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東京高等裁判所 昭和53年(行ケ)143号 判決

原告主張の審決取消事由の存否について判断する。

成立に争いのない甲第三号証(本願考案の補正明細書)によれば、本願考案は、内燃機関における熱効率の向上を計る場合、その大きな障害となるノツキング現象の低減を目的とするものであり、従来ノツキング現象の対策にはガソリンに四エチル鉛を添加し、そのオクタン価を向上させるという方法が主に採られてきたが、本願考案は、燃料に対する化学的措置によらず、機関側の構造的な改善によりこの問題を解決しようとするものであることが認められる。

(原告主張の審決取消事由1について)

成立に争いのない甲第四号証によれば、引用例の第2図及び第4図のものは、シリンダヘツドにおいて燃焼室に固定したスリツト状狭縮部によつて連絡する有底小体積空間を具え、上記有底小体積空間端部に点火栓を設けたガソリン機関であり、上記有底小体積空間を囲む部材はシリンダヘツドの隅角部より外側に一体的に突出する構造に形成されていることは明らかであり、また、上記の固定したスリツト状狭縮部を挟む両面の凹凸の組合せ及び位置は任意に変えうるとされている。

右によれば、引用例の第2図及び第4図のものは、固定したスリツト状狭縮部を挟む両面の凹凸の組合せ及び位置によつて、燃焼室を主たる燃焼室と従たる燃焼室とに形成し、その従たる燃焼室の端部に点火栓を設置したものとみることができる。そして、その作用及び効果としては、前掲甲第四号証によれば、「燃焼室において燃焼波が進行する通路にスリツト状狭縮部をおいてそれを強制通過させれば、燃焼波の進行速度はそれを通過してから急増し、全燃焼時間を短かくする。すなわちガソリン機関において燃焼波前面に残存するいわゆる未燃ガスが自己点火してノツキングを起す前に燃焼波面が到達し全可燃混合物を燃焼させればノツキングは起らない。」とされ、さらに、「燃焼室2の一端にある点火栓3から矢印方向に進行する燃焼波面を……燃焼室に固定させたスリツト状狭縮部10を強制通過させれば、進行する燃焼波自身がその直前位置に燃焼速度を増大するに有効な微細な乱れを生成するために、燃焼室2内の未燃残存ガスの燃焼速度は増大してノツキングは起り難くなり、低オクタンガソリンにても機関の性能を高くすることができる。」とされている。

ところで、前掲甲第三号証によれば、本願考案は、燃焼室の上位角部よりその外側に突設した筒状体に点火プラグを連設し、該点火プラグの電極を筒状体内に形成され燃焼室に開口する噴出用空洞に配置する構成を有するものであり、噴出用空洞において点火された混合ガスの火炎は細成状態の噴出用空洞より燃焼室の所定方向に噴出され、当該ガスに乱れを起させながら急激な勢いで同室のすみずみまで伝播されるものであつて、点火プラグの放電によつて着火した噴出用空洞内の圧縮混合ガスの火炎面は該空洞内から燃焼室の開口部方向に進行して前記開口部を強制的に通過し、燃焼室内に噴出することにより燃焼速度が増大してエンジンのノツキング防止効果を奏するものと認められる。

そうであれば、両者の構成、作用及び効果からみて、本願考案の噴出用空洞は引用例(第2図及び第4図のもの)の従たる燃焼室に、本願考案の噴出用空洞の開口部は右引用例のスリツト状狭縮部に、本願考案の燃焼室は右引用例の主たる燃焼室に、それぞれ対応するものとみることができる。

原告は、引用例には噴出用空洞はなく、審決が噴出用空洞と認めている部分も燃焼室であると主張するが、たしかに、引用例(第2図及び第4図のもの)において、固定したスリツト状狭縮部によつて画された有底小体積空間も燃焼室の一部と記載されているが、その名称はともあれ、右に検討したとおり、その構成、作用及び効果に照らし、引用例(第2図及び第4図のもの)の前記従たる燃焼室は本願考案の噴出用空洞に対応するものとみることができる以上、原告の前記主張は採用することができない。

したがつて、引用例は点火プラグの電極を噴出用空洞に配置したものではないとの原告の主張も採用できない。

また、原告は、引用例は突出体を突設したものではないとも主張するが、既に認定したように、引用例の第2図及び第4図のものは、有底小体積空間を囲む部材がシリンダヘツドの隅角部より外側に一体的に突出する構造に形成されているので、原告の右主張も採用できない。

