東京高等裁判所 昭和53年(行ケ)109号 判決
事実及び理由
審決の取消事由の有無について、検討する。
1 相違点の<1>について
(一) まず第一引用例のものにおける支枠(7)についてみるに、審決は、その形状を単に箱状とのみ認定しているが、成立に争いのない甲第五号証、とりわけその第一図によると、右支枠(7)は、上下方向の長さが横方向のそれに比較してかなり短い扁平な箱状を呈していることが認められる。そして、同号証によれば、この支枠(7)の内部である室(7a)内に備えられるものは、シヤツター板(9)、スプリング(10)、(10)′、進退枠(12)その他若干のものであることからすると、この点に関する原告の主張を考慮しても、右のような扁平状の箱形の支枠の寸法を薄手で小形にし、いわば板状のものに構成することは、当業者が必要に応じて極めて容易にしうることであるというのが相当である。また、前掲甲第五号証によると、第一引用例のものは、シヤツター及び消火作動機構の両者が箱状の支枠の同一面側に配置されていることが認められるが、これを本件補正後の考案におけると同様、シヤツターを、消火作動機構の一部であるシヤツター開閉機構と反対面側に配置することは、同一面側に配置した場合に比べて、シヤツターとその開閉機構との連動機構が若干複雑になるであろうが、設計上特段困難であるとは考えられず、当業者が必要に応じて極めて容易にしうることである。
他方、本件補正後の考案における相違点の<1>に関する構成についてみるに、消火装置全体の大きさは、これを構成する消火作動機構全体の構造ないしその大きさに影響されるところが大であり、単にシヤツターと消火作動機構の配置の仕方のみによつては、これを薄手で小形にすることはできないものであるところ、本件補正後の考案は、当事者間に争いのない考案の要旨及び成立に争いのない甲第二号証の一、二に照らし、消火作動機構について、これを薄手で小形にしたものであることを構成要件として規定しているものではない。そうすると、本件補正後の考案と第一引用例のものとを対比した場合において、相違点の<1>に関連してこのような点で実質的に差異があるとすることはできず、原告がこの点について主張する作用効果についても、これを本件補正後の考案に特有なものであるということはできない。
(二) 原告は、相違点の<1>に関する本件補正後の考案の基台を扁平板とし、その一方の面部にシヤツターを、他方の面部に消火作動機構を配置した構成は、他の構成要件である「シヤツターが単体である点」などとの関連においても考究すべきものであると主張する。しかし、まず、シヤツターを単体とした点についてみるに、前掲甲第二号証の一、二によると、本件補正後の考案では、シヤツター開閉機構については、実用新案登録請求の範囲において、単に「シヤツター開閉機構」と規定しているにすぎず、具体的な構成については何ら規定していないので、二枚シヤツターについても単体シヤツターについても、その開閉機構という点においては差異はなく、また、明細書の他の記載を検討しても、前記の構成が、単体シヤツターであることと必然的に関連するような特段の事情は窺えない。また、「シヤツターが基台の他端部側から火皿部に対して進退するように構成された」点は、シヤツターを単体にしたことによつてされる当然の設計であるから、相違点の<1>に関する前記の構成と格別関連するものではない。更に、「基台と燃焼器本体とを別体にした」点は、消火装置をユニツト化するためのものであるところ、相違点<1>に関する前記の構成が、消火装置をユニツト化する上に格別有利なものであるとは考えられない。したがつて、審決が相違点の<1>について判断するに当り右のような各構成要件との関連性について特に論及しなかつたとしても、そのことが不当であるとはいえない。
(三) そうすると、相違点の<1>についてした審決の判断に誤りはない。
2 相違点の<2>について
(一) 原告は、審決が単体シヤツターが周知であるとして例示する第一参照例及び第二参照例のものは、手動のみでする消火装置であつて、例示として不適切である旨主張する。しかし、本件補正後の考案の要旨及び前掲甲第二号証の一、二によると、本件補正後の考案が地震又は転倒などの事故に際して自動的にシヤツターの作動する形式の消火装置に限定されるものではなく、手動により操作する消火装置をも包含するものであることが認められる。したがつて、審決が単体シヤツターの周知例として右各参照を挙げたことが失当であるとはいえない。
