大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和53年(行ケ)16号 判決

事実及び理由

一  請求原因一ないし三の事実は当事者間に争いがない。

二  そこで、原告の主張する取消事由の有無について検討する。

1  進歩性の判断について

(一)  (接合構造)本願考案の押湯用発熱性スリーブにおける発熱体と下部接合体との接合構造及び第一引用例の鋳造用押湯枠における発熱性筒体と下部底盤との接合構造がともに非直線形の形状をなす構成であることは当事者間に争いがない。

原告は、本願考案の非直線形の接合構造は、接合部から溶鋼がスリーブ内部に侵入するのを防止することを目的としており、その効果を奏するものであるのに対し、第一引用例のものにはそのような目的は全くなく、そのような効果も奏しないから、第一引用例により本願考案の進歩性を否定するのは誤りであると主張する。

しかしながら、接合部から溶鋼がスリーブ内部に侵入するのを防止するために接合構造を非直線形にして径路を長くすることは格別の考案力も必要としない当然のことであるから、第一引用例において、溶鋼の侵入防止という目的と効果が明示されていないとはいえ、すでに非直線形の接合構造が示されている以上、この接合構造をそのまま用い溶鋼の侵入防止のための本願考案の接合構造とする程度のことは、押湯用発熱性スリーブという同一の技術分野において、当業者がきわめて容易に考案をすることのできることというべきである。原告の右主張は理由がない。

(二)  (被覆)本願考案の押湯用発熱性スリーブの被覆と第二引用例の覆いとがともに防湿に役立つものであることは当事者間に争いがない。

原告は、本願考案の被覆は、スリーブ製作の初めから使用されるもので、使用の機会、期間及び作用効果を異にするのであるから、それの異なる第二引用例の記載を根拠に本願考案の進歩性を否定するのは誤りであると主張する。

しかしながら、第二引用例において、その機会、期間は異なるとはいえ、すでに防湿のために発熱材料に防水性の覆いを取りつけることが示されている以上、この覆いをスリーブ製作の当初から取りつける程度のことは、押湯用発熱性スリーブという同一の技術分野において、当業者がきわめて容易に考案をすることのできることである。そして、併せて、スリーブの内部に異物の侵入を防止し、スリーブ全体の強度を向上させる効果があるといつても、それらはスリーブを当初から覆うことによつて当然収められる範囲を出ない作用効果であるから、本願考案の被覆に進歩性があるとする原告の主張は理由がない。

2  なお、本件審決が請求原因三記載のとおりに審決の理由を摘示していることは当事者間に争いがない。これによれば、本願考案の被覆が何故に第二引用例の覆いからきわめて容易に考案をすることができるかまでは説明されていないが、この程度のことは第二引用例の記載の内容さえ示されれば、前記1の(二)のとおりであり、格別の説明を加えるまでもなく理解されることであるから、原告の指摘は当を得ない。

三  以上のとおり、原告主張の取消事由はすべて理由がないので、本件審決の取消を求める本訴請求は失当として棄却することとする。

〔編註〕本願考案の要旨は左のとおりである。

発熱性物質により中空筒状または中空球形状に形成された発熱体と該発熱体の下部に接合した<省略>形、凸形、<省略>形またはこれらの類似形の非直線形の接合構造を有し、かつ、アルミナ(Al2O3)マグネシヤ(MgO)、ジルコン(Zr2O2)、クロマイト(Cr2O3)またはこれらを主成分とした耐火物等の如き高溶融性耐火物の一種または一種以上の配合の成形体からなり、かつ、また前記発熱体の長さの少なくとも五~二五%程度の長さを有する如くに形成された下部接合体と、及び該下部接合体と前記発熱体とを被覆した合成樹脂フイルム、防湿加工紙またはアルミ箔等の防湿性被覆とからなる鋼鋳物における押湯用発熱性スリーブ。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!