(審決取消事由2について)

前述したところから明らかなように、引用例(第2図及び第4図のもの)は、燃焼波面の進行する通路にスリツト状狭縮部を設け、混合ガスの火炎は右スリツト状狭縮部を強制通過させられて燃焼室に噴出し、進行する燃焼波の直前位置に燃焼速度を増大するのに有効な微細なガスの乱れを生成し、燃焼室内の未燃残存ガスの燃焼速度の増大によりノツキング防止の効果を奏するものであるのに対し、本願考案は、筒状体内に形成された噴出用空洞において点火された混合ガスの火炎は細成状態の開口部を強制通過させられて噴出用空洞より燃焼室の所定方向に噴出し、混合ガスに乱れを起こさせながら急激な勢いで同室のすみずみまで伝播し、燃焼速度の増大によりノツキング防止の効果を奏するものである。

しかして、火炎の伝播速度の増大は、ノツキング防止に有効であるとされるが、本願考案において、具体的にどの程度、火炎の伝播速度が増大するかは、本願考案の明細書(前掲甲第三号証)を検討しても明らかではなく、引用例のものにおいても、具体的にどの程度、火炎の伝播速度が増大するかを明らかにする記載はない。

結局、引用例においては、火炎がスリツト状狭縮部を強制通過して燃焼室に噴出し、本願考案においては、火炎が細成状態の開口部を強制通過して噴出用空洞より燃焼室の所定方向に噴出するといつても、ノツキング防止の効果について両者の間に格別の差異があるとはいえない。

そうであれば、燃焼室の外側に突設される突出体の形状を筒状とし、その筒状体内に細成状態の噴出用空洞及び開口部を設けるようなことは、この技術分野における通常の知識を有する者がきわめて容易になしうる設計事項というべきである。相違点<1>についての審決の判断に誤りはない。

(審決取消事由3について)

本願考案は、噴出用空洞の軸線方向をピストンの軸線と斜交させて燃焼室の対角線と略合致するようにした点で、引用例のものと相違するが、既に検討したように、本願考案も引用例のものも共にノツキング防止の効果を奏するものであるが、そのノツキング防止の効果において両者の間に格別の差異があるとはいえない。

しかして、点火プラグをその軸線が燃焼室の対角線と略合致するようにピストンの軸線と斜交させて設ける構成は、当業者間において周知(成立に争いのない甲第五号証の一、二の各図もこのことを示している。)であることに徴すれば、点火プラグが連設される噴出用空洞の軸線方向を燃焼室の対角線と略合致するようにピストンの軸線と斜交するように設ける構成自体は当業者が適宜選択できる程度のものというべきである。

そして前述のとおり、そのような構成を採ることによつて生ずる本願考案の効果は、従来技術である引用例のものと比べて格別のものありとはいえないのであるから、点火プラグが連設される噴出用空洞の軸線を相違点<2>のように選定することは、当業者がきわめて容易になしうる設計事項というべきである。この点についての審決の判断に誤りはない。

なお、原告は、本願考案は、点火プラグ基底部がスペーサー(座金)を介して螺子によるねじ込み式にしてあり、右螺着部分に各種のスペーサー(座金)を挿入することによつて、車種の違いによりエンジンの圧縮比を自由に伸縮できる構造を具備している旨主張するが、本願考案の明細書の実用新案登録請求の範囲には、点火プラグ基底部がスペーサー(座金)を介して螺子によるねじ込み式にしてある旨の記載はなく、考案の詳細な説明の欄をみても、点火プラグの螺子部が座金を介して螺着しうるようにした実施例の記載があるのみで、螺着部分に各種のスペーサー(座金)を挿入することによつてエンジンの圧縮比を自由に変動させる旨の記載はない。原告の右主張は、明細書の記載に基づかないもので、採用することができない。

よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却する。

〔編註〕 本願考案の要旨は左のとおりである。

ピストンの上位に形成された燃焼室の上位角部よりその外側に突設した筒状体には、点火プラグを連設し、該点火プラグの電極を、筒状体内に形成され燃焼室に開口する噴出用空洞に配置すると共に、同空洞の軸線方向をピストンの軸線と斜交させて燃焼室の対角線と略合致するようにした内燃機関のノツキング防止装置。

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