(二) 次に、原告は、本件補正後の考案が、基台の一端部の側にはシヤツターが存在せず、また、シヤツター配置側の基台は、既存の各種燃焼器において存在する余分の空間をそのまま有効に利用し収納できる旨主張する。しかし、シヤツターを単体のものとした場合には、その開閉は、基台の一端から他端への移動によつて行われるのが通常考えられる最も普通の態様と解されるから、燃焼器の一端部には火皿が、他端部にはシヤツターが常時(シヤツターが作動しない場合。以下同じ)存在するように構成することは、設計上当然の帰結というべきであり、したがつて、単体シヤツターを採用する以上は、シヤツターのない側にカートリツジタンクを備えるようにした燃焼器とすることは、単体シヤツターの構成上極めて容易に想到できるところである。
また、原告は、単体シヤツター方式の場合、二枚シヤツター方式のものに比べて、常時シヤツターが火皿部より遠く離れて位置するため、熱の影響が少ないことから、動作の正確性を保持し、シヤツターの材質も限定されないなどの効果がある旨主張する。しかし、シヤツターと火皿部との位置関係についてみるに、単体シヤツター方式の場合、二枚シヤツター方式のものに比べ、シヤツターが大形となる関係上、シヤツターの火皿とは反対側部分(火皿から遠い部分)は、なるほど二枚シヤツターの場合に比較して、常時は、より離れた位置にあるのが普通であるから、この部分に限つていえば、火皿部からの熱の影響が比較的少ないということができようが、火皿部に近い側の部分では、二枚シヤツターの場合と格別差異があるとは考えられない。
(三) 前掲甲第二号証の一、二を検討しても、本件補正後の考案におけるシヤツターを単体とした構成が、消火装置をユニツト化した点と不可分的に関連するものであると解すべき事情は窺えない。そして、前1の(二)に述べたところに徴し、審決がシヤツターを単体とした構成を第一引用例のものと比較判断するに当り、他の構成要件との関連性について、特に論及しなかつたとしても、そのことが不当であるとはいえないことは明らかである。
(四) そうすると、相違点の<2>についてした審決の判断にも誤りがない。
3 相違点の<3>について
(一) まず本件補正後の考案の構成要件である「組込み配設し」における「組込む」の意味についてみるに、右の語は、日常「組んで中に入れる」ことであると解されるとしても、機械的装置や器具の場合には、その特定の構成要素を装置や器具の中に取付けたり、備えたりすることを、一般に「組込む」と称しており、その場合に、「組込む」とは、常に極めて接近して組入れることのみに限定して解すべきものとはいえない。前掲甲第二号証の一、二によると、本件補正後の考案における実施例として示された図面における消火作動機構も、基台の下面に特に極めて接近させて組入れられているものとは認められず、明細書の他の記載を検討しても、これを右のように限定して解しなければならない事情は窺えない。なお、本件補正後の考案の他の構成要件である「ユニツト化」の点を考慮しても、ユニツト化することが、必ずしも薄手にしたり小型にすることを意味しないから、この点も、右について限定して解すべき根拠とはなりえない。
次に、組込みの対象についてみるに、前掲甲第二号証の一、二特に甲第二号証の二中の補正事項(14)の記載及び本件補正後の考案の要旨によると、その消火作動機構には、燃焼筒の持ち上げ機構及びシヤツターの開閉機構が含まれるとみるべきであり、このことからすると、右要旨における「それぞれ」とは、単体シヤツターと消火作動機構の双方を指すものと解するのが相当である。また、「組込む」の意味を前記のとおり解すべきであることからすれば、それは、「取付ける」「備える」の意味と実質的に差異はないから、右要旨中の「単体シヤツターを設ける」ことは組込むことにほかならないのであり、このことからも、組込む対象を単体シヤツターを含めて解するに支障はない。
本件補正後の考案における「ユニツト」の意味は、原告の主張するように解するのが相当である。
(二) 右に述べた点をふまえて、審決が相違点の<3>についてした判断を検討する。
成立に争いのない甲第八号証によると、第二引用例に示された消火装置の構造は、消火板(9)、(10)を連結する蝶番(11)につき一部不明のところがあるが、安全装置が燃焼筒及び燃焼筒受け台とは一応別体となつているものと認められる。しかし、同号証を検討しても、第二引用例のものにおける安全装置が燃焼器本体とは別体のものとして着脱が可能であるように構成されているか否かは不明である。そうすると、審決が消火装置をユニツト化した周知例として第二引用例を例示したのは適切であるとはいえない。
