大判例

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東京高等裁判所 昭和53年(行ケ)122号 判決

事実及び理由

審決取消事由の有無について検討する。

まず、原告は、審決には引用例の認定の誤り等に基づき引用例と本願考案との対比判断を誤つた違法があるとし、第一、第二引用例のI字型構成物についての記載はキルン・フアーニチヤーであるというだけで具体的にどのような必要があつてどのように使用するのか明らかでないから、この程度の記載から本願考案に至るのがきわめて容易だとはいえず、また、このI字型構成物は当業者からみればガーダーであつて匣鉢ではないから、この点からいつても、第一、第二引用例の記載から本願考案がきわめて容易に到達できたものとすることはできない旨主張する。

いずれもその成立に争いのない甲第三号証(第一引用例)及び甲第四号証(第二引用例)によれば、第一、第二引用例には、共にI字型構成物を含む数種ないし一〇数種の商品の写真が掲載されており、それぞれこれに対する広告説明文が記載されていることが認められ、とくに、右甲第三号証によれば、第一引用例には二五、六種類の商品が写されており、その中にI字型構成物が写つていること及びその写真の説明文として「きわめて複雑なデザイン、組成、焼成及び品質管理が電子セラミツク工業用キルン・フアニチヤーの製造に実現。これらの全てと共に、ニユー・キヤツスル・リフラクトリーズ社は、スラブ(slab)、桁(Girder)、匣鉢(Sagger)及び特別の棚板(Setter)を製造するためのノウ・ハウを備えた人員を有する。」という記載があることが認められる。

この事実に、いずれもその成立に争いのない甲第三〇号証(アメリカン、セラミツク、ソサイエテイ、ブリテイン、一九五九年、第三八巻第二号第四八ないし第五三頁)、甲第三一号証の(ニ)及び同号証の(ホ)の各記載を合わせ考えれば、第一、第二引用例の写真に示されている商品群はキルンフアニチヤーであり、キルンフアニチヤーには、スラブ(slab)、ガーダー(Girder)、匣鉢(Sagger)及び棚板(Setter)が含まれていることが認められる。

また、成立に争いのない甲第二〇号証(セラミツク、エイジ一九六三年四月号第二頁)によれば、同号証は、第一、第二引用例の出版(一九六五年八月及び一九六三年一〇月)前の出版にかかり、それにはエレクトロ・ガーダーと題する広告があり、その中に第一、第二引用例の写真中のI字型構成物と同様のI字型構成物のイラストとその説明文が記載されていること、さらに、成立に争いのない甲第二八号証(アメリカン、セラミツク、ソサイエテイ、ブリテイン、一九五二年、第三一巻第二二〇ないし第二二一頁)及び前記甲第三〇号証(同誌、一九五九年、第三八巻第二号第四八ないし第五五頁)によれば、右各号証はいずれも第一、第二引用例の出版前に出版されており、これらにもI字型ガーダーについての記載があることが、それぞれ認められる。

以上の事実によれば、第一、第二引用例におけるキルン・フアニチヤーとしてのI字型構成物については、特別の説明のないかぎり、当業者はこれをガーダーと理解すると認めるのが相当であり、この認定を左右するに足る証拠はない。

そうすると、ガーダーは、台車の上にあつて巨匣を何段にも積み重ねたものの下に位置するような態様でも使用される支持体である(このことは、いずれもその成立に争いのない甲第二一号証及び甲第二五号証により明らかである。)から、匣鉢とはその作用・機能において基本的に相違することは明らかであり、焼成中の変形に対する配慮がされるのも、ガーダーの場合は当然I字型の頂部面についてであり、匣鉢の場合は受け皿面に関してであることは技術的必然といえるから、従来の匣鉢の受け皿の欠点を改良する目的(これは、後に認定するとおり、本願考案の目的とするところである。)で、その面に格別の配慮が払われていないガーダーであるI字型構成物の側面を利用しようとする動機は、ほとんど考えられないものといわざるをえない。

被告補助参加人は、桁(ガーダー)や平板等のキルン・フアニチヤーは必要に応じてこれを匣鉢の代用品として使用するのが窯業界の実情であるとし、立証として丙第一〇号証を提出し、右実情の下では、キルン・フアニチヤーとしてのI字型構成物が開示されていれば本願考案はきわめて容易に考案できる旨主張する。

しかし、成立に争いのない丙第一〇号証によれば、被告補助参加人が右主張の根拠としている同号証は、岐阜県土岐郡笠原町向島所在株式会社中央タイル窯業の専務取締役水野松郎の記名押印のある書面で、そこには、「新製品の焼成に適する匣鉢がないとき、桁や平板等の用具を被焼成物の受台として臨時的あるいは応急的に匣鉢のような状態で使用する例が多くあり、このような使用例は、同社のみならず、窯業界全体において現場では普通に行なわれている」旨記載されていることが認められるところ、右記載は、あくまで、新製品の焼成に適した匣鉢がないときに、臨時的あるいは応急的に、使用するものであることを述べているのであるから、焼成のために必ずしも適当とはいえないものを、匣鉢としての機能を十分に果しえない虞があることを覚悟のうえで臨時的に使用する場合があることを示しているにすぎず、キルン・フアニチヤーである桁や平板等が匣鉢の機能を完全に果す代用物として恒常的に使用されるとしているものではないから、同号証によつて、被告補助参加人の前記主張の根拠とするに足る窯業界の実情を認めることはできず、他にもこれを認めるに足る証拠はないから、右主張は採用できない。

