東京高等裁判所 昭和53年(行ケ)42号 判決
審決を取り消すべき事由の存否について検討する。
1 本件考案が審決認定のとおりの論理演算回路を有することを特徴とする印字装置の制御装置に関するものであることは当事者間に争いがなく、また、成立に争いのない甲第二号証(本件実用新案公報)によれば、「考案の詳細な説明」欄の冒頭には、「この考案は計算機システムでラインプリンタ装置を使い、印字を行なう際、印字動作中にプリント用紙が無くなつた場合、ページの途中でノツトレデイ(not ready)信号を出さずに、印字しているページの最後でノツトレデイ信号を出すようにした印字装置の制御装置に関するものである。」との記載が認められるから、上記の印字装置の制御装置における論理演算回路の組立と明細書の記載に徴すると、本件考案における印字装置の制御装置の動作態様は、次のとおりとなることが明らかである。すなわち、ペーパーアウト信号以外の印字装置不作動信号(添付図面における符号10の信号)が生じた場合には、それだけで直ちに印字動作が停止するが、プリント用紙が無くなつたことを示すペーパーアウト信号(添付図面における符号4の信号)が生じた場合には、それだけでは印字動作を停止することなくプリント用紙の次のページの最初を示すフオーマツトテープからの信号(添付図面における符号9の信号)が発生するまでは印字動作を継続して、印字途中のページの最後までの印字を完了した後に印字動作を停止するものである。
一方、成立に争いのない甲第三号証(MODEL H―8245/8246形ラインプリンタ取扱説明書)及び甲第四、第五号証(いずれも証明書)によれば、本件実用新案登録出願前に、日本国内において、株式会社日立製作所製の「H―8246形ラインプリンタ」(引用物件)が公然と使用されていたこと及び、この引用物件は、プリント用紙が無くなつた場合を含めて各種の不作動信号の発生(INOP表示ランプ点灯)によつて印字動作が一旦停止するが、プリント用紙が無くなつたことによつてEND OF FORMS表示ランプも点灯した状態のときには、印字動作が一応停止していても、そこでSINGLE FORM押ボタンスイツチを押すと、印字動作が再開され(END OF FORMSの表示ランプは消灯し)フオーマツトテープのチヤンネル1のパンチ穴(本件考案における次のページの最初を示すフオーマツトテープからの信号に相当する。)をセンスするまで印字動作を継続し、処理中のページの印刷を完了せしめるように構成されているものであることが認められる(甲第三号証ラインプリンタ取扱説明書第一〇頁ないし第一一頁の(8)参照)。
そこで、本件考案と引用物件の構成とを対比すると、両者は、ページの途中でペーパーアウト信号が生じても、印字処理中のそのページの最後まで(次のページの始まりを示すフオーマツトテープからの信号が発生するまで)印字動作を行なうことができる点では共通するものであり、ただ、本件考案においては、ペーパーアウトのとき印字処理中のそのページの最後まで自動的に印字動作を継続するのに対し、引用物件にあつては、ペーパーアウトのときにも、一旦、印字動作を停止し、その段階において、そこで打切つて新しいプリント用紙をセツトするか、それとも印字処理中のページの最後まで印字させるかをオペレータが選択できる機構とし、オペレータが、SINGLE FORM押ボタンスイツチを押す選択操作をした場合に限つて、印字処理中のそのページの最後まで印字動作を行なうように構成されている点で両者に一応の差異が認められる。
2 ところで、原告は、一般に電子計算機に接続される印字装置においては、ページ単位毎に横ミシン目が施されたプリント用紙が用いられるものであるから、このことを前提として、本件考案はペーパーアウトになつてもプリント用紙のページの最初を示す前記フオーマツトテープ(プリント用紙の長さに対応したもの)からの信号を用いることによつて印字処理途中のページの最後まで自動的に印字動作を継続させ、プリント用紙の残部に必ず印字できるようにした点で、本件考案の着想の非容易性があり、これによつて引用物件におけるペーパーアウトの際のオペレータの選択操作及びこれに伴う印字装置が接続された計算機側の判断処理をも不要にし得るという実用的効果がある旨主張する。
