大判例

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東京高等裁判所 昭和53年(行ケ)53号 判決

事実及び理由

原告の主張する審決取消事由の存否について検討する。

1  第一引用例の技術内容について

成立に争いのない甲第三号証によれば、第一引用例のものは「検査装置用のホイール支持装置」に関するものであることが認められる。そして、同号証によれば、第一引用例の説明文中に、被告主張のとおりの「本図面において……、ホイールが支持装置の相対的回転を生ぜしめてホイールアライメントの不正を検出することができる。」との記載(第一頁左欄末行~同右欄第七行)があることは認められるけれども、ホイールアライメントの不正を検出するための具体的手段について記載されているところはない。

そうすれば、第一引用例には、ホイールアライメントの不正を検出する装置として用いることができる検査装置用のホイール支持装置が記載されていると認定すべきものであつて、「ホイールアライメントの不正を検出する装置」が記載されているとする審決の認定は正確性を欠くものというべきであるが、他方、成立に争いのない甲第五号証によれば、トー角度の検出手段としてローラー軸の旋回角度により計測することが、成立に争いのない甲第四号証(第二引用例の明細書)によれば、ホイールの側面に直接計器を当ててトー角度を計測することが、それぞれ本願考案の登録出願前に既に日本国内において公知となつていたことが認められるから、右のように、第一引用例にホイールアライメントの不正を検出するための具体的手段が記載されていなくても、同引用例のホイール支持装置がトー角度の検出装置としてそのまま用いうることは当業者にとつて容易に理解することができるところである。

そうすれば、第一引用例には、「ホイールアライメントの不正を検出する装置」が記載されていると実質的には変りがないというのが相当であるから、審決の認定に誤りがあるとする原告の主張は結局理由がない。

2  相違点の看過について

(1)  第二引用例のものがローラーフレーム内に動力源を含む伝導機構を装備していないことは当事者間に争いがない。

被告は、本願考案と第二引用例のものとの右相違点は単なる設計事項の相違にすぎないと主張する。

よつて検討するに、本願考案の登録出願前公知となつていた第一引用例のものは、既述(1の項)のように、「ホイールが支持装置の相対的回転を生ぜしめてホイールアライメントの不正を検出することができる」ものであり、前掲甲第三号証によれば、それは、回転支持部材(ローラーフレーム)に一体的に取付けた突出ブラケツト上にモーターを設け、伝導機構により駆動ローラーを回転させるようにしたものであることが認められるから(第二頁左欄第七行~第一二行及び第1図)、回転支持部材の回転時に駆動力伝達反力等の外力は働かず、したがつて、それらが自由な旋回を妨げるところはなく、本願考案とその目的、効果に格別の差異はないものと認められる。また、一般的にも、可動部分にモーター等の動力源を直接載置して駆動に支障がないようにすることは普通の技術常識に属することであるから、本願考案においてローラーフレーム上に動力源を含む伝導機構を装備するという前記相違点は単なる設計事項の相違にとどまるものと認めるのが相当である。

原告の主張は理由がない。

(2)  被告は、第二引用例のものにおいても、原告主張の伝導機構が左右対称的に配置されていると主張し、その根拠として第二引用例の記載と図面を指摘しているが、その指摘する「ホイールを測定する機構」(第二欄第四三、四四行)の記載がモーター51を含めて述べているものか否かは明らかでなく、また、その指摘の第3図、第4図においても、モーターが左右対称的に二個配置されているか否かは不明である。

しかしながら、本願考案の登録出願前公知となつていた第一引用例(前掲甲第三号証)には、動力源(小型モーター11)を含む伝導装置を回転支持部材1(ローラーフレーム)上に装備したものが記載されているので(第二頁左欄第八行~第一二行、第1図)、この点は単なる設計的事項であると認められる。ことに、回転支持部材(ローラーフレーム)は、ホイールを支持するために、当然左右対称的に配置されるものであるから、本願考案と第二引用例のものとの間に原告主張のような相違点があるとしても、それは単なる設計上の微差と認めるのが相当であつて、原告の主張は理由がない。

