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東京高等裁判所 昭和53年(行ケ)90号 判決

一 請求の原因事実中、本願意匠について、出願から審決の成立に至るまでの特許庁における手続の経緯及び審決の理由に関する事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について考察する。

1 本願意匠の要旨及び引用意匠について

(一) 成立に争いのない甲第二号証(本願意匠の図面)によれば、本願意匠の要旨は、別紙図面のとおり、

(1) 短円筒形の筐体下端に鍔状に円形の取付座部を設け、上部に球体押え盤とその内部に嵌合して球体を設け、

(2) 筐体は、直径一〇、高さ約三・三の比率であり、その取付座部の直径は筐体の直径の約一・三倍で、二個の小円孔が直径の両端近くに相対して穿たれており、

(3) 球体押え盤は、筐体上部に二本のプラスねじくぎによつて密設され、その形状は、周縁が外反りにアールをつけてあり、直径が筐体と等しいリング状の盤であり、中央がさらに小リング部として二重に突出し、

(4) 球体は、この小リング部の中に嵌合され、上部の約四分の一強の部分が露出し、

(5) 正面形状における全体及び球体露出部の各高さは、それぞれ筐体直径の約一〇分の六、約一〇分の一であり、

(6) 小リング部の内径、外径は、それぞれ球体押え盤の平坦部の直径の約五分の二、約五分の三であり、

(7) 球体露出部の高さは、球体押え盤の高さより幾分高いが、いずれも筐体の高さの約五分二、正面形状における全体の高さの約一〇分の二であり、小リング部の高さは、球体押え盤の平坦部の高さの約二分の一であり、

(8) 平面形状において四つの同心円が表われるものであることが認められる。

(二) 成立に争いのない甲第三号証(引用意匠の写真)及び引用意匠の実施品であることについて当事者間に争いのない検甲第二号証によれば、引用意匠は、別紙写真のとおり

(1) 短円筒形の筐体下端に鍔状に変形菱形の取付座部を設け、上部に球体押え部とその内部に嵌合して球体を設け、

(2) 筐体は、取付座部の中央部に位置し、その取付座部の相対する二辺を円弧状にし、両円弧の交わる三角状部のほぼ中央に一個ずつ小円孔が穿たれており、

(3) 球体押え部の形状は、直径が筐体のそれよりやや小さく周縁が外反りにアールをつけた斜壁状のリングであり、

(4) 球体は、このリングの中に嵌合され、上部が一部分露出し、

(5) 正面形状における全体及び球体露出部の各高さは、それぞれ筐体直径の約一〇分の七、約一〇分の二であり、

(6) 筐体は、直径一〇、高さ約四の比率をなしており、取付座部の最長径、最短径は、それぞれ筐体直径の約一・六倍、約一・二倍であり、

(7) 球体押え部は、筐体の上部にこれと一体になつて設けられており、

(8) 球体押え部の内径、外径は、それぞれ筺体直径の約二分の一、約四分の三であり、

(9) 球体露出部の高さは、球体押え部の高さの約二倍、筐体の高さの約五分の二、正面形状における全体の高さの約一〇分の三であり、球体押え部の高さは、筐体の高さの約五分の一であり、

(10) 平面形状には、変形菱形の内側に三つの同心円が表われるものであることが認められる。

2 本願意匠と引用意匠との対比について

(一) 両意匠が、(イ)短円筒形の筐体下端に鍔状に取付座部を設けたこと、(ロ)上部に球体押え盤とその内部に嵌合して球体を設けたこと、(ハ)球体押え盤から球体を一部露出させたことの三点につき共通点を有することは当事者間に争いがない。

(二) そして前記1によれば、両意匠について次の相違点を挙げることができる。

(1) 本願意匠について正面形状における全体の高さは、筐体直径の約一〇分の六であるのに対し、引用意匠について正面形状における全体の高さは、筐体直径の約一〇分の七である。

