東京高等裁判所 昭和53年(行ケ)187号 判決
事実及び理由
一 請求の原因1ないし3の事実については、当事者間に争いがない。
二 そこで、審決を取り消すべき事由の有無について判断する。
(取消事由(一)について)
成立に争いのない甲第三号証(実公昭四七―一一九七三号公報)によれば、引用例の「考案の詳細な説明」には、保温容器の構成に関し、いずれも熱伝導性物質で作られた中容器1と内容器2との間に少しの間隙イを保たしめ、内容器2の内底面に発熱体5を密接し、また蓋4を密着被蓋する中容器1の上位外面に発熱体6を密接し、各別に加熱するが中容器の加熱温度は内容器の加熱温度よりいくぶん高温度に加熱するようにした旨の記載(公報一欄下から三行ないし二欄九行目参照。)がある。
この点、原告は、引用例の保温容器においては、間隙イは、中容器と内容器との「加熱温度差を保つため」(公報二欄一九行ないし二〇行目)に設けられたものであることが明記されていることから、引用例の保温容器における右「発熱体6」には、米飯保温用の加熱作用はないものであり、審決が「発熱体6」を、保温用の加熱と蓋の加熱とを兼ねるものと理解したのは誤りであると主張するが、以下のべるとおり原告のこの点の主張には、首肯できない。たしかに、原告指摘の如く引用例には、中容器1の上位外面に設けられた「発熱体6」が、蓋4内面の結露を防止するための加熱のほかに、内容器2内の米飯の保温用加熱作用をも果すものかどうかについては、直接の説明はない。
しかしながら、成立につき争いのない乙第一ないし第三号証(実公昭四八―四一二三九号公報、特開昭四八―一〇〇二六五号公報、実開昭四八―八七一七三号公報)によれば、引用例の保温容器におけるように内容器と中容器との間に間隙を設けた保温容器もしくは炊飯器において、底部に発熱体を配置するほか、中容器の上位外面に別個の発熱体を配置し、この発熱体をして、間隙を介して配置された内容器内の米飯を保温する作用を奏させる技術は、すでに本願前周知であつたことが認められ、この周知技術を踏まえて、引用例の保温容器における構成の特長を検討すると、「発熱体6」は、間隙の空気の対流と、熱輻射による熱の移動現象により適当な米飯の保温作用を具えるとともに、さらにその「発熱体6」によつて高温に加熱される中容器1の口周に蓋4を密接被蓋して熱を伝導させ、この蓋の高い温度によつて蓋における露の発生を防止しようとした点に特長の一つがあるものと理解するのが相当である。
この点、原告は、引用例の両容器間の「間隙イ」は、断熱空間として作用するもので、「発熱体6」には、内容器2内の米飯の保温作用はないと主張するが、そのような理解は、すでに認定した如き従来の周知技術や熱の移動の法則にも反するもので合理的でない。
引用例の実用新案公報には、「両容器1、2の間隙イの所々に不導体よりなる物質の支片をおき間隙を保つようにするなど任意である。」との記載(公報二欄一五行ないし一七行目)があるが、これは、内容器2への過度の熱移動に対する配慮であるを酌むことができ、これにより保温と同時に蓋4に結露防止のための十分な温度を確保するものと思われ、「発熱体6」に、周知技術にみられる如き保温作用のないことを推認させることにはならない。
したがつて、審決が、「前記引用例記載の発熱体6は、保温用の加熱と蓋の加熱とを兼ねるものであり、かつ蓋周縁に密接して蓋の露取効果を奏するものである。」と認定した点は、正当であり、何ら誤りはないから、原告のこの点の主張は、失当である。
(取消事由(二)について)
