東京高等裁判所 昭和53年(行ケ)23号 判決
本件審決に原告主張のような違法事由があるかについて順次検討する。
(1) 相違点(1)について
一般に、圧縮流体の流路を形成する周壁の形状を適宜整形し、必要に応じて曲面にしたり平面状にしたりして摩擦損失を少なくすることは、当業者の慣用手段といつて差支えない。ところで原告は、本件考案において、フアン1と対向配置した周壁15を彎曲面としたことにより、回転頭部2の傾斜した表面と周壁15との間の空気の圧縮比が向上し、これに伴つて空気の排出流速を増大するという特段の効果を奏しうる旨主張するが、引用例記載のもののようにフアンと対向配置した面が直線平面状のものに比べて右効果の点で著るしい相違があるか否かは、これを証すべき資料がなく(甲第八号証は、記載の実験に供した本件考案の実施品と称するものが、本件考案の要旨に符合する構成を具備したものでないことが弁論の全趣旨上明らかであるから、その実験結果を比較判断の資料に供すべき限りではない。)、また、本件考案において周壁15を彎曲面とするについても、その形状、程度について何らの限定もないのであるから、右周壁15を彎曲面としたことは、引用例記載のものに比し、前記慣用手段の範囲内のものとみるほかなく、したがつて、これを単なる設計変更にすぎないものとした審決の判断は正当である。
(2) 相違点(2)について
本件考案が、蓋体7の端縁16を間隙dを距てて筒部10の開口端縁15′の外側に位置するようにした構成により、空気の圧縮比の向上とこれに伴う流速の増大の点で格別顕著な効果を奏するかについては、前同様の理由でこれを認めるべき資料がなく、引用例のものにおいても、フアンによつて圧縮された空気が蓋体の端部に連なる平板に衝き当つて、蓋体と筒体との間に拡がる間隙を通つて外部に強制排出される構成の点では本件考案と差異はないのであるから、本件考案が引用例のものに比べて前記効果の点で格別なものありとはいい難く、また、雨水の浸入防止の点についてみても、引用例のものにあつても、蓋体の端縁が排気筒の先端開口部に形成された環状板との接合点より外側にかなり張り出してこれが庇となつており、かつ、蓋体と筒体との間隙では内側から外周に向つて常時排出空気の流れがあるため、雨滴が排気筒内に浸入することを防止する構成となつているものであることが明らかであるから、この点の効果においても本件考案と引用例のものとは異なるところがないというべきである。したがつて、相違点(2)に関しても、本件考案の構成をもつて単なる設計変更にすぎないとした審決の判断に誤りはない。
(3) フアンの形状について
成立に争いのない乙第二、第三号証によると、遠心型フアンの翼の形状としては、放射方向に多数設けたもの(ラジアルフアン)、螺旋状に多数設けたもの(ターボフアン)など数種のものがあり、それぞれ特性を有して効率、用途を異にするものであることが本件考案の出願前から一般に知られた技術であつたことが明らかであり、そのいずれを採用するかは当業者が必要に応じて任意に選択することが可能なものといえるから、本件考案が放射状フアンを採用した点に格別の創意を認めることはできず、また、そのため本件考案のものが引用例記載のものに比べて原告主張のように吸引力及び排気力において格段に優れていることは、前同様にこれを認めるに足る資料がない。したがつて、本件考案も引用例記載のものも遠心フアンを採用している点で同一構成のものであり、その点に格別の差異を見出すことはできない。
(4) 以上のとおり、原告の主張はすべて理由がなく、本件考案と引用例記載のものとの相違点はすべて単なる設計変更の範囲に属し、結局、両者は実質的に同一の考案であるとした本件審決の認定判断は正当とせざるをえない。
よつて、本件審決を違法としてその取消を求める原告の請求を理由なしとして棄却することとする。
〔編註〕 本件における考案の要旨および審決理由の要点は左のとおりである。
本件考案の要旨
逆皿状の基板6を底部に具えた半球状の蓋体7の内側にモーター5を装備せしめると共に排気管11の開口部に被冠せしめた筒部10の彎曲周壁15´にフアン1を対向配置せしめ、筒部10の開口端縁15´の外側に一定間隙dを距てて前記蓋体7の端縁16を配置せしめ、前記フアン1は逆円錘状の頭部2に放射方向に多数の翼3を附設した加圧式ターボ型であることを特徴とする電気換気機。
審決理由の要点
本件考案の要旨は前項記載のとおりであるが、一方、登録第三一六四七四号意匠公報(意匠に係る物品「屋外取付け用通風器」、昭和四五年五月三〇日登録、以下「引用例」という。)について検討すると、そのA―A線断面図から明らかなように、基板を底部に具えた蓋体の内側にモーターを装備させ、排気管の先端に被冠する筒部の内周側壁にフアンを対向配置し、筒部の開口端縁の外側に一定間隙を距てて蓋体の端縁を配置し、フアンは逆円錐状の頭部に放射方向に多数の翼を附設した加圧式ターボ型であることを特徴とする屋外取付け用通風器が記載されているものと認められる。そこで、本件考案と引用例記載のものとを対比すると、
(1) フアン1と対向配置した周壁15を彎曲面とした点、
(2) 筒部10の開口端縁15´の外側に一定間隙dを距てて蓋体7の端縁16を配置させた点、
が一応相違している。
しかし、フアンと対向配置した周壁を直線平面状のものから彎曲面にしたからといつて、当業者間では、渦流が生じないように流路を円滑に流れるよう曲面にすることが自明である以上、格別の効果を奏するものとは認められない単なる設計変更にすぎず、また、蓋体の端縁が間隙dを距てて開口端縁の外側にあることも、引用例のものの蓋体の端縁が開口端縁の斜め上外方に間隙を距てて位置していることからして、単に外側を斜め外方にしたに過ぎず、明細書からみて特別な効果を奏するものでもなく、この点についても単なる設計変更に過ぎないというべきである。
したがつて、本件考案は、全体として引用例記載のものと実質的に同一考案であつて、実用新案法第三条第一項第一号の規定により登録を受けることができないものであつたから、同法第三七条の規定によりその登録を無効とすべきものである。