東京高等裁判所 昭和54年(う)23号 判決 1979年7月23日
主文
本件控訴を棄却する。
理由
本件控訴の趣意は、弁護人柴山圭二、同近藤彰子共同作成名義の控訴趣意書に、これに対する答弁は、検察官鈴木薫作成名義の答弁書にそれぞれ記載されたとおりであるから、これらを引用する。
一 所論第一点(法令適用の誤りを主張する論旨)について
所論は要するに次のように主張するのである。すなわち、原判決は、「被告人は、料理飲食等消費税(以下料飲税と略称する。)の特別徴収義務者たる旭日産業株式会社(以下単に旭日産業という。)の業務に関し、料飲税の納入をしなかつたいわゆる行為者にあたる。」として、原判示罪となるべき事実を認定し、これに対し地方税法一二二条一項、四項を適用した。しかし、同条一項はもつぱら特別徴収義務者に対する罰則規定であるところ、東京都においては、同法一一九条一項に従い、東京都都税条例五四条一項で、料理店等の経営者を特別徴収義務者と定めているので、本件の場合、特別徴収義務者は原判示キヤバレーの経営主体である旭日産業ということになり、被告人は特別徴収義務者にあたらない。したがつて、被告人を地方税法一二二条一項によつて処罰することはできないはずである。また、同条四項はいわゆる両罰規定であるところ、一般に両罰規定は業務主体処罰の規定であり、行為者は各本条の罰則規定によつて処罰されるのであつて、行為者が両罰規定中に存する「行為者を罰する外」なる文言によつて処罰されることになるわけではない。したがつて、地方税法一二二条四項によつて処罰されるのは業務主体のみであり、行為者は同条項によつても処罰されることはないのである。すなわち、地方税法一二二条一項、四項、一一九条一項、東京都都税条例五四条一項のもとでは、特別徴収義務者でない行為者を処罰することはできないのである。そうであるにもかかわらず、単なる行為者としての原判示被告人の行為に同法一二二条一項、四項を適用した原判決には明らかに判決に影響を及ぼすべき法令適用の誤りがある、というのである。
そこで、所論について検討してみるのに、地方税法一二二条一項に「第百十九条第二項の規定によつて徴収して納入すべき料理飲食等消費税に係る納入金の全部又は一部を納入しなかつた特別徴収義務者は、三年以下の懲役若しくは百万円以下の罰金若しくは科料に処し、又は懲役及び罰金を併科する。」とあるのは、右納入義務に違反した特別徴収義務者を処罰する規定と解するのが相当であるけれども、同条四項には「法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者がその法人又は人の業務に関して第一項又は第二項の違反行為をした場合においては、その行為者を罰する外」と定められており、同法に定められた料飲税の徴収確保の必要性に鑑みれば、同条四項所定の法人の代表者又は法人若しくは人の従業者が、法人又は人の業務に関し、同法一二二条一項に該当する行為をした場合には、同条四項の前記引用の規定によつて処罰されることになるものと解すべきである(両罰規定が、特定の者を処罰対象者とした本条の罰則規定と相俟ち、行為者処罰の根拠規定になるとの判断を示した最高裁判所昭和三〇年一〇月一八日第三小法廷決定・刑集九巻一一号二二五三頁、昭和三四年六月四日第一小法廷決定・刑集一三巻六号八五一頁、昭和四三年四月三〇日第三小法廷決定・刑集二二巻四号三六三頁等参照)。してみると、被告人は料飲税の特別徴収義務者たる旭日産業の業務に関し、料飲税を納入しなかつたいわゆる行為者にあたるとの認定に立つて、これに対し地方税法一二二条一項、四項を適用した原判決の法令の適用は正当である。論旨は理由がない。
二 所論第二点(事実誤認を主張する論旨)について
所論は、要するに次のように主張するのである。すなわち、原判決は「被告人は、原判示キヤバレーを経営する料飲税の特別徴収義務者たる旭日産業が利用者から徴収して納入すべき料飲税を納入しなかつた際、右納入をしなかつた地方税法一二二条四項にいわゆる行為者にあたる。」と認定した。しかし、旭日産業においては、料飲税の納入事務を直接担当していたのは同会社の経理部長市万田晴弘であり、被告人は料飲税の納入事務を直接担当していなかつたことはもちろん、料飲税の納入に関し右市万田を指揮したこともなかつたのであるから、被告人はいわゆる行為者にはあたらない。したがつて、原判決にはこの点につき事実の誤認があり、この誤認が判決に影響を及ぼすことが明らかである、というのである。
そこで、所論について検討してみるのに、原判決挙示の証拠、殊に原審第二回公判調書中証人市万田晴弘、同長坂善三郎の各供述部分及び被告人の検察官に対する各供述調書によれば、本件犯行当時、原判示キヤバレーを経営する旭日産業においては、料飲税納入事務は、同会社の代表者である被告人の命により、同会社経理部長市万田晴弘の担当事務となつており、同人は、同会社総務部長長坂善三郎らとも相談しながら、補助職員をも使つて料飲税の徴収、記帳、計算、納入申告書の作成・提出、料飲税の納入にあたつていたこと、当時、被告人は、同会社へは月に一度くらいの割合でしか出社せず、料飲税の申告・納入事務を含め、会社の営業活動の具体面にはたずさわつていなかつたが、同会社は被告人のいわゆるワンマン会社であつて、社内では絶対的ともいえる実権を有しており、会社の営業全般につき頻繁に右長坂、市万田らから報告を受けて常時これを掌握し、必要な指示を与えていたこと、被告人は、料飲税の納入に関しては、かねてより、右市万田に対し、料飲税はいわゆる公給領収証発行分だけを申告・納入することとし、公給領収証の発行をできだけ抑えるようにとの方針であたらせてきており、昭和四〇年一一月に旭日産業を設立して以来、本件までにも三回くらい都から料飲税の賦課徴収に関する調査、税額等の更正を受けたが、被告人はそれでも右方針を変えず、本件当時も、市万田は被告人から示された右方針に従つて料飲税納入事務の処理にあたつていたことがそれぞれ認められ、右認定に反する原審第三回公判調書中被告人の供述部分は前掲の証拠に照らして信用できない。そして、右の事実関係によれば、被告人は、右市万田ら従業員をいわば手足として使用し、自らの意思で料飲税を納入しなかつたものと認められるから、被告人を料飲税不納入のいわゆる行為者にあたると認定した原審の判断に誤りはない。論旨は理由がない。
三 所論第三点(量刑不当を主張する論旨)について
所論は、原判決が被告人に言い渡した罰金八〇〇万円につき、右罰金不完納の場合における労役場留置の期間を金二万円を一日に換算した期間と定めたのは、換算率が低きに過ぎ、留置期間が長過ぎて不当である、というのである。
そこで、所論について検討してみるのに、罰金不完納の場合における労役場留置の期間を刑法一八条の法定期間の範囲内において何円を一日に換算して定めるかは、判決裁判所の裁量に属するものと解されるところ、本件の罪質、態様および罰金額等を総合勘案すると、原判決の定めた換算率が低きに過ぎ、労役場留置期間が長過ぎて不当であるとは認められない。論旨は理由がない。
よつて、刑訴法三九六条により本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。