成立に争いのない乙第四ないし第七号証(特開昭四八―三二二三七号公報、実公昭四九―八三六一号公報、実開昭四七―一七二五九号公報、実開昭四八―四七〇五六号公報)ならびに本願明細書(成立に争いのない甲第二号証の一)の「従来公知のこの種の米飯保温容器では飯器蓋の下面で蒸気が結露するのを防止するために上蓋内に蓋ヒータを装着して、該蓋ヒータから発する熱を飯器蓋に伝達させるようにしていた」(第一頁一八行ないし第二頁二行目)旨の記載などを総合すると、保温容器の構成において、複数個の発熱体を配置し、各別の発熱体に、米飯の保温のための加熱作用と結露の発生を防止するために飯器蓋を加熱する作用を独立別個に分担させる技術は、本願前周知な技術であつたことが認められる。しかも、前記認定の如く引用例の保温容器において、中容器1の上位外面に設けた「発熱体6」が、従来の保温容器にみられたように米飯の保温作用を営むほかに、これによつて高温に加熱された中容器1の口周に蓋4を密着させて熱を伝導させ、このことによつて、蓋の内面に蒸気が結露することを防止しようとする技術思想が開示されているのであるから、本願考案におけるように米飯保温のための加熱を保温用の肩ヒータに分担させてこれを制御素子で制御させ(制御素子を用いることが周知であることは原告も明らかに争わない。)一方結露防止のための蓋の加熱作用を専ら独立した露取ヒータに分担させ、この露取ヒータからの熱を蓋14に伝導させるため、蓋の周縁14aを当接させることは、引用例から当業者がきわめて容易に推考できるものと認められ、本願考案が、この点において格別の考案力を要したものとも認められない。
この点の審決の判断は、正当であり、何ら誤りはない。
また、原告は、本願考案の独自の構成による効果として、保温用肩ヒータ9を制御素子10により制御し、その発熱状態がどのようであろうとも、露取ヒータ11が常に結露防止に必要にして十分なる発熱量を連続して確保できることを主張するが、露取ヒータが、保温用の肩ヒータの発熱量に左右されないことは、それぞれの加熱作用を別個の発熱体に分担させたことによる当然予測できる効果であり、また、本願考案が露取ヒータを、一定の電圧が供与され一定の熱量を発生すべく構成した点をもつて格別の作用効果を奏するものとみることもできない。なぜなら、引用例の保温容器には、その「考案の詳細な説明」における、発熱体6は、ニクローム線あるいは電子ヒータ等よりなり、これに通電して加熱する旨の記述ならびに添付図面に示された配線などからみると、「発熱体6」には、一般の商用電源が直結されて一定の電圧が供与されていることが窺われるし、さらに「発熱体6」を電子ヒータをもつて構成する場合には、「発熱体6」は、つねに一定温度を保持しうるものとみられ、引用例の保温容器にあつても、前記周知技術を踏まえて設計に十分配慮すれば、常時蓋の結露の発生を防止する一方、内容器内の米飯を適温に加熱することができるものとみられるからである。
したがつて、この点の審決の判断には、原告指摘の如き誤りはないというべきである。
以上検討してきたところから明らかな如く本願考案は、引用例に記載された技術に基づいて当業者がきわめて容易に考案することができたものとした審決の判断は、正当であり、審決にはこれを取り消すべき違法はない。
三 よつて、原告の本訴請求は、失当としてこれを棄却することとする。
〔編註〕本願考案の要旨は左のとおりである。
外ケース5及び内ケース6の間に断熱材7を配してなる本体2の前記内ケース6の裏面上方部位に制御素子10により制御されて飯器8内の米飯を適温に加熱する保温用の肩ヒータ9を装着し、且つ該肩ヒータ9よりさらに飯器蓋14に近接した部位13には常に一定の電圧を供与されて一定の熱量を発生する露取ヒータ11を取付けるとともに、前記露取ヒータ取付部位13の表面には熱良導性材料からなる飯器蓋14の周縁14aを伝熱的に当接させて前記露取ヒータ11の発熱を前記飯器蓋14に伝導させるようにしたことを特徴とする米飯保温容器。