(2) 本願意匠の筐体は直径一〇、高さ約三・三の比率であり、取付座部の直径は筐体直径の約一・三倍であるのに対し、引用意匠の筐体は直径一〇、高さ約四の比率であり、取付座部の最長径、最短径は、それぞれ筐体直径の約一・六倍、約一・二倍である。

(3) 本願意匠の球体押え盤は、筐体上部に二本のプラスねじくぎによつて密設され、直径が筐体と等しいリング状の盤であり、中央がさらに直径の約五分の三の外径、約五分の二の内径を有する小リング部分として二重(二段)に突出し、小リング部の高さは球体押え盤の平坦部の高さの約二分の一であり、球体押え盤全体の高さは筐体の高さの約五分の二であり、そのうち小リング部の高さ、平坦部の高さは、それぞれ筐体の高さの約一五分の二、約一五分の四であるのに対し、引用意匠の球体押え部は、筐体の上部にこれと一体になつて設けられており、一段の斜壁状のリングであり、その内径、外径は、それぞれ筐体直径の約二分の一、約四分の三であり、その高さは、筐体の高さの約五分の一である。

(4) 本願意匠の球体露出部は、その高さが正面形状における全体の高さの約一〇分の二であり、その直径(小リング部の内径に対応するもの)が筐体直径の約五分の二であるのに対し、引用意匠の球体露出部は、その高さが正面形状における全体の高さの約一〇分の三であり、その直径(球体押え部の内径に対応するもの)が筐体直径の約二分の一である。

(5) 本願意匠の平面形状に四つの同心円が表われるのに対し、引用意匠の平面形状には変形菱形の内側に三つの同心円が表われる。

(三) ところで、成立に争いのない甲第四号証及び弁論の全趣旨によれば、両意匠に係る物品である運搬用回転車は、基盤上に多数個取付けて無方向性の荷物運送路ないし運搬具を形成し、コンベヤーなどとして使用されるものであることが認められる。そうすると、荷物を運搬するためには球体が必要であり、球体を嵌合するとともにこれを支承するための筐体が必要である。また、球体の抜け落ちるのを阻止するために球体押え盤又は球体押え部を筐体上部に設けることも必要であり、球体の一部を球体押え盤又は球体押え部から露出させることは使用目的から当然のことである。さらに、この物品を基盤に取付けるためには、鍔状取付座部を筐体の下端に形成することも必然的に要請される事項である。そうすると、前記(一)の両意匠の共通点は、筐体が短円筒形である点を除いて、運搬用回転車において本来機能的に要請される物品固有の形態であり、両意匠において、さして看者の注意をひく点であるとも考えられない。そして、右の共通点のうち筐体の短円筒の形態とても、運搬用回転車が極めて簡単な構造であることを考えるならば、筐体も簡単に、短円筒形に構成することは極めて自然なことであるから、この短円筒形の共通点が強く看者の注意をひくとも考えられない。そして、両意匠を全体的に観察するときは、

(1) 前記(二)(1)により、正面形状における全体の高さが筐体直径に対して、本願意匠は約一〇分の六であるのに対し、引用意匠は約一〇分の七であること、

(2) 前記(二)(3)、(4)によれば、本願意匠の球体押え盤の平坦部は、平坦なリング状をなしており、この平坦部と小リングとの境界が明瞭に看取され、右平坦部と筐体とが一体となり、その上表面の中心部で面積において約二五分の九(五分の三×五分の三)のところから、小リング部と球体とが一体となつて上方に突出するような印象を看者に与えるのに対し、引用意匠においては、筐体の上表面の中心部で面積において約一六分の九(四分の三×四分の三)のところから、球体押え部と球体とが一体となつて上方に突出するような印象を看者に与え、しかも、前掲甲第二号証によれば、平面形状における本願意匠の球体と小リング部との高さは、筐体と球体押え盤の平坦部との高さの約五分の二であることが認められるのに対し、前掲検甲第二号証によれば、引用意匠の球体と球体押え部の高さの合計は、筐体の高さの約三分の二であることが認められること、

