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東京高等裁判所 昭和53年(ラ)17号 決定 1978年9月05日

抗告人

土谷進

右代理人

田中正司

原誠

相手方

鈴木兼吉

右当事者間の土地賃借権譲渡許可申立事件について東京地方裁判所が昭和五二年一二月二八日付をもつてした申立却下の決定に対し、申立人からその取消を求める旨の即時抗告の申立があつたので、当裁判所は次のとおり決定する。

主文

原決定を取消す。

本件を東京地方裁判所に差し戻す。

理由

本件抗告の理由は別紙のとおりである。

よつて検討するに、抗告人が本件譲渡許可の申立に及んだ理由として主張する事実の要旨は、「抗告人が本件建物(原決定添付目録記載の建物)をその敷地に対する賃借権とともに第三者に譲渡しようとするにあたり、土地の賃貸人である相手方は、いつたんは譲渡対価の一割に相当する金員を抗告人が提供することを条件として借地権の譲渡を承諾しておきながら、のちに態度を翻えし、承諾を与えた事実を否定して名義変更料の受領を拒絶している。」というにあること、及び、現に相手方が右譲渡の承諾を与えた事実を強く否定していることは、一件記録上、明らかである。

ところで、右事実からすれば、抗告人において既に借地権譲渡の承諾を得ているとして、その効果を盾に本件建物の譲渡・引渡を強行するときは、相手方が借地権の無断譲渡を主張して、抗告人や譲受人との間に紛争を生ずべきことが当然予測されるので、抗告人は、かかる紛争の生起を可及的に避けるため、借地法九条ノ二に定める譲渡許可の裁判を得ようとして本件申立に及んだものと理解されるところ、賃貸借当事者間の利害を合理的に調整して借地権の譲渡の当否をめぐる紛争の発生を事前に防止しようとする同条の立法趣旨からすれば、借地人においていつたん譲渡の承諾を得たものと信ずる場合においても、承諾の有無につき現に賃貸人との間に争いが存し、協議による解決が得られないため、借地人が前叙のような観点から同条により承諾に代わる許可の裁判を求める途を選んだときは、借地人の申立の利益の存在は当然に肯定されてしかるべきものと考えられる。抗告人は原審において、承諾の与えられた事実、そしてそれを撤回することが許されないことを極力主張しているけれども、抗告人が同条による申立を提起・維持していること自体からみても、抗告人は、既に承諾により実体上の法律関係を変更する効果が生じたことを申立の法律的前提としながら重ねて承諾に代わる許可を求めるという矛盾した挙に出ているのではなく、承諾の不存在を理由とする争いの生ずるのを可及的に避けるために同条による許可の裁判を求めるうえで、自己に有利な事情として、いつたん承諾を与えられた事実のあることを強調しているものであると解するに難くないところであつて、これと異なる受取り方を相当とするような事情は、記録上見あたらない。

してみれば、仮に原審における釈明の過程において抗告人の主張に表現上多少不適切な点があつたしても、裁判所としては、申立の趣旨を前叙のとおり善解し、同条にいう「賃貸人ガ其ノ賃貸権ノ譲渡又ハ転貸ヲ承諾セザルトキ」に該るものと認めたうえで、爾余の点につき審理を進めるべきであつたものというべく、この点において、原決定には、申立人の主張の趣旨を誤解し、ひいて法律の適用を誤つた違法があるものといわなければならない。

よつて、原決定を取り消したうえ、その余の点につき審理・判断をなさしめるため本件を原審に差し戻すこととし、主文のとおり決定する。

(高津環 横山長 三井哲夫)

抗告の理由<省略>

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