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東京高等裁判所 昭和53年(行ケ)63号 判決

原告の主張する審決取消事由の存否について検討する。

1 取消事由1について

成立に争いのない甲第三号証の三の一、二によれば、昭和三三年九月当時において、日本国内で稼動中のデイスクリフアイナーのうちの一〇二台(国内に設置されているデイスクリフアイナー全体の約三分の二の量と推定される台数)のデイスク間隙の範囲は、〇・一mmから七・〇mmに及び、その内訳では、一・〇mm未満のものが多いが、一・〇mmを越えるものも八台存在していたことが認められるから、この種のデイスクリフアイナーにおいて、原料の種類、紙料の濃度、製品の種類等に応じてデイスク間隙を変え、使用目的によつて右間隙を一・〇mmを越えるように設定することは、本願発明の特許出願についての優先権主張日前に当業者にとつて周知の事項であつたと推認される。

原告は、(a)繊維の切断作用を弱めるためにデイスク間隙を〇・一〇cm以上にすることと、(b)かくして決定された〇・一〇cm以上の範囲内でデイスク間隙の最適値を選定することとは、次元を異にする事項であるから、(b)の事実から(a)のようにすることは容易にしうることではない、と主張する。

右(a)と(b)とが別個の技術的事項であることは原告指摘のとおりである。

しかしながら、たとえそうであるとしても、単繊維成分を比較的無傷でしかも長くて良好な状態を維持したままリフアイナーケースから取出すためには、デイスク間隙を狭くすることは好ましくないことがリフアイナーの分野における技術常識であることは、弁論の全趣旨に徴し明らかであり(なお、例えば、「製紙工学」工学図書株式会社発行、昭和三九年三月一五日初版、昭和五三年一一月二〇日増訂一二版第一二〇頁~第一二二頁参照)、本願発明においても、原料がデイスクリフアイナーに送られるときには、それ以前に高圧高温の下で処理され、その状態が維持されているので(本願発明の要旨)、原料の組織は弛緩しており、したがつて、デイスク間隙を周知の(通常の)前処理を施した原料を処理する場合よりも広げ、そのため、原料に対するリフアイナー自体による離解、叩解作用は弱められるとしても、高圧高温下の条件と相まつて、従来、リフアイナーに要求されていた程度の離解作用は充分に奏せられると考えられる。

そして、前認定のとおり、本願発明の特許出願についての優先権主張日前において、対向デイスク間隙を、使用条件に応じて〇・一cm以上にすることは当業者にとつて周知の事項であつたのであるから、最適条件を求める間隙調整の際に、本願発明のように、デイスク間隙を「少なくとも〇・一cm」に設定するようなことは、当業者ならば必要に応じて容易にすることができると認められるのであつて、この点についての審決の判断に誤りはない。

2 取消事由2について

審決は、本願発明と第一引用例のものとを対比し、その相違点の(2)として「本願の発明は、向い合つた精製面の間で、繊維材料を繊維束及び単繊維にし、しかる後、上記単繊維成分を比較的無傷でしかも長くて良好な状態を維持するのに対し、第一引用例には、均等な品質で強靱な繊維質パルプが得られることだけが記載されている。」としている。

ところで、本願発明の構成要件のうち、「対向した一対の精製面との間に繊維材料を導入し、精製面が上記材料に作用するようにして、上記材料を繊維束及び単繊維にし、しかる後、上記単繊維成分を比較的無傷でしかも長くて良好な状態を維持してケーシングの外へ取り出す」という点については、そのうち「精製面との間に繊維材料を導入し、精製面が上記材料に作用するようにして、上記材料を繊維束及び単繊維にし」という点は、パルプ原料をリフアイナーにかけた場合、多少の差異はあつても、当然の構成ないし作用効果であるし、また、リフアイナー内部で加工されたパルプはいずれケーシングの外へ取り出される工程を経ることも当然であるから、これらの点は第一引用例のものと差異はないのであつて、審決が指摘した前示(2)の相違点は、実質上、本願発明が「単繊維成分を比較的無傷でしかも長くて良好な状態を維持してケーシングの外へ取り出す」のに対して、第一引用例のものは、均等な品質で製紙原料としては強靱な点において優良なパルプを製造するものであるという相違に過ぎないこととなる。

