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東京高等裁判所 昭和53年(行ス)3号 決定 1978年3月31日

抗告人 黒川芳正

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の要旨は、抗告人が東京拘置所長を被告として提起した東京地方裁判所昭和五二年(行ウ)第二二号の四懲罰処分取消等請求事件につき、裁判官三好達は裁判長として裁判官菅原晴郎、同山崎敏充は陪席判事として関与審理しているところ、これら裁判官は抗告人申立てに係る前文掲記の同裁判官らに対する忌避申立事件につき昭和五三年二月二〇日申立却下の決定をしたが、これは、民訴法四〇条に違反するばかりでなく憲法にも違反するので、原決定を取り消し、さらに相当の裁判を求めるため、本件抗告に及んだ、というのである。

しかし、記録によれば、抗告人は、前記懲罰処分取消等請求事件において、右三名の裁判官に対し、(1) 昭和五二年六月八日、同事件は、もともと抗告人が荒井まり子、浴田由紀子、片岡利明、大道寺あや子及び大道寺将司と共同で提起したものであったところ、同裁判官らによって各原告毎に分離して審理判断されることになったのを不服とし、該訴訟指揮上の措置が被告を一方的に利する予断と偏見に満ちたものであるということを理由として、(2) 同年一一月二五日、同裁判官らが抗告人の執拗なまでの分離決定理由開示の要求に応ぜず、抗告人を退廷させたままで弁論を終結したことに対し、裁判官としての適格性を欠くことを理由として、(3) 昭和五三年一月一三日、同裁判官らが抗告人の弁論再開の申立てを容れないことが公開の対審を受ける権利を不当に奪う不公平な訴訟指揮であるということを理由として、忌避の申立てをなし、その都度却下されたにもかかわらず、(4) さらに、昭和五三年二月一四日、同裁判官らが抗告人の期日変更の申請を無視し、抗告人不出頭のままで判決の言渡しをしようとしていることが民訴法三七条所定の忌避事由に該当するという理由で忌避の申立てに及んだので、同裁判官らにより、該申立てが忌避権の濫用であるとして、前記却下の決定がなされるに至ったことを認めるのに十分である。

ところで、民訴法四〇条は、忌避された裁判官がその裁判に関与することを禁じているが、この規定は、忌避権が正常に行使される通常の場合を前提としたものであって、本件におけるごとく、単に裁判官の訴訟指揮を非難、攻撃する(違法な訴訟指揮に対しては、上訴等の方法により、当該訴訟手続内で救済を受け得る途が開かれている。)にとどまり、同条所定の「裁判ノ公正ヲ妨クヘキ事情」に該当しないことが申立理由自体に徴して明らかな事由を挙示し、数次にわたって忌避申立てを繰り返えすがごときことは、訴訟進行の阻害を目的とする以外の何ものでもないのであるから、右の規定にもかかわらず、忌避された裁判官は、訴訟指揮権の作用として、自ら右申立てを却下することができるもの、といわなければならない。

その他、記録を精査してみても、原決定に違法は見い出し得ない。

よって、本件抗告は、これを棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 渡部吉隆 裁判官 渡辺忠之 柳沢千昭)

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