ところで、成立に争いのない甲第九号証によると、第三参照例は、名称を「石油ストーブ等の消火装置」とする実用新案公報であるところ、その考案の詳細な説明中には、その実施例について、「上記実施例は、従来の石油ストーブ等に消火装置を付属せしめる考案である」旨の記載があり、この記載をはじめ、実施例である第二図、第四図とこれに関する具体的説明部分をみると、第三参照例のものは、その消火装置が燃焼部とは別体に構成されており、燃焼器本体に取付けて用いるものであることが認められる。したがつて、第三参照例のものは、審決でいうところの消火作動機構を基台(なお、第三参照例のものにおける本体1は、本件補正後の考案における基台と多少異なるけれども、広い意味で基台とみることができる。)に組込んで消火装置をユニツト化したものということができる。
原告は、第三参照例のものは、本件補正後の考案と原理を異にする消火剤噴出方式の消火装置であり、その全体の構造が著しく異なるから、これをもつて、本件補正後の考案が当業者の極めて容易に推考しうるものではない旨主張する。なるほど、前掲甲第九号証によると、第三参照例のものは、原告が主張するとおり、消火剤噴出方式の消火装置であり、シヤツター移動式の消火装置である本件補正後の考案とは、具体的構造においてかなり顕著に相違する。しかし、いわゆる石油ストーブ等の液体燃料燃焼器に関するものである点において、両者は同一であり、これにより燃焼器における消火装置をユニツト化することが周知であるとしうる以上、これを、右同様の燃焼器のうち、従来周知のシヤツター移動式消火装置についても適用しようとすることは、当業者が必要に応じ極めて容易に想到しうることというべきである。その場合に、基台の一方の面部にシヤツターを、他方の面部に消火作動機構を配置することは、既に前記1において述べたとおり、単に設計変更の域を出ないものであり、他に、シヤツター移動式消火装置について、これをユニツト化することが特に困難であることを窺うに足りる資料はない。
原告は、ユニツト化による本件補正後の考案の格別の効果を主張するが、そのうち、消火装置全体の構造を薄手で小形にでき、ひいて、コストが低減できるとの点は、前述のとおり、ユニツト化することが直ちに薄手ないし小形になることを意味するものではなく、本件補正後の考案がこれを構成要件として規定していないのであるから、右の点を本件補正後の考案による効果ということはできず、また、取付け、点検、修理が容易であるとの点は、ユニツト化による当然の効果であつて、本件補正後の考案に特有のものではない。
(三) そうすると、相違点の<3>についてした審決の判断にも誤りはない。
4 なお、本件補正前の考案に対してした審決の判断については、原告がこれを争わないところであるが、右判断について付言する。
審決が本件補正前の考案について、これを第二引用例のものと同一の考案であると判断していることは前記のとおりである。しかして、第二引用例のものにおける安全装置が燃焼器本体とは別体のものとして着脱が可能であるように構成されているか否かは不明であることは前認定のとおりである。したがつて、第二引用例のものが、本件補正前の考案と同様消火装置がユニツト化しているものと断定することはできず、審決がこの点をも含めて両者を同一の考案であるとしたのは、当を得ないというべきである。しかし、既に検討したとおり、シヤツター移動式消火装置をユニツト化した点には考案性を認めることができないところ、前掲甲第二号証の一、第八号証及び弁論の全趣旨によると、その他の構成においては本件補正前の考案と第二引用例のものとは同一であることが認められる。
そうすると審決の本件補正前の考案についてした判断も、結局相当であるというべきである。
よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却する。
〔編註〕本願考案の要旨および審決理由の要点は左のとおりである。
1 本件補正後の考案の要旨
燃焼筒を着脱自在に載置する火皿部を有する液体燃料燃焼器本体に取付ける消火装置において、上記燃焼筒と火皿部との間に一端部を介在して火皿部との対応部に窓孔を開口した扁平板状の基台を有し、この基台の一方の面部には他端部側から上記火皿部に対し、進退して火皿部を開閉する板状の単体シヤツターを設けるとともに、他方の面部には上記燃焼筒の持上げ機構及びシヤツターの開閉機構を有する消火作動機構をそれぞれ組込み配設し、上記燃焼器本体とは別体に上記基台をユニツト化した液体燃料燃焼器の消火装置。
2 本件補正前の考案の要旨
液体燃料燃焼器に取付けられる基台の一方面部に火皿部に対し進退して火皿部を開閉するシヤツターを設けるとともに、基台の他方面部に上記シヤツターを開閉操作する機構などの消火作動機構を組込んでユニツト化したことを特徴とする液体燃料燃焼器の消火装置。
審決の理由の要点
1 本件補正後の考案について
(一) 本件補正後の実用新案登録請求の範囲は、前項1に記載のとおりである。