(3)  原告は、第二引用例のものは、「ローラーフレームの旋回によつて車輪のトー角を検出する装置」ではない、と主張する。

よつて検討するに、前掲甲第四号証によれば、第二引用例には同引用例のものが「ローラーフレームの旋回によつて車輪のトー角を検出する装置」であるとの直接の記載はないけれども、

「本発明の目的は、正確に再現された路上状態下で、自動車のキヤンバー及びトーインの読みを得るための、改良された点検及び整列修正用の装置を提供することにある。」(第一欄第三八行~第四一行)、

「キヤンバーとトーの読みは、キヤンバーゲージ137及びトー目盛133によつて取ることができる。以上の読みが取られている間、車両ホイールは絶え間なく回転されている。」(第五欄第六二行~第六五行)

との記載があることが認められるのであつて、これらの記載によれば、トー角の検出に当りホイールが路上状態と同様に回転するものであることが理解され、また、「ローラーフレームの後端部は、その下側で回転可能に支承されている車輪48及び49によつて支持されており、該車輪は支承プレート35上に支えられている。これらの車輪の軸の延長線はピボツト41を通過しており、したがつて、検査作業中にローラーフレームはこのピボツトを中心にしてスイングすることができる。」(第三欄第一六行~第二一行)

との記載があることが認められるから、この記載によれば、ローラーフレームが検査作業中にピボツト41を中心として旋回するものであることが明らかである。

そして、他方、前掲甲第五号証によれば、本願考案の登録出願前に、前車輪を揺動可能なローラー上で回転させるとき、前車輪のトーインによりローラーの軸線が旋回し、これによつてトー角を測定することができることが公知となつていたことが認められるから、このことから判断すると、第二引用例のものにおいては、ローラーフレーム上のローラーが車輪のトーインにより側方への力を受け、回動可能なローラーフレームがピボツト41を中心として旋回することが明らかであり、この旋回するローラーフレーム上の車輪にアライメントスピンドル101を取付けて、スピンドルの動きによりトー角を計測するものが第二引用例のトー角検出装置であると理解される。

そうすれば、第二引用例のものは、検査車輪をローラーフレーム上で回転することにより、車輪のトーインによつてローラーフレームが旋回され、旋回されたローラーフレーム上の車輪にアライメントスピンドルを係止してトー角を検出するようにした装置、すなわち、「ローラーフレームの旋回によつて車輪のトー角を検出する装置」ということができる。

一方、本願考案においては、「台枠2、2′に目盛20、20′を固着し、その目盛を指示する指針21、21′を車輪支持枠8、8′に設けた」点はその要旨とされていないものである。また、成立に争いのない甲第二号証によれば、本願考案の詳細な説明の項には、

「本考案は、自動車の車輪のトーインを車輪の走行時の回転状態において試験する試験台に関するものである。」(第一欄第一九行~第二一行)、

「本考案の装置は、前記のように、車輪の回転状態においてトーインなどを指示させるものであるから、車両の実際の走行状態におけるトーインを試験することができることは勿論、ハンドルの振れを検出することができ、また、測定中にハンドルを操作できるので、別の機器を用いることなく、ハンドルの切角の測定が可能である。」(第三欄第二二行~第二八行)、

との記載があることが認められるから、これらの記載によれば、本願考案は、走行時の回転状態を可能にしたトーイン試験台の車輪支持機構を対象とし、これについての請求原因二の項記載のとおりの構成を考案の要旨とするものであつて、トー角をローラーフレームの旋回角から直接検出する検出手段は必須の構成要件ではなく、旋回したローラーフレーム上の車輪からトー角を検出することも可能であつて、本願考案はそのようなものをも包含するものと解される。

そうすれば、本願考案も第二引用例のものも右の点については同一であるから、原告の主張は理由がない。

3  その3の主張について

原告は、本願考案においては、二本の平行なローラーをもつことにより、ローラーが車輪のトー角に追従旋回し、その旋回角がトー角を成すという格別の作用効果がある、と主張する。

