大判例

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東京高等裁判所 昭和54年(う)1609号 判決

被告人 飯田浩人こと飯田弘文

〔抄 録〕

所論は、要するに、原判決は、審判の請求を受けない事件について判決をしたものであるから、刑訴法三七八条三号後段所定の場合に該当し、仮にそうでないとしても、訴因変更手続を経ていないのに、訴因と異なる事実を認定したものであるから、判決に影響を及ぼすことの明らかな訴訟手続の法令違反を犯したものである、というのである。

そこで、記録を調査して検討すると、本件起訴状記載の公訴事実のうち、被告人に関する訴因は、「被告人は、関幸生、金清子、藤岡喜代子と共謀のうえ、行使の目的をもって、昭和五二年一二月七日、神奈川県川崎市川崎区渡田山王町一丁目七番地山王ハウス二〇三号金方において、委任状用紙一枚の氏名欄に『柳村貞子』と冒書し、引き続き、東京都大田区雪ケ谷大塚町七番九号城南信用金庫雪ケ谷支店において、情を知らない庄野隆夫をして、右用紙に、同柳村の所有にかかる同都世田谷区東玉川一丁目一一八番一の土地一筆及び同所所在の家屋一棟を成城建設株式会社及び大協建設株式会社に各二分の一の持分で売り渡した件につき、所有権移転登記申請に関する一切の権限を同庄野に委任する旨記入させたうえ、前記冒書にかかる『柳村貞子』の名下に不法に入手した『柳村』と刻した印鑑を冒捺し、もって同女名義の委任状一通を偽造し、同月八日、同都世田谷区玉川二丁目二三番三号東京法務局世田谷出張所において、同庄野を介して、情を知らない同出張所係官に対し、右偽造にかかる委任状を真正に成立したもののように装い、登記申請書及び不法に入手した同女の印鑑登録証明書などの関係書類とともに提出行使して、前記の所有権移転登記申請をし、よって、同係官をして、不動産登記簿にその旨各不実の記載をさせ、そのころ、これらを同出張所に備え付けさせて行使したものである。」というのであって、その罰条の記載によっても明らかなように、右は有印私文書偽造・同行使、公正証書原本不実記載・同行使の各罪の共同正犯としての訴因であることは明白である。

ところで、記録を精査してみても、右訴因につき何ら変更せられた形跡はないにもかかわらず、原判決は、「被告人が、信義を旨とし、誠実に業務を行うべき宅地建物の取引業者として、直ちにその取引の進行を一時中断させるか、少なくとも関幸生に対して前夜来の疑問について確かめる等、宅地建物の所有者あるいはその買受人らが後日不測の紛争にまきこまれることのないよう万全の配慮をなすべき義務があるにもかかわらず、そのまま本件不動産の売買契約を成立させ、たとえ偽造であっても必要な文書等を作成させて登記手続をも完了させようと決意し、関幸生らの共謀とはかかわりない被告人固有の意図から、関らの目論んでいる柳村貞子名義の委任状一通の偽造と同行使、及び本件不動産の所有権移転登記に関し、不動産登記簿に不実の記載をさせこれを備え付けさせて行使した犯行に、そのまま同席しながらこれに同調し、容認した」旨の事実を認定し、被告人につき有印私文書偽造・同行使、公正証書原本不実記載・同行使の単独犯の成立を認めていることは、所論の指摘するとおりであるから、原判決には、本件起訴状記載の訴因と異なる事実を認定した違法がある。

しかしながら、原判決が認定した事実は、いずれもその一部が訴因に記載されていないものの、訴因として掲げられた事実と実体法上一罪の関係にあるから、所論のように原判決が審判の請求を受けない事件について判決をしたものと解するのは相当でないが、原審における審理の経過に照らし、被告人に右認定事実について防禦を尽くさせたものとは認められないので、原判決には判決に影響を及ぼすことの明らかな訴訟手続に関する法令違反があるといわざるをえず、結局、論旨は理由がある。

(内藤 三好 石田)

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