そればかりでなく、そもそも、ガーダーと匣鉢は、共にキルン・フアニチヤーではあるが、それぞれの使用目的によつてガーダーは匣鉢よりも強度が非常に高くされていること、換言すれば、重量、肉厚、側壁の高さはいずれも ガーダーの方が匣鉢より相当大きいものであることは、弁論の全趣旨により明らかなところであり、したがつて、匣鉢のかわりに臨時的にガーダーを転用する場合には、窯への投入個数は匣鉢を使用する場合に比べて減少し、全体としての熱効率は低下するが、ガーダー本来の強度が匣鉢より相当高いものであるから受け皿にあたる部分の垂下は匣鉢を使用した場合よりも当然少なくなり、垂下による技術的問題は自然に解消された状態に近くなるものとみられるところ、ガーダーを匣鉢の代用物として使用したことによる右のような状態から、次に認定するように底板の垂下による反りという欠陥をも含む技術的課題を解決した本願考案の構成に想到することは、著しく困難であるとみるのが相当である。

そして、成立に争いのない甲第二号証(本件実用新案公報)によれば、本願考案は、前記要旨のとおりの構成をとることにより、従来の匣鉢に比べて焼成時間の短縮と熱効率の向上を達成し、匣詰め作業の自動化を容易にするとともに、底板の反りが大きくなつた場合には匣鉢を引つくり返し上下を逆にして使用することにより底板の反りの欠陥を回避することができる等の優れた効果を発揮するものであることが認められる。

以上のとおりで、第一、第二引用例におけるI字型構成物は、当業者にはガーダーとみられるものであり、右I字型構成物がガーダーであれば、これから、本願考案にかかる匣鉢の構成に想到することは、きわめて容易ということはできないから、第一、第二引用例のI字型構成物から本願考案がきわめて容易に考案することができたとした審決の判断は誤りであり、その誤りが審決の結論に影響を及ぼすべきことは明らかであるから、審決は、その他の点について判断するまでもなく、違法としてこれを取り消すべきものである。

よつて、審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を正当として認容する。

〔編註〕本願考案の要旨および審決理由の要点は左のとおりである。

(二) 本願考案の要旨

「底板の両側に同形断面の側壁を並設し断面H型状に形成して両側端を開放した焼成用匣鉢」(別紙図面(一)参照)

(三) 審決理由の要点

本願考案の要旨は、前項記載のところにあるものと認める。

これに対し、刊行物「セラミツク、インダストリー」(Ceramic industry)一九六五年(昭和四〇年)八月号(Vol. 85, № 2)裏表紙(以下「第一引用例」という。別紙写真(一)参照。)及び刊行物「セラミツク・エイジ」(Ceramic Age)一九六三年(昭和三八年)一〇月号(Vol. 79, No. 10)第二ページ(以下「第二引用例」という。別紙写真(二)(〔編註〕省略)参照。)には、それぞれ耐火物製の釜用具(Kiln Furniture)の広告写真が掲載されており、各種形状の構成物が示され、この中には平板、実用新案出願公告昭三三―三五六七号公報(以下「第三引用例」という。)及び実用新案出願公告昭三四―一一五六三号公報(以下「第四引用例」という。)にそれぞれ示されたものに類似する匣鉢並びに板の両側に同形断面と認められる側壁を並設し断面H型状に形成して側壁のない両側端を開放した構成物がI字型に示されている。

そこで、本願考案と第一、第二引用例記載の事項を対比すると、本願考案の匣鉢の構造と、第一、第二引用例に示された耐火物製のI字型に示された構成物の構造とはその構造上特別に相違するところは認められないが、第一、第二引用例の該構成物が匣鉢であるか否かについての具体的な記載はみられない。

しかしながら、第一、第二引用例の広告写真に示されたものの中に、第三、第四引用例と同様の匣鉢が入つているところから、第一、第二引用例に示されたものが陶磁器焼成に使用する器具に関するものであることはその説明をみるまでもなく明白である。そしてその匣鉢の配置は第三、第四引用例に図示されたところとは異なつた形になされているものもあるところからみて、第一、第二引用例に示されたI字型図示のものを横置きして、本願考案のように中間の板面を陶磁器焼成用の受け面として用いることは、当業技術者が何らの考案力を要することなくきわめて容易に想到することができたものと認められる。

したがつて本願考案は、叙上したとおりその出願前に頒布されたことが明らかな第一、第二引用例各刊行物に記載された事項に基づいて当業技術者がきわめて容易に考案することができたものと認められるから、実用新案法第三条第二項の規定により実用新案登録をうけることができない。

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