しかしながら、既述(2の(3)の項)のとおり、第二引用例のもののローラーフレームも車輪のトー角に追従旋回するのであり、また、第一引用例のもののホイール支持装置も、その「ホイールが支持装置の相対的回転を生ぜしめて、ホイールアライメントの不正を検出することができる。」(前出)との記載から明らかなように、車輪のトー角に追従旋回するのであるから、原告の主張する右の効果は格別のものとは認められない。

そして、本願考案が二本の平行なローラーを用いることによる格別の効果については本願考案の明細書(前掲甲第二号証)に何も記載されていない。

以上のように、第二引用例のものもローラーフレームの旋回によつて車輪のトー角を検出する装置であり、第二引用例のものに較べて本願考案が車輪を支承するローラーの数を二本としたことによる格別の効果は認められず、他方、「ホイールアライメントの不正を検出する装置」が記載されているといつても実質的には変りのない第一引用例(前掲甲第三号証)には、駆動ローラー及び遊動ローラーの二本を平行に設けたものが記載されているのであるから、第二引用例のものにおける二本以上のローラーを本願考案の二本の平行なローラーにすることは、当業者が格別の考案力を要せず容易にできるものというべく、原告の主張は理由がない。

以上のとおりであり、審決の取消を求める原告の主張はすべて理由がないので、本訴請求を失当として棄却することとする。

〔編註〕本願考案の要旨および審決理由の要点は左のとおりである。

本願考案の要旨

車輪支持枠にローラーを軸承したトーイン試験台において、台枠上に前記の車輪支持枠を旋回可能に設けて、これに車輪を支承するための二本の平行なローラーを回転自在に軸支し、かつ、前記のローラーに回転を与えるための動力源を含む伝動機構を装備したものを左右対称的に配置したトーイン試験台。(別紙第一図面(〔編註〕省略)参照)

審決の理由の要点

本願考案の要旨は前項記載のとおりである。米国特許第二〇一六九四三号明細書(昭和一一年二月一八日特許庁陳列館受入、以下「第一引用例」という。甲第三号証)には「中間部材3′上で回転可能に支承される回転支持部材1上に、車両のホイールを支える駆動ローラー3と、これと軸が平行でホイールを間接的に支える回転可能な軸4を設け、この軸4には、均一な壁厚を有する中空円錐体よりなる一対のセンター修正ローラー5、6を遊嵌してなる、ホイールにより支持装置の相対的回転を生ぜしめてホイールアライメントの不正を検出する装置」(別紙第二図面(〔編註〕省略)参照)が、また、米国特許第二七七七二一一号明細書(昭和三二年五月一四日特許庁資料館受入、以下「第二引用例」という。甲第四号証)には「ローラーフレームにローラーを軸承した車両検査装置において、スイングブラツトホーム32上に前記のローラーフレーム39を旋回可能に設けて、これに車軸を支承するための二本以上の平行な駆動及び遊動ローラー45、47を回転自在に軸支し、かつ、前記のローラーに回転を与えるための動力源51を含む伝導機構52~62を装備したものを左右対称的に配置し、ローラーフレームの旋回によつて車輪のトー角を検出する装置」(別紙第三図面(〔編註〕省略)参照)がそれぞれ記載されている。

そこで、まず本願考案と第二引用例のものとを対比すると、本願考案の車輪支持枠、台枠とローラーは、第二引用例のもののローラーフレーム、スイングブラツトフオームと駆動、遊動ローラーにそれぞれ相当し、本願考案が二本の平行なローラーをもつに対して、第二引用例のものは二本以上のローラーをもつものである点で相違するだけであり、他は一致する構成をもつものである。

右相違点について検討するに、本願考案のようなホイールアライメントの検査装置において、駆動及び遊動ローラーの二本を平行に設け、遊動ローラーの変位により検査を行うものが、第一引用例に示すように、本願考案の出願前頒布された刊行物に記載されており、かつ、特にローラーを二本としたために格別の効果を生ずるものではないから、第二引用例のものにおける二本以上のローラーを本願考案の二本のローラーとすることは、当業者が必要に応じて格別の考案力なしにできることである。

したがつて、本願考案は、前記第一引用例及び第二引用例記載のものから当業者が容易に考案をすることができるものであり、旧実用新案法第一条の考案をしたものと認めることができない。

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