(一) なるほど、本件考案に係る印字装置の制御装置において、プリント用紙として、原告がいうような横ミシン目が施されたものを用い、かつ、このプリント用紙の長さに対応したフオーマツトテープをセツトすることによつて用紙の折りページ内に印字ページを納めるようにした使用態様のみを想定すれば、原告主張のように印字途中のページの残りをプリント用紙の残部に常にきちんと納めることになる。しかしながら、本件考案に関する明細書の記載からも本件考案において用いられるプリント用紙が右の如き横ミシン目の施された規格化された用紙に限られるものとは理解できず、印字用紙として一般の用紙が用いられることもあり、また、印字すべきページの長さも大幅に変化するものであるから、これらの種々の使用態様を含めて考えれば、本件考案に係る印字装置の制御装置が、ペーパーアウトの場合には、必ず常に印字途中のページの残りを用紙の残部に納めることが保障されているとはいえない。したがつて、この点に関する審決の判断には、何ら誤りはない。
(二) 引用物件の構成は、前記のとおり、ペーパーアウトのときには、一旦、印字動作を停止させるが、その段階で、オペレータにおいて、そのページの最後まで印字動作を行なわせるか否かについて選択できるようになつており、前述の如き各種の使用態様に対処しうるように、装置に汎用性をもたせたものとみることができる。
そこで、引用物件において、たとえば、横ミシン目の施されたプリント用紙を用い、その折りページ内に印字ページを納めるように使用する態様を考えてみると、印字途中のページの残りについては、これを常に用紙の残部に納めることができることは自明のことであるから、このような使用態様に限るならば、引用物件にあつてもオペレータによる選択機構を省略しうることが容易に理解できる。また、このことからすると、引用物件の構成のうちオペレータによる選択機構を省略して、本件考案の如く、プリント用紙が無くなつたことを示すペーパーアウト信号が生じても、引用物件においてオペレータがSINGLE FORM押ボタンスイツチを押したときと同様に、次のページの最初を示すフオーマツトテープからの信号が発生するまで、そのまま印字動作を継続して行なわせるようにすることは、きわめて容易に想到しうるとみざるをえない。したがつて、この点は、当業者が引用物件の構成に基づいて必要に応じてなしうる設計変更にすぎないとみられるから、この点に原告主張の如き着想の非容易性を認めることはできない。
(三) なお、ペーパーアウト信号以外の印字装置不作動信号が生じた場合には、直ちに印字装置を停止しなければならないことも当然であるから、結局、かかる動作を行なわせるための構成として、本件考案のように、ペーパーアウト信号と次のページの最初を示す(印字途中のページの最後を示す)フオーマツトテープからの信号との論理積をとる論理積回路と、この論理積回路からの信号とペーパーアウト信号以外の印字装置不作動信号との論理和をとる論理和回路とを設け、この論理和回路の出力に応じて印字装置を停止させるためのノツトレデイ信号を発生させるようにすることは、論理演算工学の基礎的知識に基づいて当業者がきわめて容易に導き出しうることである。
3 そうすると、原告の主張は理由がなく、本件考案が引用物件におけるオペレータによる選択機構を省略したものとみられるとし、本件考案は引用物件の構成に基づき任意になしえた設計変更にすぎないとした審決の判断は、正当である。
以上のとおりであるから、審決の違法を主張してその取消しを求める原告の本訴請求は理由がない。
〔編註その一〕 本件における考案の要旨は左のとおりである。
プリント用紙に印字を行なう印字装置の制御装置において、プリント用紙のページの最初を示すフオーマツトテープからの信号とプリント用紙が無くなつたことを示すペーパーアウト信号の論理積をとる論理積回路と、この論理積回路からの信号と上記ペーパーアウト信号以外の印字装置不作動信号との論理和をとる論理和回路と、この論理和回路の出力に応じて印字装置へノツトレデイ信号を発生する回路とを有し、ペーパーアウト信号が生じてもそれだけでは印字動作を停止することなく、次のページの最初を示す信号が発生するまでは印字動作を継続するように構成したことを特徴とする印字装置の制御装置(別紙図面参照)。
〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。
<省略>