そして、第一引用例に「加圧密封状態を保持した繊維擦解器内へ繊維材料を導入して、高温高圧下で機械的擦解作用をうけるようにした後取出し、品質が均等で強靱な繊維質パルプを製造する方法」が記載されていること、本願発明と第一引用例のものを対比すると、両者は、加圧密封状態を保持した精製機のケーシングへ繊維材料を導入して上記材料を精製する方法において、高圧高温下で精製してケーシングの外へ取り出すようにした精製方法である点で一致することは原告の自認するところであつて、いずれの場合でも、パルプ原料は高圧高温の下で処理され、その状態を維持したまま密封されたリフアイナーのデイスク間隙に送り込まれることが前提条件となつているのであるから、繊維材料は、いずれもリフアイナーにかかるときには、既に繊維組織が弛緩し、外部からの機械的作用によつて繊維束及び単繊維に離解し易い状態にあることは容易に推認できるところである。

審決は、当然、この状態にある繊維材料に対するリフアイナーの離解、叩解作用について、「上記単繊維成分を比較的無傷でしかも長く良好な状態を維持して外部に取り出す」ことは、「第二引用例のもの及び上記周知の事実から……容易にしうる」としているものと理解されるから、繊維材料を高圧高温の下でリフアイナーにかける条件を無視し、繊維材料の種類、濃度及び抄造する紙の種類に応じデイスク間隙を調整する手段のみに基づいて、「……容易にしうる」としているものではない。

ところで、リフアイナーのデイスク間隙を狭くすると、原料に対する叩解作用に切断の傾向が強まり、得られるパルプ繊維が短かくなること、一般に、パルプはその繊維の長さが長いと抄紙した紙の強度、殊に引裂き強さが大きくなることは、いうまでもないことであり、周知の事項でもある(なお、例えば、前掲「製紙工学」第一八九頁、第一二〇頁~第一二二頁参照)から、これを第一引用例のものに基づいて得られるパルプが「強靱な繊維質パルプ」であることと考え併わせると、第一引用例の繊維擦解器の精製面間隙の広さは、従来周知の処理手段を経て得られるパルプ原料を処理する場合に比べて、狭いものであつてはならず、また、そうしたところで(より広くしても)、高圧高温の下におけるパルプ原料に対する離解、叩解作用が周知手段のものに比して弱まることはなかつたものと推認することができる。

第一引用例の繊維擦解器が右のようなものである以上、本願発明において、「単繊維成分を比較的無傷でしかも長くて良好な状態を維持して取出す」手段として、ダブルデイスクリフアイナーの周知のデイスク間隙を、少なくとも〇・一〇cmの距離とし若干広くするようなことは、第二引用例(二つのデイスクが相対的に反対方向に回転し、可変的間隙を有しているダブルデイスクリフアイナー)及び周知のデイスク間隙の広さ(〇・一mm~七・〇mm)に基づいて、当業者ならば容易にしうることというべきであつて、この審決の判断に誤りはない。

原告は、リフアイナーのデイスク間隙を広げることはリフアイナーの離解、叩解作用を弱めるものであるから、本願発明の単繊維成分を「比較的無傷でしかも長くて良好な状態を維持してケーシングの外へ取り出す」手段を第二引用例及び周知の事項から容易に導き出すことはできない旨主張するが、前述のとおり、本願発明の構成要件のうち、繊維材料を高圧高温の下で処理し、その状態を維持して密封されたリフアイナーのデイスク間隙に導入するという点は、第一引用例及び第二引用例において本願発明の特許出願についての優先権主張日前に公知であり、本願発明と右引用例のものとの比較に当つては、当然、この種の工程が前提となつているのであり、繊維材料の組織は弛緩した状態でデイスク間隙に導入されるのであるから、本願発明がデイスク間隙を広げたとしても、繊維材料に対するリフアイナーの相対的離解、叩解作用が低下することはなく、他方、デイスク間隙を広くすることにより、切断作用が弱まり、離解した繊維束及び単繊維を短かくする傾向が小さくなつて、本願発明の目的を達成することができるものであることは明らかであるから、原告の主張は当らない。

以上のとおり審決の取消を求める原告の主張はすべて理由がないので、本訴請求は失当として棄却することとする。

〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

加圧密封状態を保持した精製機のケーシング内へ繊維材料を導入して上記材料を精製する方法において、少なくとも〇・一〇cmの距離をおいて対向した一対の精製面との間に上記繊維材料を導入し、高圧高温下で精製面が上記材料に作用するようにして精製面の両方を相対的に反対方向へ回転させ、向い合つた精製面との間で上記材料を繊維束及び単繊維にし、しかる後、上記単繊維成分を比較的無傷でしかも長くて良好な状態を維持してケーシングの外へ取り出すようにしたことを特徴とする二重円盤型精製方法。

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