東京高等裁判所 昭和54年(う)2634号 判決
所論は、被告人曽根の関係について、原判決には判決に影響を及ぼすことの明らかな事実誤認があるとし、その理由の一として、右各被告人らの現行犯人逮捕手続は違法であり、右違法逮捕に基づく本件公訴提起は公訴棄却を免れないものである、というのである。
そこで、検討すると、所論は要するに、原判決が、弁護人らの主張に対する判断の項において「違法逮捕に基く公訴棄却の主張について」と題し説示している点につき、その事実認定ないし法律判断の誤りをいうものであつて、単なる事実誤認の主張としては失当というべきであるが、原判決の右説示について事実誤認ないし法令適用の誤りをいうもの、あるいは公訴を棄却しなかつた点における訴訟手続の法令違反をいうものと理解するとしても、被告人の逮捕手続が違法なものであるとは認められないとした原判決の判断は、結論において正当であり、その判断に事実誤認や法令適用の誤りがあるとは決して考えられず、また公訴を棄却しなかつた点に訴訟手続の法令違反があるとも考えられない。(中略)原判決の掲げる証人小田部憲二の原審における証言、司法警察員土屋一男作成の「逮捕した被疑者の写真撮影報告書」と題する書面、司法警察員小田部憲二作成の「現場写真による被疑者の発見報告書」と題する書面、各写真撮影報告書、原審において取調べた司法警察員加藤俊英作成の実況見分調書等の各証拠によれば、被告人曽根は、原判示の昭和四六年七月二七日午前一一時九分ころから、白ヘルメツトをかぶり、旗のついた竹竿を持つなどし、全学連の反戦グループに所属する多数の学生らと共に、原判示罪となるべき事実記載の場所付近(成田市駒井野字広田八八二番の四)において、原判示の警察官らと対峙し、時には警察官らに向つて竹竿をふり向け構えたりしていたこと、小田部憲二を含む千葉県警察の山形連隊喜多見大隊所属の警察官らは、同日正午少し前ころ、右現場の西方にある駒井野団結小屋付近(同市駒井野字張ケ沢一、一八七番の一、同所一、一九二番の一)に赴いた際、同小屋の南方にある空濠付近において白、赤、青などのヘルメツトをかぶつた多数の反対派集団が警察官らに対し投石などをしているのを現認し、その後右集団の者らを検挙すべく右空濠の北方に進み、前記被告人曽根らが対峙していた現場の北方にあたる造成中の道路内において、司法警察員小田部憲二が他の警察官の協力のもとに被告人曽根を公務執行妨害罪ならびに兇器準備集合罪の現行犯人として逮捕したこと、以上の事実が明らかに認められる。右事実によれば、右小田部憲二は、被告人曽根を前記空濠付近において警察官らに投石するなどしていた集団の一員と考えて逮捕したものと認められるから、同被告人の犯した具体的犯罪事実について誤認をしたものといわなければならない。しかしながら、被告人曽根につき同日午前一一時九分ころ以降兇器準備集合罪の成立が認められることは、前記認定事実から明らかであり、その犯行が同日正午すぎころまで継続していたと認められることは、原判決が、弁護人らの主張に対する判断の項において、違法逮捕に基く公訴棄却の主張についてと題し判示説明しているとおりであるから、前記小田部の逮捕行為の時点において右被告人につき少なくとも兇器準備集合罪による現行犯逮捕の要件は客観的に備わつていたものといわなければならない。そして、原判決が説示しているように、広大な地域内において、姿、形の似た多数の者が波状的、断続的に各所で同種の攻撃を警察官らに対しくり返したという本件事案の特殊性からすれば、逮捕警察官の主観において被逮捕者の犯行の具体的態様につき前記のような錯誤があつたとしても、その錯誤は逮捕手続を違法なものとみなければならないような瑕疵には当らないものと判断するのが相当である。従つて、被告人曽根についての逮捕手続も違法ということはできない。