(3) 前記(二)(4)により、球体露出部の高さが平面形状における全体の高さに対して、本願意匠においては約一〇分の二であるのに対し、引用意匠においては約一〇分の三であること、

の相違点が前記(一)の共通点を凌駕して、本願意匠は、上部球面部分(球体と小リング部)と下部円筒部分(球体押え盤の平坦部と筐体)との対照が鮮明であり、球体が、他の部分に比較し相対的に小さく感ぜられ、筐体内にかなり没入した状態で装嵌されているとの印象を看者に与えるとともに、全体の重心が下方にあり、重厚な感を抱かせるのに対し、引用意匠は、球体、球体押え部及び筐体(上端にはアールがある。)が連続的に、円滑につながり、球体が、他の部分に比較しそれほど小さく感ぜられず、かなり突出した状態で筐体に装嵌されているとの印象を看者に与えるとともに、全体の重心が上方にあつて軽快な感を抱かせ、両意匠は看者に非類似の感を与えるに至つている。

3 以上により、両意匠は全体として互いに非類似のものであり、両意匠が互いに類似し本願意匠は登録することができないとした審決の判断は誤りであつて、審決は違法として取消されるべきである。

三 よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を正当として認容する。

〔編註その一〕 本件における審決理由の要点は左のとおりである。

本願意匠の要旨は、基本形状は、短円筒形の筐体下端に鍔状に円形の取付座部を設け、上部に球体押え盤とその内部に嵌合して球体を設けた構成であり、筐体は、直径一〇、高さ約三・三の比率の短円筒形で、その下端には直径の約一・三倍で鍔状に張り出し、二個の小円孔を穿つた円形の取付座部が設けられ、球体押え盤は、筐体上部に二本のプラスネジによつて密設され、その形状は、周縁がアール状になり直径が筐体と等しいリング状の盤であり、中央がさらに直径の約五分の二の小リング状の盤で二重に突出した態様であり、球体は、この小リング状の盤の中に嵌合され、上部の約四分の一強の部分が露出した態様となつているものである。

これに対し、特許庁受入昭和四三年一〇月二八日の国内雑誌「生産と運搬」一九六八年一一月号広告第二四頁所載のポールトランスの意匠(以下「引用意匠」という。)の要旨は、基本形状は、短円筒形の筐体下端に鍔状に変形菱形の取付座部を設け、上部に球体押え盤とその内部に嵌合して球体を設けた構成であり、筐体は、短円筒形でその下端に鍔状に張り出し、相対する二辺を円弧状にし、二個の小円孔を穿つた変形菱形の取付座部が設けられ、球体押え盤は、筐体上部に密設され、その形状は、直径が筐体よりやや小さく周縁がアールのついた斜壁状のリングであり、球体は、このリングの中に嵌合され、上部が一部分露出した態様となつているものである。(別紙写真参照)

両意匠の共通点は、短円筒形の筐体下端に鍔状に取付座部を設け、上部に球体押え盤とその内部に嵌合して球体を設けたという基本構成と球体押え盤から球体を一部露出させた点とである。

両意匠の相違点は、取付座部の形状の若干の相違、球体押え盤の二重と一重の相違などである。

以上の諸点を総合して両意匠を全体的に観察すると、共通点が両意匠のほぼ全体的な構成に関するものであるのに反し、相違点は取付座部とか球体押え盤など部分的なものであり、たとえ取付座部に円形と変形菱形の相違があるにしても、この変形菱形は相対する二辺が筐体円周に沿つた円弧状になつているので、より円形に近い形状であり、また、球体押え盤も周縁をアール状にしたリングという点では共通するから、これらの相違点が共通点を凌駕して看者に非類似感を与えるまでには未だ至つていない。

したがつて、両意匠は、全体として互いに類似し、本願意匠は、意匠法第三条第一項第三号の規定によつて登録を受けることができない。

〔編註その二〕 本件に関する意匠は左のとおりである。

別紙図面

<省略>

別紙写真

<省略>

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