東京高等裁判所 昭和53年(ラ)429号 決定 1978年12月06日
抗告人(債務者)
斉藤勉
同
伊藤恵子
右両名代理人
崎信太郎
相手方(債権者)
東京信用組合
右代表者
広瀬元夫
右代理人
小林伴培
相手方(競買人)
有限会社東屋商事
右代表者
上條慶信
右代理人
秋山昭八
同
鈴木利治
主文
原決定を取消す。
本件競落はこれを許さない。
理由
一本件抗告の趣旨は、主文と同旨の裁判を求めるというにあり、抗告理由は、別紙一、二及び三のとおりであり、相手方らのこれに対する応答は、別紙四及び五のとおりである。
二まず、本件土地建物の競売により法定地上権が発生するかどうかについて検討する。
記録によれば、抗告人斉藤勉は、同人所有の本件土地上に昭和五〇年一二月一六日本件建物を新築したこと、同人は、同年七月二八日相手方東京信用組合から右建物の建築資金として五〇〇〇万円を借り受けるに当り、その担保として本件土地に抵当権を設定し、ついで右建物完成後の昭和五一年一月一三日同一債権の担保として本件建物にも抵当権を設定し、それぞれその登記を経たことが認められ、この事実によれば、本件土地について抵当権が設定された当時はいまだ本件建物は存在しなかつたことが明らかであるから、本件土地の抵当権の実行によつては本件建物のため法定地上権が発生するとはいえない。しかし、本件建物の抵当権についていえば、法定地上権発生の要件を具備しているのであるから、右抵当権が実行された場合には、右建物のため法定地上権が発生するといわなければならない。ただし、この場合にも右建物競落人は、右法定地上権をもつて本件土地の抵当権の実行による土地の競落人に対抗しえないものといわなければならない。したがつて、本件土地建物につき同一抵当権の申立てにもとづき個別にこれを競売するとしても、その最低競売価格を定めるにつき法定地上権の価格を考慮しなければならないとすることはできない。よつてこの点に関する抗告人の抗告理由は採用できない。
三そこで、本件土地建物を個別に競売したことの適否について検討する。
記録によれば、本件建物は、昭和五〇年一二月一六日新築された鉄骨造二階建の店舗であり、六人の賃借人が入居して各種の営業をしている。そして、本件建物は、本件土地三筆の全面積を利用して建てられており、本件土地を本件建物の敷地以外に利用することは不可能であつて、両不動産は客観的経済的に観察して有機的に結合された一体をなすものであること、本件土地の第一順位の抵当権者である東京信用組合は、本件建物の所有権保存登記と同時に同一債権について本件建物にも第一順位の抵当権の設定を受けており、その後の抵当権の設定も、すべて本件土地建物を共同担保として行なわれていることが認められる。上記の事実関係からすると、本件土地と建物とを個別に競売した場合、前記有機的関係において有する価額を無視して売却することとなり、売却代金総額の著るしい低下は免れ難いものと認められる。そして、前述したとおり本件建物については法定地上権のないものとして評価し最低競売価額を定めるほかないから、建物は比較的低価額でしか売買されないうえに、先に建物が競落されてしまえば、たとえ建物競落人において土地競落人に対し法定地上権を対抗しえないとしても、現実に土地建物が一体として利用され第三者が建物を賃借して営業している以上、土地のみを競落して建物の収去を実現することは極めて困難であり、勢い土地の競買価額が著るしく低下することとなるのはみやすいところであつて、売却代金総額が一層低下するものといわざるを得ない。そうであれば、他に一括競売を不当とする事由がない限り、本件土地建物はこれを一括して競売すべきであり、これを個別に競売することは、本件土地建物が本来有すべき価額を著るしく下まわる価額での競買を許すこととなつて、公正な競売手続といえず、裁判所の裁量権の範囲を超えるものというべきところ、記録によれば、本件土地建物の一部の売却代金のみをもつて債権を償うには不十分で一括競売が過剰競売となることはなく、各不動産に設定された抵当権、停止条件付賃借権あるいは各不動産の所有者の関係から各不動産ごとに売却代金を確定する必要もない(なおいわゆる抱合せ競売を行なえばこの点の問題は生じない。)のであつて、一括競売をすることの障害もないものといわなければならない。
以上検討したところによると、原審が本件土地建物を一括して競売しなかつたことは違法であり、原決定はこれを取消し、本件競落を許さないこととすべきである。
(渡辺忠之 糟谷忠男 浅生重機)
別紙一〜五<省略>