大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和53年(ワ)11288号 判決

争いのない本件考案の実用新案登録請求の範囲の記載及び成立に争いのない甲第一号証の二(本件実用新案公報。別添実用新案公報と同じ。)によると、本件考案は打撃練習用ボール自動回収及び供給装置に係る考案であつて、次の構成からなるものと認められる。

(1) 玉止め用掩堤のボール溜上にボールを掬い上げる一対宛のラチスを取付けた扛上コンベアを設けること

(2) 扛上コンベアの延長端に一方へ傾斜させた搬送コンベアを配設すること

(3) 搬送コンベアと所要数の落し口を有するガイド板とを断面ほぼV字形に平行させること

(4) 搬送コンベアの延長端と前記ボール溜との間に玉戻しシユート及び前記各落し口に打撃練習機毎の玉受シユートを接続させること

1 本件考案の構成要件と右当事者間に争いのない被告製品の構造を対比すると、構成要件(4)について、本件考案が搬送コンベアの延長端とボール溜との間に玉戻しシユートを接続させることとしているのに対し、被告製品には玉戻しシユートはなく、搬送コンベア11の延長端には、玉止め用掩堤Aの斜面を介してボール溜B(被告第一製品)又は第1ボール溜B(被告第二製品)上にボールを導くための玉戻し口19が設けられている点において差異があることが認められる(この点は、当事者間に争いがない。)

2 原告は、右の点の差異は本件考案の単なる設計変更にすぎないと主張するので、右主張について判断する。

(一) 成立に争いのない乙第一号証の四ないし七によると、次の技術的事項は本件考案の登録出願前既に公知となつていたことが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

(1) 打撃練習機により投球され、打撃練習者によつて打出されたボールを、打撃練習場に設けた傾斜した床面を利用してボール回収溝に回収し、同所に設けた供給装置を利用してボールを自動的に打撃練習機毎の導入樋に戻す、という構造の装置

(2) 右装置において、ボールを打撃練習機に供給するための所要数の嵌合樋を有するボール供給樋を設け、右各嵌合樋に打撃練習機毎の導入樋を接続すること及び右ボール供給樋にあるボールを押えるようにして転動させるためのベルトコンベアを設けること並びに余つたボールを右ボール供給樋の終端から落下させるための放出端を設けること

(3) バツテイング機の集配給装置において、配球シユート口を穿設したボール通路板の末端からボール吸込みシユートにボールを供給するための集球コンベアにオーバーフロー管を斜設すること

(4) バツテイング練習用投球装置(ピツチングマシン)において、回収したボールを右装置の上部に設けたボール送給樋ないしボールボツクスに供給するために、ボールを掬い上げる玉受バスケツトや掻上爪を装着(突設)した無端ベルトを用いること

(二) 右事実と前記二で認定した本件考案の構成要件とを照らし合わせると、本件考案において、ボールを打撃練習機毎の玉受シユートに搬送、供給する手段として、一方へ傾斜させた搬送コンベアと所要数の落し口を有するガイド板とを用い、その断面形状をほぼV字形に平行させるとした点(構成要件(2)、(3))と搬送コンベアの延長端とボール溜との間に玉戻しシユートを接続させるとした点(同(4))に、従来の公知技術に対する本件考案の特徴があると認められ、これを覆えすに足る証拠はない。

(三) そして、前記三1の差異についていえば、本件考案は、構成要件(4)の構成を備えたことにより、各玉受シユートに補充する必要のないボールを玉戻しシユートを利用して、直接ボール溜に還元することができるものであるのに対し、被告装置は、各玉受シユートに補充する必要のないボールを玉戻し口から落下させ、打出されたボールを回収するために設けられた玉止め用掩堤の斜面を利用してボール溜に還元するものと認められるのであつて、このようなボール回収の手段が異なることにより、両者間にはボール回収の確実性及び迅速性において少なからぬ差異があることはおのずから明らかであるといわなければならない。

(四) 右のとおり、従来の公知技術に対する本件考案の特徴の一つが、搬送コンベアの延長端とボール溜との間に玉戻しシユートを接続させるという構成をとつた点にあり、しかも、右玉戻しシユートを設けた場合と被告装置のように玉戻しシユートを設けず単に玉戻し口を設けた場合とでは、その作用効果において少なからぬ差異があることが明らかである以上、この構成の差異を単なる設計変更であるということはできず、原告の主張は採用できない。結局、被告装置は、本件考案の構成要件(4)を充足せず、その技術的範囲に属さない。

よつて、被告製品が本件考案の技術的範囲に属することを前提とする原告の本訴請求はその余の点について判断するまでもなく理由がないからこれを棄却することとする。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!