東京高等裁判所 昭和53年(ラ)1149号 決定 1979年5月01日
抗告人
株式会社小林製作所
右代表者代表取締役
小林勇
主文
一 本件抗告を棄却する。
二 本件異議申立及び抗告の各手続費用は、抗告人の負担とする。
理由
一 本件抗告の趣旨は、「原決定を取消し、更に相当の裁判を求める。」というにあり、本件抗告の理由は、要するに、「債権者株式会社東京都民銀行は、昭和五〇年九月三〇日に件外東京信用保証協会より金一九七〇万四〇三四円の代位弁済を受け、同時に同信用保証協会に対して極度額二〇〇〇万円の本件根抵当権の一部移転登記をしたものであるから、右債権者の有する本件根抵当権による被担保債権の額は金二九万五九六六円であるに拘らず、右債権者は抗告人に対し本件根抵当権による被担保債権として、これを超過する債権すなわち本件不動産競売手続開始決定の別紙債権目録記載の債権を有するものとして本件競売申立をなし、原審競売裁判所も右債権を基本として本件不動産競売手続開始決定をなしたものであるから右債権のうち前記金二九万五九六六円を超過する部分について、民法一条二、三項に基づき競売開始を許さない旨の決定を得たい。」というにある。
二 そこで先ず、右抗告の理由について案ずるに、前文掲記の不動産競売事件記録及び異議申立事件記録に編綴されている不動産登記簿謄本四通(記録五二丁ないし七二丁)及び東京信用保証協会理事管理部長青木久作成の東京都民銀行亀有支店長沖俊宛の念書と題する書面(写)(記録一一〇丁)の各記載によれば、本件不動産競売手続によつて実行された、前文掲記の不動産競売手続開始決定の別紙物件目録記載の不動産(土地三筆、建物一棟)に設定された極度額二〇〇〇万円の根抵当権(その設定登記と同時に共同担保の登記がなされている。)については、昭和五一年八月二四日に元本が確定し、前橋地方法務局伊勢崎支局同年九月一日受付によつてその旨の登記がなされたこと、その後、東京信用保証協会は、債権者東京都民銀行に対し、本件根抵当権によつて担保される債務の一部金一九七〇万四〇三四円を抗告人に代位して弁済したので本件根抵当権は東京信用保証協会に一部移転したこと、それで前橋地方法務局伊勢崎支局同年一〇月一日受付によつて右代位弁済を原因として、東京信用保証協会のための本件根抵当権一部移転の登記がなされたことが認められるのであるが、当裁判所が債権者株式会社東京都民銀行を利害関係人として審尋した結果と右債権者が当審に提出した上申書、金銭貸借契約証書、代位弁済金領収証の右記載とによれば、本件根抵当権の元本確定後において、右債権者は抗告人に対して、本件根抵当権による被担保債権として本件不動産競売手続開始決定の別紙債権目録に記載されている債権のほかに、東京信用保証協会の保証のもとに抗告人に対して昭和五〇年六月二八日に金二〇〇〇万円を貸付けたことによる残元本及び利息債権を有していたものであり、本件根抵当権による被担保債権の額は本件根抵当権の極度額を超えていたこと、而して東京信用保証協会の前記代位弁済にかかる抗告人の債務は、抗告人が東京信用保証協会の保証のもとに債権者東京都民銀行から昭和五〇年六月二八日に借受けた右金二〇〇〇万円の残元本及び利息の返済債務であつて、本件不動産競売手続開始決定の別紙債権目録記載の債権とは別のものであることが認められるので、東京信用保証協会によつて前述のような代位弁済がなされたことによつて本件根抵当権による被担保債権の額が金二九万五九六六円になつたものとは認め得ない。されば、右と反対の前提に立つ抗告の理由は、爾余の判断をまつまでもなく失当であつて採用できない。
なお、本件根抵当権は、その元本が確定した後、東京信用保証協会に一部移転されたことは前述のとおりであり、これによれば、爾後本件根抵当権は、債権者東京都民銀行と東京信用保証協会との準共有になつたものと認められるのであるが、根抵当権の準共有者は、単独でも当該根抵当権の実行申立をすることができるものと解するのが相当であるから、債権者東京都民銀行のなした本件根抵当権実行の申立は、右申立の当時右債権者が本件根抵当権の準共有者の一人にすぎなかつたとしても、そのことのゆえに違法と目されるべきものではない。ほかに、前記各記録を精査するも、原決定を取消さなければならぬような違法な点は見当たらないから抗告人の本件異議申立は理由がない。
三 よつて原決定は相当であつて本件抗告は理由がないので民訴法四一四条、三八四条一項に則つて本件抗告を棄却する
(裁判長裁判官 宮崎富哉 裁判官 高野耕一 石井健吾)