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東京高等裁判所 昭和53年(ラ)460号 決定 1978年5月30日

抗告人

増尾信之

相手方

那須貞子

相手方

久利馨

主文

原審判中抗告人に関する部分を取り消す。

抗告人を申立人とし相手方らを相手方とする東京家庭裁判所昭和五一年(家イ)第四七二七号調停条項変更調停事件は昭和五二年八月四日審判に移行することなく調停が成立しないものとして事件が終了した。

理由

一記録によると次の事実が認められる。

(1)  抗告人は原審申立人中淑子とともに相手方らに対し昭和五一年八月三一日原裁判所に扶養に関する調停条項変更を求める調停を申し立て、さきに右当事者間における東京家庭裁判所昭和五〇年(家イ)第二七五七号扶養調停事件につき昭和五〇年一二月一七日成立した調停条項のうち「申立人中淑子の東京むさしの園入所中の保証人は昭和五一年一二月末日まで申立人増尾信之が従前どおり引き続き行う。」との条項を「申立人中淑子が東京都養育院分院むさしの園入所中における保証人につき、申立人増尾から他の者に変更する。」旨変更するよう調停を求めた。

(2)  原裁判所は、右調停申立事件につき同庁昭和五一年(家イ)第四七二七号調停条項変更調停事件として受理し、調停委員会において調停が行なわれたが、昭和五二年八月四日の調停期日において、家事審判官は、「調停委員会は当事者間に合意が成立する見込がないと認め調停が成立しないものとして事件を審判に移行させる」旨を宣し、同調停事件は不成立に帰した。原裁判所は同事件を同庁昭和五二年(家)第五九五二号扶養申立事件として審判手続を行ない、昭和五三年三月二九日抗告人の申立てを却下する原審判をなした。

(3)  抗告人は、原審申立人中淑子あるいは相手方らとの間において民法八七七条一、二項に定める親族関係にはなく、かつて昭和一七年ごろから二年間くらい右申立人と同居し内縁関係にあつたことから、同申立人が東京都養育院分院むさしの園に入所中の保証人となつた者であり、これまで及び現在において同園から保証人として保証債務の履行を請求されたことはない。

以上の事実が認められる。

二家事審判法九条によると、家庭裁判所は同条一項に掲げる甲類及び乙類事件並びに同条二項により他の法律において特に家庭裁判所の権限に属させた事項についてのみ審判を行なう権限を有し、扶養に関する処分は右乙類八号に審判事項として掲げられているが、同号のそれは民法八七七条ないし八八〇条の規定による扶養に関する処分をいい、扶養に関する事柄であつても、右の民法の規定によるものでなければ審判の対象とすることができないことは規定の文言上明らかである。そして前記民法の規定する扶養は、直系血族、兄弟姉妹及びある場合にはその他の三親等内の親族という一定の親族関係に基づく法律関係であり、この親族関係にない者の間における法律関係を定めるものではない。扶養につき親族関係に基づかない法律関係を審判事項として特に家庭裁判所の権限に属することを定めた法律は存しない。このような親族関係に基づかない法律関係は民事訴訟事項であり、それは家事審判法一七条の規定によりある場合に一般の家庭裁判所の調停事件として処理されることがあつても、家庭裁判所の審判事件として審判の対象となることはない。家事審判法二六条は、調停が成立しない場合には、調停申立ての時に審判の申立てがあつたものとみなす旨規定しているが、それは同法九条一項乙類に規定する審判事件のみに関するものであつて、右九条一項乙類以外の一般の家庭に関する事件等について家庭裁判所に調停申立てがなされ、その調停が成立しなかつたときは調停事件が終了するに止まり、それが審判事件に移行する理はない。このような場合には当事者が一般の民事訴訟の方法によるかどうかであつて、家庭裁判所が審判の申立てがあつたものとみなして審判を開始することは許されない。原審が、抗告人の原審申立人中淑子に対する養育院の入所保証人の変更を求める調停申立ての不成立によつて審判の申立てがあつたものとして扱い、審判において契約当事者を変更するのが妥当でないと判断し、抗告人の本件申立てを却下する旨の審判をしたのは、移行すべからざる事件を違法に審判事件に移行させたことによるもので、結局審判申立てがないのに審判をした違法な審判といわなければならない。したがつて、原審判中抗告人に関する部分は違法な審判手続に基づくものであり、これが取消しを免がれない。

よつて、原審判中抗告人に関する部分を取り消し、抗告人と相手方らとの間の前示調停事件は審判に移行することなく調停が成立しないものとして事件が終了したことを明らかにして、主文のように決定する。

(西村宏一 舘忠彦 高林克己)

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