大判例

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東京高等裁判所 昭和53年(行ケ)164号 判決

審決に原告主張の違法が存するか否かについて検討する。

1 本願発明と引用例記載のものとの構成上の相違について

(一) 当事者間に争いのない本願発明の要旨、右要旨中「バンド電極を均等に被覆し或は部分的に被覆し推移して位置させ」との要件は、「バンド電極を全部又は一部重ねて位置させ」の意味であること及び引用例に審決認定のような技術事項の記載があることのほか、成立に争いのない甲第二号証の一、二(引用例)、第三、第五号証(本願発明の明細書、手続補正書)を参酌すると、本願発明と引用例記載のものとは、いずれも、バンド電極を溶融し、その溶融浴内で溶接を行うバンドアーク溶接法に関するものであるが、両者は、溶融浴を形成する方法において、前者が複数のバンド電極を適宜重ね合わせて同時に溶融させるものであるのに対し、後者が一個のバンド電極を溶融させるものである点で相違することが明らかである。

(二) ところで、前掲甲第三号証によると、本願発明の明細書中に本願発明の目的について明示の記載はないが、その記載全体の趣旨に徴すれば、本願発明の目的は、バンドアーク溶接においてバンド電極の溶融能力と溶接速度を高めることにあるものと認めるのが相当であり、一方、前掲甲第二号証の一、二によると、引用例中審決摘示の部分は、バンドアークによる肉盛溶接法において溶着能率の向上増進に関する説明をした個所であることが明らかである。

(三) また、前掲甲第三号証によると、原告は本願発明の明細書中の発明の詳細な説明の項において、「溶接位置のビード状に見えるのを防ぐために、巾の広い一個のバンド電極の代りに巾の狭い二個のバンド電極を使用することも提案されている。」と記載して(二頁一四行~一六行)、巾の狭いバンド電極を二個使用することも従来公知の技術であつたことをうかがわせるような記載をしているばかりでなく、本願発明において巾の広いバンド電極を二個使用するについては従来技術に関する如何なる障害を克服したものかについて何の説明もしていないことが明らかであり、かつ、本訴においても主張立証するところがない。

(四) してみると、バンドアーク溶接法において、溶接能率を高めるためにはバンド電極の幅を広げることが望ましい旨の示唆がある以上、当業者が複数のバンド電極を用いて電極幅を広げることを着想することは、経験則に照らし当然の事理というべく、本願の構成は引用例の記載から当業者の容易に推考しうるところとした審決の判断に誤りはないというべきである。

2 本願発明の作用効果について

原告は、本願発明は引用例の如き一個のバンド電極を使用する溶接法に比べて特段に優れた作用効果を奏するものであるのに、審決はこれを看過した旨主張するので、以下順次検討する。

(一) 原告は、本願発明の効果として溶融能力が著しく高まる旨主張するが(請求の原因4の(二)の(1))、その程度を具体的に示していないばかりでなく、複数のバンド電極を同時に一つの溶接浴内において溶融する場合、一個のバンド電極を溶融する場合に比べて、電極の幅が広がるのであるから溶融量が総じて増加し、これにより溶接能力が高まるであろうことは当然に予測されるところであつて、これをもつて特段に優れた効果とすべき理由はない。

(二) 原告は、本願発明の効果として平滑なビードが形成されること及び溶着金属の炭素含有量の低下を防止しうる旨主張するが(請求の原因4の(二)の(2))、前掲甲第三、第五号証によると、原告が右主張の裏付けとする本願明細書の実施例第8及び第10の記載は、同実施例が本願発明における各電極の推移(重ね合わせ)につき如何なる具体的条件を採用したものかを特定していないことが認められ、したがつて、右実施例の記載をもつてただちに本願発明の奏すべき特段の効果として認めることはできず、また、本願明細書の全文を通じてみてもこれを認めうる記載もなく、他にこれを認めうる証拠もない。

(三) 原告は、本願発明の効果としてスラグによる溶融能力の向上を主張するが(請求の原因4の(二)の(3))、前掲甲第三、第五号証によると、原告が右主張の裏付けとする本願明細書の実施例第13及び第14の記載も前記(二)と同様に同実施例が本願発明の各電極の推移法につき如何なる具体的条件を採用したものかを特定していないことが認められ、したがつて、右実施例の記載をもつてただちに本願発明の奏すべき特段の効果として認めることはできず、他にこれを認めうる証拠もない。

(四) 原告は、本願発明の方法によれば、一個のバンド電極を使用した場合に比べて焼損が少なく溶接速度が高められる旨主張するが(請求の原因4の(二)の(4))、前掲甲第三号証によると、原告が右主張の裏付けとする本願明細書の実施例第1の記載は、本願発明の方法によるバンド電極の重ね方について具体的条件を明示したものではないことが明らかであるから、これをもつて従来例との比較において本願発明に特段の効果があるものとする根拠とするわけにはいかず他にこれを認めうる証拠もない。

(五) 原告は、本願発明の方法によるときは、一個のバンド電極を使用する場合に比べて、溶接浴の縁部におけるスラグの巻込みの危険が少なく、縁部の範囲内になんらの隆起も生じないという効果を奏する旨主張するが(請求の原因4の(二)の(5))、そのような効果は、複数のバンド電極を一部重ね合わせ、使用バンド電極の幅を総体として広げて溶接を行うことにより、当業者の当然に予測すべきところというべく、これをもつて本願発明の奏する特段の効果というべきものではないから、原告の右主張も採用することができない。

以上のとおり、原告の主張はすべて理由がなく、本願発明は引用例に基づいて容易に推考しうるものとした本件審決の認定判断は、結局正当とすべきであり、これを取消すべき違法はないといわざるをえない。

よつて、本件審決の取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却することとする。

〔編註その一〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

(一) 溶接ヘツドに少なくとも二個のバンド電極を導入し、これを均等に被覆し或は部分的に被覆し、推移して位置させ、導電的に連結し、弧光形成の下に一個の共通な溶接浴内で溶融することを特徴とする、裸バンド電極と溶接ヘツドを使用して溶接する被覆或は連結溶接物を作る弧光溶融溶接法。

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