害額を金二〇万円とする示談が成立したこと、以上の事実は、当事者間に争いがなく、≪証拠≫を総合すると、控訴人は、前示同四六年一〇月一〇日の漏水事故につき同年一一月一日被控訴人に対し金一八五万七、一四六円の損害賠償を求めて交渉した結果、金七〇万円位の支払を受けたが、その後も前示の如き事故が相次ぎ、しかも、右同五〇年七月一三日の漏水事故による損害賠償の問題については、十分な裏付資料を呈示しなかったことも原因となっていたものの、交渉が進展しなかったため、これが促進を図るべく、既に遅滞していた昭和五〇年六、七月分の本件賃料を含めてその支払を拒んでいたが、被控訴人からの前示賃貸契約解除の意思表示に驚き、同年一一月七日同年六月分から同年一〇月分までの未払賃料合計金一三七万二、五〇〇円に電気、水道料金等を含めた金一六四万二、六一一円を支払った事実を認めることができる。

(三) 他方、≪証拠≫を総合すると、控訴人は、本件建物部分の照明設備の配線に不良個所があり、かつ、右建物部分の一階から地階に至る非常用通路に食料品等の障害物を置き、昭和四七年一一月一五日等における消防署員の立入検査によってその改善除去を勧告されながらも、右障害物については今日に至るまで除去されていない事実を認めることができる。

そこで、以上の事実に基づいて考察するに、控訴人には、前示漏水事故による損害賠償の問題の解決を促進すべく賃料の支払を拒み、消防署の勧告を無視する態度を続けるなど咎むべき点がないではないが、右未払賃料も被控訴人からの本件賃貸借契約解除の通告に接して間もなく支払い、その後右損害賠償問題も示談によって解決し、右賃貸借契約の継続を望んでいるというのであって、これに控訴人と被控訴人間における本件賃貸借契約関係の推移、本件建物部分につき漏水等の事故が相次いで発生し、前示のような交渉が持たれた事実等諸般の事情経緯を考量すると、控訴人の右賃料不払が本件賃貸借契約の存続を否定しなければならない程に背信的なものとは到底認めることができない。また、右の他に、控訴人と被控訴人との右賃貸借契約における信頼関係を破壊したとする特段の事情を認めるに足りる証拠も存しない。

そうすると、被控訴人の本件賃貸借契約解除の意思表示は、その効力を生じなかったものといわなければならない<。以下略>

(安倍 長久保 加藤)

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