東京高等裁判所 昭和54年(う)2061号 判決
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【判旨】
所論は、要するに、被告人が原判示の日時、場所において六五キロメートル毎時の速度で普通乗用自動車を運転したとする原判決の判示事実はその挙示する各証拠に照しても甚だ疑わしいのに、右事実を認めて被告人に対し道路交通法違反(速度違反)の罪責を問擬した原判決は重大な事実誤認を犯すものである、というのである。
そこで原審記録を調査し当審における事実取調の結果をも併せ検討すると、<中略>司法巡査作成のJRC速度測定カードその他の関係証拠を総合すると、原判示場所及び日時頃の本件速度違反車両の取締は、JRC光電式車両走行速度測定装置を使用し前示場所付近道路を中野方面から十条方面へ向かう車両に対し実施されたもので、その方法はA、B二点に七メートルの間隔を置いて各直射赤外光を送受信する光電式検出器を設置し、その付近に監視係が位置し、A点から十条方向246.4メートルのC点付近及びC点から同方向一〇メートルのD点付近に順次記録係及び停止係が位置し、あらかじめ一定の速度に装置をセットし、押しボタンによりスイッチを入れると所定の速度以上の速度でAB二点間を通過走行する車両があつた場合に二個の直射赤外光を遮断することにより自動的にブザーが鳴るとともにその速度を測定する装置が作動し、同時に記録係の位置するところに設置された印字装置が連動して速度測定用紙に車両の速度が印字顕出される仕組になつていて、右ブザーが鳴ると監視係は速度違反車両の車種、車両番号等を確認して記録係及び停止係に通報し停止係は右通報により違反車両を停止させ取調係において違反者の取調にあたることとされていること、右速度測定装置は端数が切捨てられて速度が表示されるので実際の車両走行速度より一キロメートル毎時以下の範囲で少なめに速度が記録されることがあるが、実際の車両走行速度を超える速度が表示されることはないこと、本件当時速度測定装置は六〇キロメートル毎時以上の速度に反応するようにセットされていたが監視係松下治男巡査において原判示日時刻ころ片側二車線の原判示道路第一通行帯(歩道側走行車線)を中野方面から十条方面へ向かつて走行接近してくる車両を認め、交通取締の経験上目測で同車両が前記の取締対象速度を超過する速度で走行しているものと判断されたのでボタンを押して右装置を作動させ同車両を注視していたところ、同車両がA、B点間を通過したとき速度測定装置のブザーが鳴つたので直ちに車種等を確認し、記録係及び停止係に「外車、ムスタング、七三七」と通報し取締対象車両の存在とその車種、車両番号等を知らせたこと、一方記録係の速度測定記録用紙に同車の走行速度が六五キロメートル毎時(65Km/h)と印字顕出されたこと、そして停止係波戸憲一巡査は監視係からの通報を受け待機していたところ、折から同巡査の方へ接近走行してくる被告人運転の車両が通報内容と車種、車両番号が一致していたところから同車両を停車させて被告人を降車させたが、被告人が速度違反を現認していないものが切符を切るのはおかしい等と申し述べたので速度測定にあたつた監視係巡査の松下治男が記録係のもとに赴いて交通事件原票を作成したこと、以上の事実が認められ、<証拠判断略>、叙上認定の事実によれば被告人が本件当時原判示場所付近道路において六五キロメートル毎時の速度で自動車を運転したことはその証明が十分であつて原判決に事実の誤認があるとは認められない。
以下所論にかんがみ若干補足する。
1 所論は、速度違反車両が被告人車のかげになつていたため、監視係が速度違反車両を現認することができず、被告人車を速度違反車両と取り違えて通報した可能性があり、また、被告人は本件現場付近の道路事情にうとい女婿の国井昭美が運転する自動車を先導していたから後続車を配慮し速度にも気をつかうのが自然で速度違反をするとは思われないし、松下治男ほか検察官申請の各証人が右国井の運転する車両の存在について言及していないのは不自然でその各証言は措信できないなどと主張するのであるが、前示のとおり監視係松下治男巡査は経験上接近走行して来た本件車両の速度が取締対象速度を超過していると目測で判断して速度測定装置のスイッチを入れ同車両がA、B点間を通過しブザーが鳴り、走り去るのを視認しつつその車種、車両番号等を確認し、記録係、停止係に通報し、しかもその後も右車両の行動を目で追い同車両がD点付近で停止係に停止させられるまで引き続き注視していたことが明らかであつて、その間に、同巡査が車両を取り違える可能性があるとは認められないし、監視係巡査松下治男の当審及び原審証言、停止係巡査波戸憲一の原審証言によれば当時被告人車の後方約一〇〇メートルを同方向に走行する車両があつたほか被告人車の前後を走行する車両はなかつたことが認められ、なお右松下治男は、被告人車の後方を注視していたとき右の車が第二通行帯(中央線側走行車線)を追随して行つたがそれは赤つぽいライトバンであつたと思う旨、また右波戸憲一は、被告人車を停止させ、誘導をはじめようとした寸前に赤つぽいライトバンか乗用車が被告人車の傍を通過して行つた旨それぞれ具体的に一致した証言をするから、右の点の各証言の信憑性は高く、さらに右松下治男は被告人車の後方から国井運転の車両と思われる外車が走行してきたがその車は被告人車のずつと後から来た旨国井運転の車両と推測される車両の存在についても言及して証言しているのであり、しかも前示のように右松下は専ら違反車両である被告人車を注視していたことが明らかで他の後続の車両に対する注意力は薄かつたと認められ、従つて右松下の後続車についての認識に若干明確でない部分があるとしてもその証言の全部について信憑性に疑いがあるとすることはできず、これに対比すると、右各証言に反し所論に添う趣旨の前掲被告人の関係各供述ないし供述記載、国井昭美の原審証言は前記のとおり措信できないから所論を採用することはできない。
(千葉和郎 永井登志彦 中野保昭)