東京高等裁判所 昭和53年(行ケ)6号 判決 1978年7月27日
原告
日本臓器製薬株式会社
右訴訟代理人弁理士
萼優美
外四名
被告
第一工業製薬株式会社
右訴訟代理人
吉原省三
外二名
主文
特許庁が昭和五二年一一月一日同庁昭和四八年審判第四四四八号事件についてした審決を取消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実および理由
第一当事者の求めた裁判<省略>
第二争いのない事実
一特許庁における手続の経緯
原告は、昭和四三年七月一〇日に登録された登録第七八五、五八三号商標(以下「本件登録商標」という。)につき被告を被請求人として特許庁に対し、右商標登録無効の審判の請求をしたが、右請求書は昭和四八年七月一一日に特許庁に到達し、昭和四八年審判第四、四四八号事件として審理された。特許庁は昭和五二年一一月一日「本件審判請求を却下する。」との審決をなし、右審決謄本は同年一二月二四日原告に送達された。
二審決理由の要点
本件登録商標は、昭和四三年七月一〇日に登録されたものである。
ところで、請求人は、本件登録商標が商標法第三条第一項第六号、同第四条第一項第一〇号、同第一一号及び同第一五号に該当するとの理由により無効を主張するものであるが、商標登録が前記法条に該当するものとする無効審判の請求は、登録の日から五年を経過した後は請求することができないことは、商標法第四七条により明らかなところ、本件審判請求は昭和四八年七月一一日になされたもの(商標登録の無効の審判の請求については請求書が特許庁に送達された日をもつて請求の日とする。)であつて、除斥期間経過後の不適法な請求であり、その欠缺は補正することができない。
三本件無効審判請求の理由
本件登録商標が商標法第三条第一項第六号、同第四条第一項第一〇号、同第一一号および同第一五号に該当するからその登録が無効であるとの主張に基く。
第三争点
一原告の主張(審決取消事由)
本件審判請求は法定期間内に適法になされたものであるのに、これを除斥期間満了後になされた不適法なものとして却下した審決は、法の解釈・適用を誤つたもので違法であつて取消されねばならない。
原告は本件審判請求書を昭和四八年七月一〇日書留郵便により特許庁長官に対し送付した。ところで商標法第四七条によれば、商標法第三条等所定法条の違反を理由とする商標登録無効審判は、設定登録の日から五年以内に請求しなければならない旨定めている。そして商標法第五六条で準用する特許法第一三一条第一項および第二項によれば、商標登録の無効審判を請求する者は、所定の事項を記載した請求書を特許庁長官に提出しなければならないから、その請求書はまさに商標法第七七条二項で準用する特許法第一九条にいう特許庁に提出する書類であつて、その提出の期間が定められているものである。よつて本件無効審判の請求書は原告が書留郵便に付した前記七月一〇日に特許庁に到達したものとみなされることとなり、商標法第四七条の期間内になされたものといわねばならない。無効審判請求について商標法第四七条所定の期間の定めのある事由と、期間の定めのないものとがある以上、商標法第四七条による請求について特許法第一九条を適用してその間に区別を設けて処理しても何ら実務上矛盾を生じない。
二被告の答弁
原告が本件審判請求書を発送した方法及び日時は不知。
審決に原告主張のような誤りはなく、何ら違法のかどはない。
無効審判請求一般については、その請求の期間についての定めがない。したがって、本件のような無効審判請求書はその本来の性質として、元来一定の手続が継続していることを前提として提出の期間が定められている特許法第一九条にいう書類には当らず、同条の適用(準用)はないと解すべきであるから、審決認定のように、それが到達した七月一一日に本件無効審判請求がされたとするほかなく、結局商標法第四七条による除斥期間経過後の不適法なものとして却下した審決は正当である。
ちなみに商標法第四七条が登録無効事由のうち一定事由に限つて五年の除斥期間をもうけているのは、一定期間内に無効審判の請求がなく平穏に経過したときは、その期間中継続した法律状態を尊重し、不可抗争力を生じる趣旨にほかならない。そして政策的にみても五年という期間は、特許庁との地理的な遠近を問題としなければならないほど短かいものではない。したがって、もともと特許庁と当事者との地理的間隔の差異にもとづく不平等を排除する意味で設けられたとする特許法第一九条を適用する根拠に乏しいし、適用がないとしても実質的に不合理は生じない。かりに商標法第四七条の請求期間の定めのある無効審判請求について特許法第一九条の適用があるとすると、商標法第四七条所定の無効事由とその他の無効事由が併せて請求されるときには、無効審判請求の一通の請求書について、特許庁に到達した日を請求日とするものと郵便局に差し出された日時を請求日とするものとがあることになり、実務上混乱を招きかねないので無効審判制度として採用しがたいところである。
第四当裁判所の判断
<証拠>によれば、原告が本件登録商標につき、本件無効審判請求書を、昭和四八年七月一〇日の遅くとも午後六時までに書留郵便により特許庁長官あてに発送したことが認められる。そしてその無効を主張する理由は、本件登録商標が商標法第三条第一項第六号、同第四条第一項第一〇号、同第一一号および同第一五号に該当するとの主張に基くものであることは、当事者間に争いがない。そうすると、商標法第四七条の除斥期間の定めにより、本件登録商標につき当事者間に争いがない昭和四三年七日一〇日の登録日から、五年以内である昭和四八年七月一〇日までに請求しなければならないことになる。そして商標法第五六条により準用する特許法第一三一条によれば、商標登録の無効審判を請求する者は、所定の事項を記載した請求書を特許庁長官に提出しなければならないから、その請求書は、商標法第七七条第二項で準用する特許法第一九条にいう特許庁に提出する書類でその提出の期間が定められているものに当たるというべく、被告主張の商標法第四七条、特許法第一九条の各立法趣旨ないし他の無効事由を理由とする無効請求との間に取扱いに差異を生ずることを考慮に入れても、右請求書を右第一九条の適用から除外する特段の根拠は見出せず、かように解しても、格別の不合理は生じない。(特許法第一二四条に基づく無効審判請求事案につき、東京高等裁判所昭和五〇年七月一六日言渡昭和五〇年(行ケ)第二二号事件判決・審決取消訴訟判決集昭和五〇年七頁所載参照)
そうすると、特許法第一九条によつて、前記認定のように原告が本件無効審判請求書を書留郵便により特許庁長官あてに発送した昭和四八年七月一〇日午後六時までに特許庁に右請求書が到達したものとみなされるから、本件商標無効審判請求は除斥期間の満了前に適法になされたものというべきである。したがって、これを除斥期間満了後になされた不適法なものとして却下した審決は違法であつて取消されねばならない。<以下、省略>
(小堀勇 舟本信光 石井彦壽)