(二) ところで、実用新案出願公告昭四〇―二一四九五号実用新案公報(昭和四〇年七月二四日出願公告、以下「第一引用例」という。)には、「燃焼筒を着脱自在に載置する皿状部を有する液体燃料燃焼器の消火装置において、上記燃焼筒と皿状部との間に介在して皿状部との対応部に窓部を開口した箱状の支枠を有し、この支枠の上内面に両端部側から上記皿状部に対して進退して皿状部を開閉する板状の二枚のシヤツターを設けるとともに、その内部及び周辺に上記燃焼筒の持上げ機構及びシヤツターの開閉機構を有する消火作動機構を設けた液体燃料燃焼器の消火装置」が記載されている。
(三) 本件補正後の考案と第一引用例のものとを比較すると、両者は、燃焼筒を着脱自在に載置する火皿部(第一引用例のもの)においては皿状部。以下、括弧内の記載は第一引用例のものを示す。)を有する液体燃料燃焼器の消火装置において、上記燃焼筒と火皿部(皿状部)との間に介在して火皿部(皿状部)との対応部に窓孔を開口した基台(支枠)を有し、この基台(支枠)に上記火皿部(皿状部)に対し進退して火皿部(皿状部)を開閉する板状のシヤツターを設けるとともに、上記燃焼筒の持上げ機構及びシヤツターの開閉機構を有する消火作動機構を設けた液体燃料燃焼器の消火装置である点で一致しているが、次の点で、一応相違している。
(1) 相違点の<1>
本件補正後の考案は、基台を扁平板状とし、その一方の面部にシヤツターを、他方の面部に消火作動機構を配置しているが、第一引用例のものは、支枠を箱状とし、その上面部にシヤツターを、その内部及び周辺に消火作動機構を配置している。
(2) 相違点の<2>
本件補正後の考案のシヤツターは、単体シヤツターであるが、第一引用例のもののそれは二枚シヤツターである。
(3) 相違点の<3>
本件補正後の考案は、消火作動機構をも基台に組込んで消火装置をユニツト化しているが、第一引用例のものは、そのようになつていない。
(四) 右の相違点について検討するに、相違点の<1>については、本件補正後の考案の構成が、第一引用例のものに比べて、消火装置としての全体機構を薄手ないし小型にするうえで特に有利であるとは認められず、この点の相違点は、単なる設計変更の域を出ない。相違点の<2>については、シヤツターを単体とすることは、本願考案の実用新案登録出願前周知(例えば、実用新案出願公告昭二九―九六六九号実用新案公報(昭和二九年八月一一日出願公告、以下「第一参照例」という。)、実用新案出願公告昭四〇―二四六〇三号実用新案公報(昭和四〇年八月二〇日出願公告、以下「第二参照例」という。)参照)であり、シヤツターを単体とするか二枚とするかは、単なる設計事項にすぎない。相違点の<3>については、消火作動機構をも基台等に組込んで消火装置をユニツト化することは、従来周知(例えば、後記第二引用例、実用新案出願公告昭四一―二七〇六号実用新案公報(昭和四一年二月一八日出願公告、以下「第三参照例」という。)参照)であり、消火装置をユニツト化することは、当業者が必要に応じて極めて容易に想到しうる程度のことである。そして、本件補正後の考案の効果をみても、第一引用例のもの及び前記周知技術が個々に有する効果以上のものは認められない。
(五) したがつて、本件補正後の考案は、第一引用例のもの及び前記周知技術に基づいて極めて容易に考案をすることができたものと認められるから、実用新案登録請求の範囲に記載された事項によつて構成される考案が、出願の際独立して実用新案登録を受けることができないものである。よつて、本件補正は却下すべきものである。
2 本件補正前の考案について
(一) 本件補正前の考案の要旨は、前項2に記載のとおりである。
(二) これに対し、特許出願公告昭三七―一四六八五号特許公報(昭和三七年九月二一日出願公告、以下「第二引用例」という。)には、「液体燃料燃焼装置に取付けられる支持装置の上側部に燃焼筒受台に対し進退して燃焼筒受台を開閉する消火板を設けるとともに、支持装置の下側部に上記消火板を開閉操作する機構からなる消火作動機構を組込んでユニツト化した液体燃料燃焼装置の安全装置。」が記載されている。
(三) 本件補正前の考案と第二引用例のものとを比較すると本願考案の液体燃焼器、基台、一方面部、火皿部、シヤツター、他方面部及び消火装置は、第二引用例の液体燃料燃焼装置、支持装置、上側部、燃焼筒受台、消火板、下側部及び安全装置にそれぞれ相当し、本願考案の「シヤツターを開閉操作する機構などの消火作動機構」は、消火作動機構を構成するすべての機構を意味するものと解されるので、そのようになつている第二引用例のものとの間にこの点で差異はなく、結局、本願考案は、第二引用例に記載されたものと同一であると認めるから、実用新案法第三条第一項第三号の規定に該当し、実用新案登録を受けることができない。